第16談
「如意金箍棒はあるぜ?そもそも西遊記は俺が地上で妖怪退治をしているのを見た人間が、作った物語だからな。如意金箍棒は神界切っての対妖魔用武器だ。小姐みたいな対魔の霊力を持った奴には打って付けの武器だな」
「雪玲!お前――対魔の霊力を持っているのか?」
泰然が斉天大聖の膝に乗った雪玲に駆け寄る。
雪玲は泰然と斉天大聖を交互に見比べ、首を傾げた。
「対魔?それ委蛇も言ってたっけ?棍で殴ったら、あいつジュッて焼けてたし……なんなの?」
「どうする?師として教えてやったらどうだ?それとも俺が教えるか?」
「……師父にお願い申し上げます。私の師父はあなた様ですから」
視線を床に落とし泰然は、一歩下がった。前に後ろに忙しい人だと、雪玲は口を曲げる。
「神仙や仙人、はたまた人間や動物にだって霊力はある。だが溢れ者として産まれてきた者は霊力の強さが桁外れだ。だから神仙や仙人になれる!これは分かってるか?」
「へー、そうなんだ。じゃあ妖怪は霊力が強い動物?でもたまに人間でも妖怪になるって聞くけど?」
「ああ、妖怪は強い邪念や妄執を持った生き物がなる者だ。偶然、妖怪になりやすい環境――例えば廃寺とか、地上で霊力が噴き出る場所に住んでいたりすると妖怪に変わる。妖怪は寿命に縛られず不老となるが、俺たちと違って自然に神となったものじゃなく世界の理の外に住まう者だ。故に彼らは駆除対象となる。そしてやつらを倒すのに必要な霊力が退魔の霊力であり、五行の中のひとつ【火】だ。五行は知っているか?」
「えっと、確か木・火・土・金・水が世の中の基本ってやつ?」
「そうだな。雪玲は偉いぞ〜」
斉天大聖に頭を撫でられ雪玲は満足顔だ。斉天大聖の大きな手で撫でられるのは気持ちが良い。
「俺と雪玲は火の性質、同じだから相性は良い。そして相生と言ってな、陽の関係である木と土の性質とは相性が良い。だがこの世界は陰陽でなる。相剋である水と金の性質とは相性が悪い」
良く分からなくなってきた……と雪玲は思うが、笑って誤魔化す。
「そしてお前の師は土の性質。火は土を助けることができるから相性は良い。そして仙人は修行により五行を極めることを目指している。泰然は解脱して仙人になっているが、まだまだ五行を極めていないから、半人前だ。そして俺は全てを極めている。分かったか?」
「あいよ!つまり斉天大聖様の方がすごいんだね!さすが師匠の師匠!で?あたしは火の性質だから対魔の霊力を持っていたってこと?火の性質を持っていれば誰でも対魔の霊力を持ってんの?」
「そうだな、そこが雪玲のすごいところだ。溢れ者は元々高い霊力を持っているが、それの使い方が分からないことが多い。なぜなら霊力を目的を持って使うためには術の行使が必要だからな。雪玲は誰にも教わってないのにそれができた。雲にも乗れる。規格外ってことだ」
「やっぱり普通は雲に乗れないんだ。あたしだって委蛇の雲に乗れてびっくりしたし……」
「溢れ者のほとんどが身体能力が人より特段に優れているから見つかりやすいんだ。だが小姐ほどの年齢になるまで見つからなかったことはない。そもそも溢れ者は生まれたと同時に見つかるのが通例だ。三清はおろか東王父も西王母もお前を見つけられなかったってのがおかしいだ」
「あれかな?見つかりたくないーって思ってたから?」
雪玲の言葉に、斉天大聖の目が光る。
「……なぜ?見つかりたくないって思ってたんだ?」
「なんでって、堅苦しいの嫌いだし、男女のまぐあいに興味があったし?目標、千人切りだったし?」
「……お前、そこまでやりたかったのか?」
呆れるを通り越して蒼白な泰然が化け物を見る目で雪玲を見ている。
「なんだよ?師匠は黙ってて!斉天大聖様は変だって言わないもんね〜?」
「はは、そうだな。だが、人間とは違って仙人は永遠に生きられるぞ?千人なんてあっという間だぞ?」
「はっ!その可能性は気が付かなかった!そうか、千人超えも可能なら仙女もアリかも……、え?斉天大聖様は?今、何人切り?」
「さぁな、もう数えるのも面倒くさくなったからな。だけど、小姐が大きくなって、良い女になったら、俺もその中に入れてもらおうかな?」
「今はダメなの?初めては斉天大聖さ……むぐぐぐぐ」
泰然の手で口を塞がれ、雪玲は再び、斉天大聖の膝の上から引き摺り下ろされた。
「むぐぐ――ムームーむ――――!!」
雪玲が抗議の声をあげ、手足をバタバタ動かしても、泰然の手から逃げることができない。
「師父……如意金箍棒の話も含め、また参ります。これがいると真面目な話もできないので……」
「如意金箍棒は貸さねぇよ。諦めな」
「諦めません。では、御前失礼します」
その場で禹歩を切り、泰然は煙の如く消える。
相変わらず四角四面な術だと思いながら、斉天大聖はその口の端に笑みを浮かべる。
「やっぱりおもしれーな、あいつ……」
斉天大聖の言葉に答えるものはいなかった。
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