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第42談

唇が哀しみから、わなわなと震えている。目からは大粒の涙が頬を伝いボタボタと落ちていく。鼻水は止まらない。そして琵琶を弾く手は震えて音にならない。ひどい醜態だと思うが、どうすることもできない。これでは大好きな翠蘭(スイラン)姐姐(ネーサン)を送れない。


《ねぇ、雪玲(シューリン)、あんたはずっと生き続けるんでしょう?》


「……う、うん、ヒック、そ――なるよ……姐姐(ネーサン)の……いない世界で……うぐっひっく」


恨み言を言ってはだめだと思うのに、口が勝手に言ってしまう。どうしたら止まるんだろうと泰然(タイラン)と斉天大聖を見ても、ふたりは何も答えをくれなさそうだ。そして翠蘭(スイラン)は見れない。こんなみっともない自分を見せたくない。


だけど翠蘭(スイラン)は全てを見透かしたように、雪玲(シューリン)を見る。


翠蘭(スイラン)の美しい立ち姿に、まるで女神のようだと思い、斉天大聖は見惚れてしまう。すると自然に涙が溢れてしまう。いったい何年振りに泣いたのだろうと思うが、止めることができない。


雪玲(シューリン)、私はね……今の今まで輪廻転生なんて信じていなかった。人は死んだら終わり……そう思っていたのよ》


調子外れた琵琶が鳴り響く。それに合わせるように雪玲(シューリン)の泣き声と、斉天大聖の泣き声が響く。


《でも私は転生するのよね。次の人生は虫かも知れない。魚かも知れない。獣かも知れないわ。でも、会いに来てよ》


「…………会う?」


ここでやっと雪玲(シューリン)翠蘭(スイラン)を見ることができた。美しい顔、優しい声。そして凛とした立ち姿は、どんな華よりも可憐だ。光り輝く天女(選ばれた人)よりも神々しい。


《そう、会いに来て。虫の私に、魚の私に、獣の私に、人の私に。そして……そうね、運良く溢れ者になったなら、あんたの弟子にしてちょうだい》


「…………弟子?」


《そう、弟子にして。その時にはあんたの事は覚えていないかも知れないけど、それでも私を導いてよ。私があんたに色々教えたように、私にも教えてちょうだい。そして……》


翠蘭(スイラン)は斉天大聖を見る。地面に手をつき、男ながらに泣く斉天大聖の身体に触ることはできない。抱きついて慰めることができない。まさかこんなことが心残りとなるとは……と思うが、それはもう終わったことだ。差し出された手を、もう一度握ろうとは思わない。人として死ぬために。


《あのぐずぐず泣く男より、私を強くしてちょうだい》


だから翠蘭(スイラン)は斜に構えて笑う。涙で見送られるのは悪くなはい。だけどどうせなら、良い女だったと讃えられながら見送られたい。


「……言ったな、翠蘭(スイラン)が俺の嫁になるまで、俺はもっと強くなって見せるよ」


斉天大聖が涙を乱暴に拭い、朗らかな顔をあげる。それと同時に琵琶の音が美しく鳴り響き出した。雪玲(シューリン)も復活したようだ。


「任せて。あたしは、絶対に姐姐(ネーサン)を見つけてみせる。ずっとずっと、なにがあっても、姐姐(ネーサン)が何に生まれ変わっても、探し出してやるからさ」


翠蘭(スイラン)雪玲(シューリン)の琵琶の音に合わせて歌い出した。

それはこの世界の美しさを讃える歌。


花々の目覚めを誘う優しい春の歌。

眩しい太陽の日差しで世界を輝かせる夏の歌。

赤く染まる木々の美しさを讃える秋の歌。

無垢な白さに世界を変える冬の歌。


そしてその歌に調和するように世界が輝きだす。空は七色に輝きだし、風はうっとりするような芳香を鼻に運ぶ。そしてどこから飛んできたのだろうか。色とりどりの蝶々が周囲を舞う。その中心で翠蘭(スイラン)は歌う。


周囲には少しでも近くで聞きたいと、獣たちが集まってきた。


風に乗って届いたこの歌声と琵琶の音色に、子供達は未来を夢見て眠るだろう。大人達は日々の疲れが消え、穏やかな気持ちとなるだろう。


泰然(タイラン)も、斉天大聖も歌声に聴き惚れる。


だが終わりというものはいつでも、どんな時でもあるものだ。


翠蘭(スイラン)の歌声が春のそよ風のように心地よく響き、琵琶の音がやさしく終わりを告げる。翠蘭(スイラン)の身体はもう、ここに存在しているとも言い難いほどに透けている。


雪玲(シューリン)、あとは頼むわね?》


「あいよ!姐姐(ネーサン)


―いつまでも、どこまでも見守っているよ―


七色に輝いていた空が、蒼空と白い雲の世界へと変わり、風はいつも通り、空気を運ぶ。そして蝶たちも獣たちも帰っていく。それぞれの家路に向かって。


「行ってしまったな……雪玲(シューリン)


「斉天大聖様……あたしが先に翠蘭(スイラン)姐姐(ネーサン)を見つけるから、邪魔しないでくださいね」


「半人前が何を言うか、翠蘭(スイラン)を先に見つけるのは俺だ!」


お互いの心の痛みを慰め合うように牽制し合っていると、泰然(タイラン)の声をあげ、指を指す。


「師父!雪玲(シューリン)!あれを!!」


泰然(タイラン)の指差した先には天へと向かってまっすぐに立ち上る妖気が見えた。それは十耳(ジュウジ)魔王の館から上がっている。


千里眼で斉天大聖は十耳(ジュウジ)魔王の館を見る。


「――っ、結界の周囲が腐ってきてる」


翠蘭(スイラン)を失った哀しみから暴走したんでしょうか……」


「可能性はあるな、だがあれはまずい。世界が腐敗しかねない」


「ど――どうすんのさ!師匠!斉天大聖様‼︎」


「とりあえず帰るぞ。これは天界に報告が必要だ」


斉天大聖が印を組み、禹歩を踏む。3人の姿はその場で姿を消した。

12時に投稿……できるか不安です。

ストック切れちゃった……。


とは言えど、なんとか頑張ろうと思いますので、ブックマーク、下の評価よろしくお願いします!

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