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第38談

翠蘭(スイラン)が得た情報を西王母に話したところ、100年ほど前に、ある寒村でそのような事態が起きたと情報を得ることができた。


情報をもとに、雪玲(シューリン)泰然(タイラン)は雲に乗り、寒村へと向かうことになった。


斉天大聖は翠蘭(スイラン)に何かあった時の為に、十耳(ジュウジ)魔王の館の近くで待機する事になった。


うまく十耳(ジュウジ)魔王を倒すヒントを得ることができれば、斉天大聖と雪玲(シューリン)達は合流し、翠蘭(スイラン)を助け出すことができるとあって、雪玲(シューリン)は張り切っている。


「いやー、それにしても十耳(ジュウジ)魔王の過去は壮絶な話だったよね〜」


「お前は呑気だな。私は夢に見て気分が悪くなった」


「師匠は繊細だね〜。あたしがいた嫦娥の盃はなんだかんだ一流妓楼だったから、良い扱いだったけど、そうじゃない妓楼はえげつないことしてるんだよ。人間は生きていくのが大変なんだよ」


「そうか……」


雪玲(シューリン)は溢れ者としては珍しく、15歳近くになるまで人間と生活していた。そう考えると仙界に住む誰よりも苦労しているのではないだろうかと泰然(タイラン)は思う。


「そいで?十耳(ジュウジ)魔王の住む場所に行って何を探すのさ?」


「ああ、妖怪になるには過程がある。例えばお前が倒した委蛇(いだ)は、ただの蛇だったが廃寺に住み、たまたまその寺で無念のまま死んだ坊主の神通力を受けることで妖怪となった」


翠蘭(スイラン)姐姐(ネーサン)への邪念も手伝って?」


「そうだな、獣は純粋だ。邪念から妖怪と化すことは多い。そしてそれは十耳(ジュウジ)魔王も一緒だ。炎の中に身を投げ込んで死んだ坊主の無念の気持ちを取り込み、無力な兎が妖怪となったのだろう。そして様々な力ある妖怪を食うことで更に力を得て、大妖怪となり魔王を名乗ることができたのだ。だから私達は十耳(ジュウジ)魔王の元となった坊主の霊を探す」


「坊主の霊?お化けってこと?」


「そうだ、妖怪に食われた人間の魂は成仏できず、地縛霊と化すことが多い。ましてや無念のまま死んだんだ。そのまま霊となっている可能性は高い」


「冥府の役人は迎えに来ないの?死んだら冥府の役人が来るって聞いてるよ?」


「そうだな、それは本当だ。死は冥府の管轄。寿命は生き物それぞれ決められている。特に人間は動物と違い迷いやすいから、必ず冥府の役人が迎え来るものだ。だが妖怪が絡んだ場合は別だ。世の中のことわりから外れた妖怪が絡むと、冥府の役人は人間を迎えに来れなくなるんだ」


「へー、なんか冥府の役人って弱虫なんだね。それで?その坊主の霊を見つけてどうすんのさ?十耳(ジュウジ)魔王を説得させるの?」


「いや、無念のまま死んだ坊主は邪霊となっている可能性が高いから、説得させることはできないだろう。だが十耳(ジュウジ)魔王の力の根源となった人物だ。その坊主の霊力を使えば、十耳(ジュウジ)魔王の結界を壊せる」


そんな事ができるのかと雪玲(シューリン)は感心した目を向ける。と同時に仙界の住人ですらこれだけの手間暇をかけてやらなければいけない事を、万姫(ワンチェン)は一瞬でやれたという事実に驚いている。


万姫(ワンチェン)ってすごかったんだね」


「そうだな……万姫(ワンチェン)様は別格だった。私もあの人があそこまで規格外だとは、救出されるまで知らなかった」


「そうなの?じゃあ、師匠は万姫(ワンチェン)に何を習ったの?」


「今お前に教えていることだ」


「えー、それってつまりあれじゃん!精神論!やればできるってやつでしょ?案外、万姫(ワンチェン)の術もそれじゃないの?やろうと思えば、なんでもできる!」


「そんなわけがないだろう」

ふふっと笑いながら泰然(タイラン)は前を向く。


「見ろ!雪玲(シューリン)あそこが目的地だ」


泰然(タイラン)が指差した先には、立派な(びょう)が見えた。




◇◇◇





「…………う……」

自然に漏れた声で目が覚めた。最近は夢見が悪い。


額や首筋にびったりついた髪を煩わしく思いながら、起き上がると枕元でこちらを心配そうに見る鼠と目が合った。


「大丈夫か?」

鼠から重低音の優しい声が聞こえる。包む込むような優しい声が、今の唯一の救いだと翠蘭(スイラン)は思っている。


「大丈夫です。心配して頂きありがとうございます」

気怠い身体に鞭打って起き上がると、眩暈がした。妓楼でどんなに激しい男の相手をしても、こんなふうになったことはない。最近の体力の落ち込み用は異常だということは翠蘭(スイラン)自身が良く分かっている。


「斉天大聖様……私の身体はどうなっているのでしょうか……」


翠蘭(スイラン)は自分の手をじっと見る。水仕事ひとつしたこのない、きめ細かくて、ほっそりと長い指の先には鋭く光る爪がある。妓楼にいた際に、爪を染めることにより、男の目を釘付けにした。だが今の翠蘭(スイラン)の爪は違う。この爪を使えば、男の体に穴を開けることすらできそうだ。


「最近、十耳(ジュウジ)魔王はお前のもとに、朝晩と通っている。つまり近くで奴の強力な妖気を浴び続けることになる。そうなると体の関係はなくとも、お前の身体は徐々に陰に傾いていく」


「人ではなくなっていると……仰るのですね」


「ああ、体の気怠さがその証拠だ。緩慢に妖怪と化しているのだ。だがまだ大丈夫だ。その程度の陰陽の乱れならば俺が治してやる」


「………………」


まだ殺してもらえる段階ではないのだと翠蘭(スイラン)は笑みを漏らす。

雪玲(シューリン)に会いたい、だけど、雪玲(シューリン)に傷ついて欲しくない。死んで欲しくない。自分を助けるために、犠牲になるなどやめてほしいと、翠蘭(スイラン)はずっと思っている。


「まだまだ大丈夫だ。翠蘭(スイラン)、無事に逃げられたら俺のところに来い。雪玲(シューリン)と同じように永遠に生きられるようにしてやる」


「……永遠は必要ありません。私は人に生まれた以上、人として死にたい」


翠蘭(スイラン)十耳(ジュウジ)魔王にも斉天大聖にも、いつも同じ返事をする。斉天大聖の申し出は普通の人間なら喜ぶところだが翠蘭(スイラン)の意思は固く、その距離は縮まることがない。


こうなるとまさに良い女だと思い、斉天大聖は最近は本当に妻にしようかとも思い始めた。もうそろそろひとりに(ひと)に縛られるのも悪くはない。


「…………だれ?」

翠蘭(スイラン)は閉ざされた扉の先に気配を感じ、ふらふらとしながら立ち上がった。そして開けた扉の先には女性が立っていた。

「貴女は……」


翠蘭(スイラン)!」

斉天大聖の声が閉ざされた部屋に鳴り響いた。

毎日12時に投稿します。

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