第44談
「師匠――――!あたしを置いていくなんてあり得ないから!」
再び身体に巻きつこうとする布を、ビリビリと裂きながら雪玲はふたりのもとにズカズカと歩いて近づく。その姿をふたりは感心するように見ている。
「おい、破いたぞ?」
「ええ、あの位は自力で抜け出さないと……それほど強い縛りではなかったので」
「え⁉︎師匠――どう言うこと?だって千里眼を強化するって……」
雪玲は怒り顔で泰然の顔に近づく。すると、泰然は雪玲の首根っこをグイッと掴み、まるで猫が子猫を運ぶように持ち上げた。
「その通りだ。そのためにはもっと、体内の気を練るようにしなければいけない。これはその為の基本の修行だ」
「はえぇ?じゃあ、この修行は終わり?だったら、あたしも十耳魔王退治に行きたいよ。姐姐の仇を討ちたい」
「俺は連れて行ってやっても良いが……どうする?泰然?」
「やったー!さすが斉天大聖様……話が分かる!」
泰然は喜ぶ雪玲を見て、次に斉天大聖を見る。
「ちなみに、出撃は何日後ですか?」
「そうだな、これから軍備を整えて、作戦を練るから、一週間後だな」
「分かりました――では峰花に伝えます」
「……師匠……あたしは?」
じっと上目遣いで雪玲は泰然を見る。その姿はまるで子供のようだ。斉天大聖はついつい笑ってしまう。
「ああ、雪玲も一緒に行こう……」
「やった!頑張るぞ!」
「だから……それまで修行だな?」
「ふぇ?」
雪玲の身体には再び、布が巻き付いていく。
「えー!!嘘、うそ、うそ!?これ。やだ!苦しいからやだ!」
しゅるしゅると巻き付いていく布に、雪玲は身体をバタバタして拒否するが、それは止まらない。
「次はもう少し強くするから頑張れ」
泰然が手を離すと、さらに雪玲の身体に布が巻きつき、身体がぐいっと宙に浮く。
「やだー!師匠のドS!変態!死んじゃう!あたし、まだ処女!未体験!斉天大聖様助けてよー!」
「うーん、そうは言われても修行だと言うからなぁ」
頭をかきながら、斉天大聖は上に上に昇って行く雪玲を見る。仙界の修行は変態行為に近いと思いながら。
「助けてください!あたしの処女あげるから!だから――
「あー、悪い。俺は翠蘭以外は抱かないって、誓ったから、お前の相手は無理だな。よって助けない!」
「わーん、嬉しいような複雑だ――ムゴゴゴゴムゴゴ」
ミノムシのようになった雪玲が体を右に左に振りながら、大声で何かを言っているが判らない。
クハハハと笑う斉天大聖の横で、泰然は滑らかに術を終わらせた。今度は先ほどより強い縛りだ。だが、自分はかつてこの修行を何日かけただろうと思うと、雪玲が末恐ろしくなる。そしてそれとは別に気になることもある。
「師父は……本当に翠蘭を探すんですね?」
「ああ、俺の妻は彼女だけだ。彼女がどんな姿になろうが、しつこく求婚し続けてやるさ」
斉天大聖の清々しい表情を見て、泰然は自分に問いかける。
果たして自分は本当に万姫様が好きだったのだろうか。彼女の希望を叶え、山を焼いた。自分は彼女が好きだった。だから追いかけて死ぬことを選んだ。なぜなら、姿が変わってしまったら、愛せる自信がなかったから。それは別の生き物だから。
だが斉天大聖は雪玲は生まれ変わっても関係ないと言って、その魂を探そうとする。ふたりは翠蘭の姿がどのように醜い生き物に変わっても、きっと同じように愛でるだろう。
「確か……輪廻には一年以上かかるんですよね?」
「そうだな、死んだ順に並んでくじ引きだ。冥府はいつだって大忙しだから、早くて一年だな」
そして、その時までに自分の術を更に磨き、転生した魂を見つけるようにしてみせると、斉天大聖は言って、その場を後にした。
自分もそれだけの相手に出会うことがあるのだろうか……泰然は空を見上げた。
ここから一気にエンディング……ですが、うまく書けなかったので少々お時間ください。
1週間後に投稿します。(たぶん)
引き続きお読み頂けると、幸いです。
よろしくお願いします。