第45談
激しく銅羅の音が鳴る。士気を高めるように太鼓の音が空に鳴り響く。神仙たちは声を掛け合い、互いの武功を更に高めようとする。彼らの甲冑は太陽の光を照り返し、その威光を表しているかのようだ。様々な武器を身に装着する様は、これから赴く戦いの凄惨さを物語っている。
「なんだか、神仙たちはすごい格好ですけど……」
雪玲は自分の姿を見た後に、泰然と峰花を見る。
雪玲はいつもの道士姿。泰然もいつもの仙衣だ。峰花だけはいつもより着飾っているが、それでも仙衣だ。つまり甲冑姿の神仙達と違い、3人はペラペラの服だ。
十耳魔王退治の総集があり、雪玲達は神界へと赴いた。
武将達は神界の都市の近くの雲の上に陣を張り、ここから一気に十耳魔王の館へと出立すると言う。
雪玲たちは神仙達から少し外れた場所で、3人ぽっちだ。仙界からは3人しか来ていない。代わって神界からは30人ほどの神仙たちが集まった。どちらにしろ少ない気がする……と雪玲は思ったが、神界の武官は50人だという。だとすれば半分以上はここにいることになる。
「妾たちの仙衣は仙女織姫が作ったものよ。あの甲冑よりもずっと丈夫だから安心しなさい」
「ああ、だから出立前にこれを着ろって峰花様が持ってきたんですね」
雪玲はチラリと峰花を見る。一緒に着替えようと言ったら断られた。それがとても残念だ。
「神界の神々の甲冑も神仙の傑作だ。私たちとは文化もなにもかも違うからな。私は双方を行き来していたから、面白いものだと思っていた」
「ふーん、でも師匠の修行は仙界寄りだよね?」
「お前は道士だからな?それよりも帰ったら、また修行の続きをするぞ?」
「うぇぇぇえ〜」
うんざりする雪玲は悪くない。あれからずっと布で縛られる修行を繰り返していた。昨日はぐるぐる巻かれすぎて、まるで蚕の繭のようになっていた。もう無理だ。と嘆いたが、まったく泰然は聞く耳を持ってくれなかった。
「雪玲の武器は?」
峰花の質問に、雪玲は目を瞬く。そういえば持っていない。でもそれは泰然も峰花も一緒だ。
その視線に気がついたのだろう。峰花は雪玲が聞く前に答えをくれる。
「妾達は武器を小さくして持っているわ。そもそも妾の主要の武器はこの羽衣よ」
峰花は背中にふわりと浮いた布を触る。
「私は双刀だ」
泰然が手を振ると、水色がかった刃の美しいふた振りの剣が現れた。
「……え?あたしは?」
翠蘭が首を傾げると、ふたりも首を傾げる。
どうやら何も用意されていないらしい。これはひどいと、抗議の声を上げようとした雪玲の目の前に棍が用意された。牡丹の意匠が施された棍は、黒地で、細く美しい。
「なんだ!師匠が用意してくれてんだ!」
奪うように受け取った雪玲は舞うように、右に左にと棍を振り回す。その姿はおもちゃを手に入れた子供の様だ。
「いや……」
泰然は言い淀む。これは出撃前に西王母が雪玲に渡せと言った武器だ。そしてこの棍に泰然は見覚えがあった。師であった万姫が西王母にと贈った武器。たしか万姫が作った武器のはずだ。その証拠に西王母が着る衣の色で、西王母が好む牡丹の花が描かれてある。
峰花も見覚えがあるのだろう。何か言いたげな視線を泰然へと送る。
だが子供のようにはしゃぐ雪玲を見ると何も言えない。西王母は仙女を束ねる存在だ。仙界の中でも術を極めた存在である彼女が、雪玲に託すということは何かがあると言うことだろう。
ふたりが互いに沈黙していると、金色の甲冑に身を包んだ斉天大聖が現れた。
「お!雪玲は良い武器を持っているな!」
「えへへへへー、師匠がくれました!綺麗でしょう?」
「確かに美しい武器だな。お前には過ぎたものでじゃないのか?」
「失礼です!これに相応しい美女になる予定だから問題ないじゃないですか!」
「予定は未定だ……と言いたいところだが、確かにお前は美女になるだろうな」
「ひぇっ!」
雪玲の顔は熟れた桃のように真っ赤になる。斉天大聖は男前なので言葉ひとつ、表情ひとつで翻弄されてしまう。
泰然はそんな雪玲を見て、こんなのではいつまでも経っても、色事などできそうにないと思い、呆れてしまう。
「そろそろ出発だ。俺達は神馬に乗って移動するが、仙人達はどうする?」
「いえ、妾たちは雲で行きますわ」
「これから戦争だ。悪いが七色の雲だの、芳しい芳香だのは遠慮してくれよな?」
峰花はため息をつく。
「妾達も道理は弁えておりますわ。あれは瑞兆……ですから、この場には相応しくないでしょう。……まぁ、だからと言って数を頼りにする神仙に負ける気はしませんわよ?」
「おお、さすが峰花娘娘は恐ろしいな、だが今回の戦いの要はあなただ。あの結界をよろしく頼む」
斉天大聖は深く頭を下げる。その姿を見て、峰花は瓢箪を取り出した。瓢箪の中には、坊主の霊がいる。十耳魔王が妖怪となる元となった坊主の霊が。
「もう、霊力の同調はすんでます。結界を壊して見せましょう」
そういう峰花は頼もしい笑みを皆に見せた。
戻って来ました!
頑張ります




