第46談
戦いは太陽が一番高い時間に始まった。
わっと声をあげ、勇猛な神馬のいななきと共に、神仙たちは天から現れる。
十耳魔王の建物を囲んだ結界から、天に突き刺さる勢いで真っ直ぐに伸びる妖気の周囲を神仙達はぐるぐると周りながら、地上へと降りて行き、屋敷を取り囲む。
中にいる妖怪たちの姿は見えない。結界の中は光も差さないほど真っ暗で、まるでそこだけが月のない夜のようだ。星の様にまたたく光は妖怪達の目だろうか。ギラギラした目がこちらを見ているように見える。
荒々しい雰囲気の中、峰花は皆より高い位置で、ゆったりとした仕草で印を切る。その姿はまるで舞を待っているようで、横で見ている雪玲は見入ってしまう。
「峰花様……綺麗……」
「そうだな」
泰然は雪玲を自身の雲に乗せ、峰花を見ている。足の先には十耳魔王の結界がある。自身を貶めたものであり、師の仇でもある十耳魔王を倒したいと思うのは、当然のことだ。
だが、そう思うのは自分だけではない。十耳魔王は師である斉天大聖の愛おしい人である翠蘭を殺した仇、それは雪玲にとっても同様だ。
「雪玲は仇を討ちたいのか?」
「あたし?あたしはそうだな〜」
「俺は討つぜ?翠蘭の仇を」
割って入ってきた斉天大聖の口元はいつものように勝ち気に笑っている。だが瞳は、獲物を逃さないようにじっと睨みを利かせている。
「ふーん、じゃあ、勝負ですね!早い者勝ち!」
「道士の分際で生意気な――」
「そうだな、雪玲は俺から離れるなよ?十耳魔王は手強い相手だ。道士のお前では太刀打ちできない」
「あいよ!あたしが守ってあげるから、任せて!師匠にべったりくっついていくよ」
「お前――」
わきわきと指を動かす雪玲の目は、率直にいやらしい。こんな状況でも変わらない雪玲に泰然は呆れるを通り越して、頼もしいとすら思ってしまう。
「ああ、頼むな……」
「ふえ⁉︎な……なに、なに?師匠どうしたの⁉︎素直すぎない?なんか飲んだ?それともあたしの色気にやられた?でもあたしは師匠には興味が湧かないから、ごめんね!」
「私もお前だけはない!」
ふたりを見つめていた斉天大聖が、その視線を峰花に移した。
峰花は天に向かって、瓢箪を掲げた。瓢箪から七色に輝く光が放たれる。光は拡散し、十耳魔王の結界を包むこむ。そしてそれは緩やかに十耳魔王の結界を剥がしていく。さらに空を貫いていた妖気も、煙のようにふわり大気に溶ける。
ペリペリと剥がれるように結界は消えていく。そこから現れたのは狂気を宿した妖怪達だ。そのどれもが狂ったように声をあげ、神仙達に向かってくる。
神仙達は神馬を操り、それぞれが鬨の声をあげて妖怪達に向かっていく。ある者は大刀を使い、ある者は矛を使い、ある者は刀を使い、妖怪達を一掃していく。
「おかしいな……」
一番天に近い場所で見ている斉天大聖はぽつりと漏らす。
「なにが?」
「……確かにおかしいですね。私はここの妖怪達を一度見ましたが、あの様な姿ではなかった」
雪玲は妖怪達をじっと見る。
目が5つあるもの。鼻が3つあるもの。手が4本あるもの。あの妖怪は足が3本だ。
「妖怪ってあんな姿じゃないの?だって妖怪だもん」
「元々そういう姿のものもいるだろう。だがあれは突然変異のように思える。気の流れに違和感がある」
「十耳魔王の妖気にあてられて、変異したのかもしれないな」
「覚悟!」と声をあげて、飛んできた妖怪を、斉天大聖はサッと前に出て、その身体を如意金箍棒で串刺にした。串刺しにされた妖怪は、身体をびくびくと震わせ、あっと言う間に霧散する。だが、その際にポトリと何かが落ちた。咄嗟にそれを掴んだ斉天大聖は、ふたりに手のひらに乗せたものを見せる。
「それは?」
「毛だ……」
あらゆる生き物が混じった様な毛の塊が、モゾモゾと動き、斉天大聖を乗っ取ろうとするように、蠢いている。それを咄嗟に火で燃やし、灰となった毛を空へと送る。
斉天大聖は声を張り上げる。
「妖怪達は燃やし尽くせ!中になにかがいる‼︎」
神仙達はその言葉に応えるように、炎を掲げた。
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