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第14談

猛き山が空を突き刺すようにそびえ立ち、その下に雲を纏わせている仙界と違い、神界は地上にある皇城のような佇まいだ。


強大な門を入り口として、四方を高い壁で囲っている。中に入ると、碁盤の目状に広い道が広がり、その間に屋敷がある。一番奥にある大きな3つの建物が三清が住まう屋敷で、それ以外は神仙の住む館となっている。奥に行くほど神仙としての地位が高く、大きな屋敷を持つ。また、全てを自分で行う仙人とは違い、神仙には召使も多く抱えている。召使の多くは人間だったり動物だったりする。そんな彼らがミスを犯して、地上に放逐された時に、妖怪と化し地上に悪さをする事もあると言う。


随分と傍迷惑だと雪玲(シューリン)は、口を尖らせる。


まるで地上の街中に降りたような喧騒の中、雪玲(シューリン)は師である泰然(タイラン)の後ろを歩く。


泰然(タイラン)が印を切り、禹歩を踏み、天界への道を開くのを雪玲(シューリン)はずっと見ていた。その動きは淀みがなく、美しかった。道術は武に通じ、舞に通ずと言う言葉を雪玲(シューリン)は聞いたことがある。そう言う意味では泰然(タイラン)は良い師匠になりそうだと思っている。


とは言えど、この侮蔑の視線には耐えられそにないと、雪玲(シューリン)は左右に目を配る。


自分の師である泰然(タイラン)が、弟子を助けようとして亡くなった師である万姫(ワンチェン)の山を焼いたとは聞いていた。だが、だからと言って、まさかここまで悪様に周りに蔑まれているとは思わなかった。周囲の神仙やその召使達は、あからさまな視線を泰然(タイラン)に向け、こそこそと悪口を言っている。その多くは『恩知らず』だ。


言いたいことは分かるが、焼いた当人にも何らかしらの事情があるだろうに……そう考える雪玲(シューリン)はなるたけ、泰然(タイラン)の後ろを歩く。そうしないと周りの神仙たちが何か投げてきそうな勢いだからだ。


まだまだ道士であり、小姐(おじょうちゃん)でしかない雪玲(シューリン)が近くにいるから、彼らだって絡んで来ないのだ。そこだけは人と違って分別があるらしい。


正面門からまっすぐ、奥に奥にと歩いていくと、黄色で塗られた派手な建物が見えた。随分と大きな建物だ。周囲と比べても一回り大きい。


するとその建物の扉の前で泰然(タイラン)がピタリと止まる。


「ここが斉天大聖様の住居だ」


「あいよ、師匠のふたり目の師匠だね〜」


「――‼︎……お前、あ、いや、すまなかったな。私が師でなければ、あんな悪様な視線や言葉をお前にも向けられることはなかっただろうに……」


「師匠……あんな奴ら、気にしたら負けだよ?気にせず堂々としたふりをしていれば、陰口を叩くやつもいなくなるって、翠蘭(スイラン)姐姐(ネーサン)が言ってたよ」


翠蘭(スイラン)?」


「あたしの大好きな姐姐(ネーサン)。一緒に妓楼にいたんだ」


「そうか……しかもお前は、色々事情も聞いたりしないんだな?」


「人それぞれ事情があるから、詮索するなって翠蘭(スイラン)姐姐(ネーサン)に教わったからね。話したい人は、話したいそぶりをするから、そうなるまで聞くなって。師匠は話すつもりないんだろ?だったら聞かないよ」


「そうか……翠蘭(スイラン)という女性は、とても良い姉のようだな」


泰然(タイラン)の目に蔑みの色も哀れみの色も見えない。雪玲(シューリン)はそれが嬉しくて、ついつい笑ってしまう。雪玲(シューリン)は妓楼にいた。その姉というからには、翠蘭(スイラン)が客を取っている妓女だと、泰然(タイラン)は分かっているはずだ。雪玲(シューリン)が今まで会った人間は、所詮妓女の言うことだと、侮蔑を込めた言葉で文句を言うものが多かった。だが、泰然(タイラン)は違う。心の底から、良い姉だと翠蘭(スイラン)を褒めてくれた。それが雪玲(シューリン)には嬉しくてたまらない。


この師匠は当たりだ!雪玲(シューリン)は東王父の采配に感謝の意を表したくなる。


「ハハハ、これは中々――お前の弟子にするには勿体無いくらいの良い女じゃねーか!」


鼓膜が破けるような大きな声と同時に、巨体が降り立ち、風が巻き起こり、地響きが鳴り響いた。


「わ――わわわ!!!」


暴風にも似た、勢いに雪玲(シューリン)が目を回し、その小さい体が後ろへ倒れようとした時、太い二の腕が雪玲(シューリン)の背中を捉え、軽々と抱き抱えられた。更に、そのまま腕の主の肩にヒョイっと乗せられる。


思わず頭を掴むと、ニカっと笑う白い歯が見えた。


獅子のように猛々しい黄金色の髪、茶色に焼けた肌。いたずらっ子のような大きな瞳の上には、斜めに上がった太い眉毛。


「師父……お久しぶりでございます」


泰然(タイラン)が両手を前に出して深くお辞儀をする。


「師匠?斉天大聖……様?」


「おうよ!俺様が斉天大聖だ。よろしくな、小姐(おじょうちゃん)!!」


「……斉天大聖様……」

ポツリと呟き、雪玲(シューリン)はその身体をまじまじと見る。


黄色の上衣は肩の部分で切られ、その太い二の腕を見せつけているかのようだ。見せつけているのは、腕だけではない。前合わせの上衣は、腹まで大きく広げられ、隆々とした筋肉を自慢げにさらしている。虎柄の腰巻きは、おそらく妖怪のものだろう。美しさと力強さを兼ね揃えた一品であることが雪玲(シューリン)にも分かった。太腿も大きく、雪玲(シューリン)の腰周りと変わらない。身長も大きい。泰然(タイラン)は標準の男性より少し高いが、斉天大聖は泰然(タイラン)より遥に高い。雪玲(シューリン)が今まで見てきたどの男性よりも、高いのだからびっくりだ。


不躾な雪玲(シューリン)の視線に気付いた斉天大聖は、わざとらしく腰を振る。


「俺のは泰然(タイラン)と違って大きいぜ?小姐(おじょうちゃん)には荷が重い」


「マジっすか⁉︎」


興奮する雪玲(シューリン)

「師父!」


泰然(タイラン)が怒った所で、久しぶりの師弟の再会は始まった。

毎日12時に投稿します。

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