第43談
甲冑姿の斉天大聖は宮中にその堂々とした姿を現した。
斉天大聖の目の前には広い階段があり、その上には三清が鎮座している。
三清とは元始天尊と、霊宝天尊、道徳天尊の3神のことで、神界を統べる神仙だ。仙界とは違い、明確に身分制度があるのが神界だ。故に斉天大聖は階下にて跪く。
斉天大聖の背後には武官である帝釈天など腕に覚えあるものが従い、左右には文官が並ぶ。
今回のことは地上を揺るがす大問題だ。そのため、大勢の神仙が息を呑み、三清の言葉を待つ。
立ち上がり、書状を読み上げたのは三清のひとり、道徳天尊だ。
「勅命を下す。斉天大聖は神界の軍を率い、地上を穢す十耳魔王を討つべし!」
「はっ!」
斉天大聖が一言大きく返事をすると、周囲が同調するように声をあげる。
「十耳魔王討つべし!」
「斉天大聖の出陣だ!」
「久しぶりの神界の軍の出撃だ!」
「勝ち鬨の声を轟かせろ!」
神界が揺れる勢いで神仙たちが声を出す。その声に応えるように斉天大聖が拳を挙げるとさらに声が鳴り響く。
「翠蘭の敵討ちだ……」
斉天大聖は誰にも聞こえないようにポツリと声を漏らした。
◇◇◇
「――と言うわけで神界は軍を動かすことになった」
師を迎えた泰然は、事のあらましを聞きながら、後方にいる雪玲をチラリと見る。
泰然は自身の山の麓で雪玲に修行をつけていた。翠蘭の一件はふたりの心に影を落としたが、そこは切り替えて雪玲は修行を頑張っている。また、翠蘭に会うために。
「そうなんですね、そんな忙しい中、私たちのところに来た訳は……」
「ム――――――――――!」
「ああ、お前は十耳魔王を世話した坊主の霊を瓢箪に住まわせているだろう?」
「ム――――――――――!」
「はい、そうです。お渡ししても良いのですが、十耳魔王は私にとっても因縁の相手。できれば私も参戦したいです」
「ム――――――――!」
「もちろんだ。今回の俺は神界の特使として来た。十耳魔王討伐のために、仙界の協力を要請する気だ」
「そう言う事であれば、喜んで参戦させてください。では、これから東王父と西王母のもとへ?」
「ああ、それは先んじて三清からおふたりに書状を送ったんだが、『仙界は基本的に地上にも神界にも関与する気はない』と断られてな」
「ム――――――――!」
「では……なぜ私の元へ?特使だと仰いましたよね?」
「これには続きがあってな、『仙人、仙女はそれぞれの判断で動く。行きたいものを止めることはない』とも書かれてあったんだ。だからお前を誘いにきたんだ」
「ム――――――――!」
「分かりました……そう言う事であれば峰花も誘ってはいかがでしょうか?峰花は、私と違って幅広く術が使えます。坊主の力を持って結界を解くのであれば、彼女の力を借りるべきでしょう」
「ム――――――――――!!」
「峰花は武にも通じる女傑だから良いかも知れん。お前から誘ってくれ――あ、うん、しかしあれだな……気になるな」
「ム――――――!」
「そうですか?」
泰然は平然とした顔をしているが、斉天大聖は苦笑いをする。
「いや――俺も知ってはいるぞ?仙界の道士の修行が厳しいことは。なんと言うか、まぁ神界と違って、自虐的言うか……うーん、なんと言えば良いのか……まぁ、俺達神仙には理解が及ばないことは確かだ」
「確かにそうですね、私は師父から修行をつけてもらいましたが、まるで人間に近い修行の形でしたね」
「ム――――――!」
「そう取るのか……確かに、俺たち神仙は弟子を取ると、手取り足取り戦い方だったり、術のやり方だったりを教えていく。神仙はマグマに落としたり、錘をつけて水中に沈めたりから始めるからな。だから理解が及ばないんだ。教えてくれ……泰然……今は雪玲に何の修行をつけているんだ?」
「今は千里眼を更に強化する修行です」
けろっとした顔で泰然は応える。その視線の先には雪玲がいる。布で全身をぐるぐるに巻かれ、さらに宙吊りになり、さらに逆さまだ。虐待ではないかと斉天大聖は見るが、そうではないと泰然は言う。
「あれで強化できるのか?」
「5感を封じることで、仙力が増し、さらに遠くを見ることができるようになります。雪玲は翠蘭の輪廻転生を見守りたいと言うので、今はそのために修行をつけています。まぁ、輪廻にはまだまだ時間がかかりますからね。このまま一年以上放置すれば、雪玲もなんとかなるかも知れません」
「ム――――――!?」
「輪廻転生した相手を見つける術は相当高度な術だぞ?俺だってまだ使えない。そもそも転生は冥府の管轄だからな」
「そうですね。万姫様の転生体を見つけようとした仙人達もいたようですが、全てが徒労と終わっていると聞きました。それほど、難しい術を覚えようとしているのです。多少の困難は乗り越えなければいけません」
「だから、ぐるぐる巻きか……。じゃあ、今回の作戦では雪玲はここで留守番だな」
「ム――――――――!!!」
「雪玲は道士――半人前です。今回の作戦には置いていきましょう」
「ムムムム――――――!!」
雪玲の怒りの声があがったと同時に、体を包んでいた布が弾け飛んだ。
ギリギリの綱渡り状態です。
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