第18談
「うおおおおおぉう、何?何これ?なんて言えば良いの?言葉にならない。や……柔らかくて、でもしっかりして、そんで包み込まれるような感覚……さ……最高……」
「殴るわよ?雪玲」
「殴られても、良いです!それでも私は揉ませていただきます!峰花様のお胸様を」
ゴツンっと一発、頭を殴り、峰花は胸を揉んでいた雪玲の手を、腰に持っていく。すると今度は尻を触ろうと、雪玲の手がわさわさ伸びてくる。
「殺されたいの?」
「峰花様に殺されるなら、本望です!」
「はぁ、もう良いわ……胸でも尻でも好きに触りなさい。ほら、沈むわよ」
雪玲の足先と地下のマグマの距離が近い。それこそ指一本くらいだ。
「うわわわわ!いつの間に!峰花様の乳を揉むのに夢中になっていたら、ここまできてる!なんて魅惑的な乳!え?まじにここに沈むの?熱いって!絶対燃えるって、ほら、あたしの汗がじゅってなった。蒸発した!あ――ヤダヤダ、靴が燃える!翠蘭姐姐がくれた靴!お気に入り!ヤダヤダ、燃えるのヤダヤダ――――!」
嘆く雪玲を無視して、峰花はマグマの中に足先を沈めていく。ブクブクと不気味な泡袋の中に入り、足先は赤いマグマに包まれ、見えなくっていく。
「いやーーー!!熱い!死ぬ!処女のまま死ぬのやだー、こんなことなら斉天大聖様に抱いてもらえば良かったー!大人になれずに雪玲は死んでしまいます!ごめんなさいー、わー」
嘆く雪玲の身体はもう半分ほど、マグマに浸かっている。峰花の体も同様だ。
「いつまでバカなことを言ってるの?それだけ泣き叫びながらも、妾の尻を揉めるのは感心するわ」
「へ?あれ?」
雪玲の身体は下半身がマグマに浸かっている。それは峰花も同じだ。となると峰花の尻もマグマの中にあることになる。なのに雪玲は峰花の豊かで弾力があり、更に柔らかいお尻を心の赴くままに揉むことができている。
「あ……確かに、というか、峰花様はお尻も最高ですね。このまま、他も触って良いですか?できれば、前の方も……」
照れながら、上目遣いで峰花を見ると、流石にダメだったらしい。雪玲は笑顔の峰花にひとりマグマに落とされた。
◇◇◇
「ひどい……どこまでも落ちていって、死ぬかと思った。死んだおじいちゃんが見えた」
ふんっと怒ってそっぽを向いている峰花の機嫌は治りそうにない。
師である泰然は、雪玲を助けてくれたが、ゴツンと一発拳骨を落としてくれた。いつか頭が凹むんじゃいかと、雪玲は心配になるばかりだ。
「雪玲、お前は我ら仙人に認められ道士の地位を得た。これによってお前は人でありながら、人ではなくなった。熱いと思わなければ熱くないし、寒い思わなければ寒くない。お前の身体は焼かれないし、溺れることもない。切られても切れることはないし、潰されても潰れることはない。今やっている修行は、それを身体と心で理解することなんだ。分かったな?」
だが、泰然は雪玲がどんなに悪態をついても、それこそ逃げ出しも追いかけてくれるし、こうして呆れながらも教えてくれる。
峰花だって怒ってくれるのは、雪玲を気にかけてくれているからだ。
こういう環境をいつだって自分は望んでいたと雪玲は思う。もちろん、峰花の……女性の身体を心の赴くままに揉みまくったのは悪いとは思っているが、あれは魅惑的な身体を持つ峰花が悪いとも思っている。
「……峰花様……師匠、ありがとうございます」
だから雪玲はちゃんとお礼も言う。胸の前で両手を合わせ、深くお辞儀をすると、泰然も峰花も笑ってくれる。
それだけで、心の中にぽっかり空いた穴が満たされるようだ。
「でも雪玲の習得の速さには驚くばかりだわ。宇辰はマグマに馴染むのに半年以上かかったはずだもの……昔過ぎて記憶が曖昧だけど」
「宇辰にも揉ませたんですか⁉︎その魅惑の乳と尻!」
「……妾は今まで何人も弟子にしたけれど、揉んだのはお前くらいよ。雪玲」
「お……怒った顔も色っぽいっす。もう、なんでもご褒美になっちゃう……」
「あほ弟子は置いておいて、やはり雪玲は習得が早いのか。私は弟子は初めて持つから分からないが、自身に置き換えるとこんなに早くはなかった」
「師匠もこの修行したんですね?どっちと?斉天大聖様?それとも万姫様?」
クヒヒと下品な表情で笑いながら泰然に質問する雪玲に、峰花の心臓は飛び跳ねる。泰然に万姫の話は禁句だと思い、峰花はなるたけ話題に出さないようにしていた。
泰然にとっては、自分の失態のせいで殺した師である上に、家を焼いたほど憎む相手だ。少なくとも峰花はそう考えていた。誰もが泰然の前では、万姫の名前は出さないのに、雪玲は平気で、名前を出す。
峰花が見るに、雪玲はそれほど馬鹿ではない。もちろん破天荒な人物ではあるが、相手を見て、空気と状況を読み、話をしているはずだ。
大丈夫だろうか……早鐘のように鳴り響く心臓を気取られないように押さえながら、泰然を見ると、そこには意外にも穏やかな表情の泰然がいた。
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