第11談
「あたしの師匠……泰然ってのは今、罰を受けてんだっけ?」
「ええ、そうよ。泰然は黎明山が住処なのだけど、今は罰として、夜は黎明山の下敷きに、昼は黎明山の頂きにて日光に晒される罰を受けてるわ」
なんじゃ、その罰?と思うが、雪玲は黙る事にした。仙人が修行と称して身体を痛めつけることは有名だ。痛いのが嫌いな雪玲には理解が及ばない。
「更に朝食として、触れただけで身体が溶けてしまう程の熱量を持つ、太陽の分身である日の子を食べ、夕食として、触ると冷たさから身体が凍りつく月の分身である月の子を食べる罰も加えられてるわ」
意味が分からない……とは思うが、黙っておく事にした。寝物語で聞いた御伽噺の様な話だ。だが実際に刑罰としてそんなものがあるのかと思うと、なるたけ罪は犯さない様にしようと雪玲は心に誓う。
「何をしたらそんな目に遭うのさ?」
「泰然は武に長けた仙人で、若い頃は血気盛んに妖怪退治を行っていたわ。あなたが倒した委蛇の様な小物から、大物までね」
「委蛇は小物なんだ?」
「年経てない妖怪は小物よ。でも地には長く生きて、私達ですら手を下せない妖怪もいる。そして泰然はそれらのひとり、十耳魔王に戦いを挑んだわ」
「じゅうじ……」
耳が10個とはどんな愉快な姿だと、雪玲は妄想するが、そこは幸い峰花には気が付かれない。
「そして十耳魔王に敗れ、捕まり、拷問を受けていた泰然を助けに向かったのが彼の師である万姫様。彼女は泰然を助け、そして亡くなってしまったわ」
ここでも拷問、今も拷問とはなかなか業が深い。変態が師匠とは大変だと雪玲は思ったが、それを言うわけにはいかず、話題を流す。
「へー、仙女とかでも死ぬことがあるんだ」
「解脱して重い身体を捨てた仙人は基本的には死はないわ。でも十耳魔王は殺す方法を知っていたの」
「それで?まさか助けに行った師匠が死んだから、あたしの師になるやつは罰を受けたっての?仙界ってのはおっかないね〜」
「まさか――それだけで、罰を受けることはないわ。泰然の罪は自身の師の山を焼いたことよ」
「はぁ?助けてくれた師匠の家を焼いたってこと?意味わかんない」
峰花はため息をつき、遠い目をする。
「ええ、泰然は、なぜもっと早くに助けてくれなかったと師を詰っていたそうよ。泰然の師である万姫様は、丹作りの達人で、薬学においては右に出るものがいなかったわ。その彼女が作った薬効の記録を全て燃やしたのだもの。しかも自分を助けるために亡くなったのよ。それで東王父を始め全ての仙人・仙女が怒り、万姫様の死を嘆いた神界の神仙も泰然の死を要求したわ。それを西王母がなんとか沈め、今の刑罰で済んでいるのよ」
「へぇ、それがあたしの師匠かぁ。なんだか根暗そう……」
「感想がそれ?」
「えー?他の感想を求めんの?じゃあ、長年虐げられてるから男として役に立つのかな?とか、初めから自虐趣味の男は厳しいな、とか、でも妖怪退治が得意ってことは、激しい動きで翻弄してくれるのか――ムゴムゴ」
「もう喋らんでよろしい!そもそもあなたは――仙人の師弟関係をなんだと思っているの⁉︎」
「――ムムム…………」
もがくことで峰花の手から逃れた雪玲は、こうなったら隠すことはないと、正直な気持ちのまま話す。
「初めてを導いてくれるかんけ……イッター!!って、ぐうで殴った!上品な顔して、すんげー痛い!しかも速い!避けれなかったー!このあたしが‼︎」
「あなたの頭の中はそればかりなの!」
「だってさ、男と女で組み合わせて、更に導くんでしょ?それしかないじゃない。むしろ他に何をすんのさ」
「徒弟関係はそう言うもんじゃないわ。まだ、道士であるあなた達は重い身体に囚われているわ。だから身体から解放して、仙人として導くのが師としてやるべきことよ」
「解放……つまり、処女であるあたしが、師匠のテクニックにより、思考をとろけさせ――って、いたーい!二度目!しかもさっきより痛い!また避けれなかった〜、なんでー⁉︎」
「道士である雪玲が、妾に勝てるわけがないでしょう!全く、口を開けばそんなことばかりだとは……西王母が黙ってなさいと言った意味が良く分かったわ。呆れてものが言えないとはこのことよ……」
頭を抱え痛がる雪玲を尻目に峰花は、深いため息をつく。
まさか、こんな子だとは――。こんな子が弟子では真面目な泰然が気の毒だ。もしや……これが泰然に与えられた新たな罰なのでは?と邪推してしまうほどだ。
峰花はそのまま雲を動かし、泰然の住まいに向かうことにした。どうやら泰然にも忠告が必要だと思いながら。
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