第12談
泰然の住まう黎明山は、誰よりも太陽に近い場所にあった。
黎明山は元は皆と同じ位置にあったのだが、罪人の棲家と言うこともあり、今は移動させられ、ただひとつ、上空にぽつりと浮いている。
日中は山の上に晒され、その身体を太陽に焼かれる責苦を受けているのだから、一番高いところにあるのは当然と言えば当然だ。雪玲は峰花のお陰で暑くも寒くもないが、実際は違うようだ。大気の膜もないこの場所は、太陽光線を直接浴びているようで、師匠である泰然は裸で雨晒しとなっているため、皮膚が火傷を負ったように赤くなっていた。だが仙人の力なのだろうか。火傷の跡はあっと言う間に無くなり、また火傷をくり返えしている。少なくとも雪玲にはそう見えた。
「髪も髭もぼうぼうで、若いんだか年寄りだかも分かんないなぁ」
「泰然は仙界きっての美青年よ。仙界に並ぶものなしと言われ、男性でありながら藤の花の美しさに例えられたくらいよ。まぁ、確かに今は見る影もないけどね……」
「イケメンかぁ……イケメンは余り好きじゃなんだよね」
「あら、そうなの?今はともかく、昔は泰然に弟子入りをしたがる道士は多かったのよ」
「だってイケメンって、自分本意なのが多くてさ。女を満足させる前にーーって!また殴った!もう、頭がたんこぶだらけになる!!」
「近づくから、余計なこと言わないように!」
峰花にギロっと睨まれて、雪玲はぺろっと舌を出す。なんだかんだ言いつつ、この掛け合いは嫌いじゃない。峰花は雪玲がどんなにエロい話を言っても、殴るだけで蔑むことはない。
翠蘭姐姐とは違う反応だけど、温かさは同じだと雪玲は思う。
峰花が緩やかに泰然に近づく。
黎明山は山の頂きに棒が刺さっていて、泰然はそこに縛られている。霊力を封じる棒には、東王父によって書かれた罪状が書かれている。
「……泰然、久しぶりね?」
峰花が話かけると、泰然はその視線を雪玲に向けた。そして唾を吐くように、言葉を吐く。
「それが東王父が言ってた弟子か……くだらん!私は弟子など取る気はない!許されるつもりもない!」
「そう……東王父は宣言をあなたに聞こえるように発言したのね。だけど放たれた言葉は消えないわ。あなたは許された。そして雪玲の師になるのよ」
「帰れ!それにその女とて私が師では嫌なはずだ……私のような、どうしようもない、罪人が師など」
「この子はそんなこと考えてもないわ。むしろ雪玲を弟子することで、苦しむのはあなたかも知れないわ」
「……意味が分からない。私は師などにならぬ!釈面されたなら、十耳魔王を倒しに行くまでだ!」
峰花は悲しそうな表情をする。
「まだ……そんなことを。雪玲、これがあなたの師よ。……って雪玲……何を……見てるの?」
「うーん、体の割には小さいな……って」
峰花と泰然は雪玲の視線の先を追う。視線の先には……。
「お――お前!女のくせに、どこを見てるんだ!しかもまだ小娘のくせに、じっと見過ぎだ!」
「雪玲はまだ、そんなことを言っているの!それは師弟関係じゃないって言ってるでしょう!」
「えーだって、峰花様。男と女が同じ屋根の下で暮らすんですよ?間違いなんてありまくるに決まってるじゃないですか。むしろ来いってんだ!こんなところで素っ裸で晒されて、何十年も旱つづきの男なんてもう、獣のように襲ってくるんじゃないかと……あ――、でもなんだろう。全然興味が沸かない。見た目の野獣っぷりは大歓迎なんだけど、なんか興味が沸かない。やっぱ小さいからかな?乳首だって……まだ……っつう――!!イッタ!今のまじ痛い!峰花様、今の本気だったでしょ⁉︎本気であたしを殺しに来てるでしょ!なに、なに、その目は?怖い――峰花様――まじ殺そうとしてません?あ、でも……峰花様のお胸に抱かれて圧迫死させられるなら、死んでも――あ――ゴフっつ……………………」
峰花の見事な膝蹴りをくらい、雪玲はそのまま雲の上にばたりと倒れる。あまりにもの出来事に泰然はごくりと唾を飲む。なぜならここで誰よりも殺気を放っているのは峰花だ。今峰花に逆らうと、何をされるか分からないと泰然は黙り込む。
「――釈面状を……読み上げるわよ?」
「――ああ、分かった」
峰花が朗々とした声で書面を読み上るのを、師弟揃って静かに聴くしかすべは無かった。
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