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第34談

西王母は崑崙山にいる。それが分かっていても西王母は仙界で仙女の頂点に立つ貴女(きじょ)だ。簡単に会えるものではない。それは例え、斉天大聖であっても変わらない。


故にまずは顔馴染みとなっている峰花(フォンファ)に繋ぎを頼んだ。峰花(フォンファ)が西王母に約束を取り付け、ようやく面会が叶った時には丸一日以上過ぎていた。


そして今、雪玲(シューリン)達は崑崙山にある西王母の部屋の一室に招かれた。楕円の団扇を口元に当て、不機嫌そうに雪玲(シューリン)達を見ているが、その姿すらため息が出るほど美しい。


容姿が特に優れているわけでもない。なのにこの溢れ出るような魅力は何だろうと、雪玲(シューリン)は首を傾げる。


「年若い同方はいつ落ち着くのやら……」


さらに見下した瞳で雪玲(シューリン)を見る。すると雪玲(シューリン)の背中にゾゾゾゾッと悪寒が走る。それなのに顔がにやけてしまう。もっと、蔑んで欲しいと思ってしまうから、不思議だ。


ふぅっとため息を落とし、西王母は宙を浮くような軽やかな足取りで、斉天大聖の前に立つ。


「神界の(おとこ)が仙界に出入りするのを見るのは見苦しい。(はよ)う立ち去るが宜しいでしょう……」


「これはこれは、あなたの様な美しい女性を前にして、この俺が立ち去れるはずがない」


斉天大聖が腰を曲げ、わざとらしく顔を近付けると西王母は団扇で遮る。


峰花(フォンファ)……お前がぜひとも会いたいと言うから妾は、会いたくもないのに会ったのですよ。お前まで年若い同方にやられておかしくなってしまったのかしら?」


峰花(フォンファ)は慌てて、斉天大聖と西王母の間に入る。そして斉天大聖をひと睨みして、後ろへ下がらせる。


「不躾な男が失礼をしたようで、申し訳ございません」


打って変わったように口元に魅惑的な笑みを見せる峰花(フォンファ)


「お前の要件は人間の女が攫われた事での支援でしょう?なぜ妾がこの様な不快な思いまでして、助けねばならぬのか……」


「確かに人間の女が拐われたところで私達仙界の者にはどうでも良いこと……本来であれば助ける義理もございませんわ。ですが翠蘭(スイラン)はただの人間ではありませんの」


「ほう……では何だと言うのです?どの様な言い訳を妾に言うのかしら?」


「実は、泰然(タイラン)が垣間見するうちに、翠蘭(スイラン)に惚れてしまったようで……」


「――は?――っ!」

心外だとばかりに言葉に声をあげた泰然(タイラン)だったが、途中で斉天大聖が足を踏むことで止まった。


「西王母様もご存知のように泰然(タイラン)初心(うぶ)な男……斉天大聖様に、女の手解きをご教授頂いている間に、仇である十耳(ジュウジ)魔王に連れ去られてしまったようで。仙界の住民全てが知っていますが、泰然(タイラン)万姫(ワンチェン)様にも恋心を募らせていましたでしょう?これで翠蘭(スイラン)十耳(ジュウジ)魔王に奪われてしまったら、また誰かの山を焼くのでは妾は心配してご相談に上がった次第です」


辛そうな風情で袖で顔を隠し、つらつらと嘘を述べる峰花(フォンファ)に対して、西王母は皮肉めいた笑いを見せる。


「それは、それは、翠蘭(スイラン)と言う女性も気の毒なこと……泰然(タイラン)のような気の多い男に愛されたとは……」


皆の視線を受け止め、泰然(タイラン)は顔を真っ赤にする。小刻みに震える肩を見ると羞恥を抑えるのに必死なようだ。


「ってゆーかさ、西王母様も知らないんじゃないですか?万姫(ワンチェン)の術を?違いますか?」


皆の視線が雪玲(シューリン)に集まる。


「その通りよ、万姫(ワンチェン)の術は特殊で、あれと同時に失われたわ。そして十耳(ジュウジ)魔王が作った結界を消し去ることができるものは仙界にはいないでしょう。ましてや侵入して助けるなどもっと不可能でしょうね。できていたら、あなたをもっと早くに助けられていたわ……泰然(タイラン)


そうだろうと皆が息を呑む。いくら仙界の住人が他人に無関心だとしても、同胞を助けないほど無情ではない。


「だが、手がないわけではない。十耳(ジュウジ)魔王は何処から現れたか分からぬ、得体の知れないもの……。仙界も神界もやつの生い立ちも出身も、元の姿が人か、獣か、虫かも分からぬが、そのいずれかが分かれば手の打ちようがあるでしょう」


「……やはりそうなるのか、となると翠蘭(スイラン)に協力してもらうか」


「やだよ!姐姐(ネーサン)が危険じゃん!そんな危ないことさせられないよ!」


雪玲(シューリン)……他に方法がないだろう。これは翠蘭(スイラン)を助けるための方法を探るためだ。彼女は頭が良い、うまく十耳(ジュウジ)魔王から聞きだしてくれるだろう?」


「確かに師匠の言う通りだけど……」


頬を膨らませる雪玲(シューリン)のもとに、西王母が舞い降りる。そして団扇を雪玲(シューリン)の顎に添わせ、顔を上に向けさせる。むせかえる様な芳香と、溢れ出す色気に雪玲(シューリン)は頬を染める。


「それともお前が結界を解くの?」


「――へ?あたしが?どうやって?」


「ならば黙っておくことね。年若い同方にできることはないでしょう」


「あたし……雪玲(シューリン)って名前があるんですけど?」

ムッとした表情で雪玲(シューリン)が睨みつけると、ふふっと西王母は笑う。


「……この間、宴の席で合奏したでしょう?」


「はい」


「思ったより……そうね、思ったよりも悪くなかったわ。だから名前を呼ぶのを辞めることにしたわ」


「意味不明なんですけど?」


雪玲(シューリン)の言葉に答えず西王母はふわりと空を飛ぶ。


「さぁ、謁見の時間は終わりよ……妾の前から消えなさい」


西王母の言葉と同時に空間が揺らぐ。揺らぐ景色の中で西王母の口元が雪玲(シューリン)には見えた。


「……………………」


西王母が発した言葉は、雪玲(シューリン)の耳には届かなかった。

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