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トラウマの始まり

 ようやく夏服が届き、それを着る。

「うん、今度は弾け飛ばなかったね」

「それ、言わないでください……」

 雪那が笑って言うと、涼恵は顔を赤くした。……ちょっと見てみたかった気もする。

 学校に行くと、「おー、森岡も夏服になったな」と男子生徒達は盛り上がった。それに我関せずと涼恵は兄と話す。

「涼しいですか?」

「うん。まぁ、包帯は巻かないといけないんだけどね……」

 涼恵は長袖を好んで着るのだが、理由は腕にあった。一度包帯を外すと、大きな傷跡があるのだ。これは両親につけられたものなのだが、ずっと残ってしまっている。

 寮にいる人達はそれを理解してあえて聞かないのだが、そうでない人達もいるわけで。

「森岡さん、包帯巻いてる」

「なんでだろうね」

 コソコソと、そんな会話が聞こえてきた。恵漣は「気にしなくていいですよ」と涼恵に念押しする。

「うん……」

 涼恵は浮かない顔のまま、小さく頷いた。


 放課後、怜とカフェで話していると、

「あれ?怜じゃん」

 怜と仲がいい男子生徒が話しかけてきた。

「森岡もいるんだ。付き合ってんの?」

「お前には関係ないって」

 怜の肩に腕を回し、ケラケラと笑う。怜と正反対だなぁ、なんて涼恵は微笑んだ。

「一年前はまだ彼女なんていいって言ってたのにな!」

「合コンに行くより別のことをしていた方がいいからね」

 怜がため息をつくと、「あぁ、ごめんね涼恵」と謝った。

「こいつ、こんなのでもいいやつだからさ」

「こんなのって酷いな」

 怜の隣に座った男子生徒は「森岡って怜と仲いいの?」と聞いてきた。

「あ、はい。怜さんとはよく小説の話をしてて……」

「へぇ、よかったじゃん」

「……というより、なんで普通にいるの?」

 怜がギロッと睨むと、「おー、怖いな」と男子生徒は笑った。

「まぁ、怜に青春が来てよかったよ。お前、去年は」

「ちょっと黙ろうか」

 何か言いかけたところで、怜がニコリと満面の笑顔で圧をかけて止めた。

「え、何々?なんか言っていたんですか?」

 涼恵は興味津々だ。目を輝かせている。

「ほら、彼女さん聞きたいって」

「お前が言うな」

 怜がため息をつく。そのまま三人でワイワイと話をしていた。

 寮に戻り、二人で書庫に行くと、

「去年はなんて言っていたんですか?」

「まだ興味あったんだ……」

 なおも聞いてくる恋人に、怜は苦笑いを浮かべた。

「まぁいいか。去年は恋人なんてできないとか言っていたんだよ」

 諦めて、その当時のことを話し出す。


 あれは、恵漣達が来た直後ぐらいだったか。

「なぁ、怜って恋人いんの?」

 本を読んでいると、さっきの男子生徒に声をかけられた。

「いないよ、急にどうしたの?」

 そう答えると、「えー、マジで?怜って顔いいんだし、いそうなもんだけどな」と言われた。

「いないって。俺、つまらない男だしいたとしてもすぐ別れるって」

「それ、自分で言うのな……」

 怜が笑うと、男子生徒は苦い顔をした。

「だったらさ、今日合コン行こうぜ」

「行かないよ、今は恋人とか必要ないし」

「えー、つまんねぇな。でも、そう言っておきながらすぐに可愛い彼女が出来たりしてな」

「だから早いって……」


「……って言う話をしたんだ」

 話し終えると、涼恵は「そうなんですね」と小さく笑った。

「まさか、あいつの言ったとおりになるとは思ってなかったよ」

 しかも趣味も同じで美人なお嬢様と来たものだ。人生何があるか分からない。

「あはは……私もです。記也に、学校行ったらすぐに恋人出来そうだなって言われました」

「涼恵は美人だもんね」

 涼恵は家から出てこなかっただけで、いざ外に出てしまえばその美貌と知性に一目ぼれする男は多いだろう。

(まぁ、だから恵漣とか佑夜とかはすっごいにらみを利かせているけど)

 むしろ、自分が彼女と付き合えたのは奇跡に等しいだろう。

「涼恵は、俺のどこが好きになったの?」

 不意に尋ねると、涼恵は「そうですね……」と考え込んだ。

「優しいし、頭もいいし……空色の瞳も好きだし……どこが好きになったって聞かれても、答えられないですね……」

 頬を染め、そう答える涼恵に怜も顔を赤くした。

「ぎゃ、逆に怜さんはどこが好きになったんですか?」

 話をそらしているようでそらせていない涼恵の質問に、怜は「うーん……」と考える。

「俺も似たようなものだよ。趣味も合うし、赤い瞳も好きだし……」

 言っていて恥ずかしくなってきた。

「しょ、小説書こうか!」

「そ、そうですね!」

 いたたまれなくなって無理やりそらすと、涼恵もそれに乗った。

 夕食時、「どうしたの?涼恵さん」と愛斗に聞かれた。

「な、何でもないよ、愛斗君」

「ふぅーん……まぁいいや!一緒に食べよ!」

 愛斗が手を握ると、隣同士に座った。そして怜の方を見て涼恵に気付かれないように笑う。

 ――ほかの男に取られないようにね?

 そう言っているようで、怜も隣に座った。

「怜さんも一緒に食べます?」

「うん。今日は恵漣が当番だったよね」

「ボクにも構ってよ、涼恵さん」

 愛斗が引っ付くと、涼恵は「どうしたの?愛斗君。今日ずいぶん甘えただけど」と困ったように笑った。

「たまにはいいじゃん。ボクだって甘えたいんだよ」

 そう言ってすり寄る。

 ……こいつ、絶対わざとだ。

 そう思いながら、怜は二人の様子を見ていた。


 テスト期間一週間前になり、記也が涼恵に泣きつく。

「すず姉ー!どーしよー!」

「とにかく勉強するしかないでしょ?教えてあげるから」

「あんがとー!」

 この姉、確かに学校には行っていなかったが超がつくほどの天才なのである。

 記也に教えていると、慎也も「涼恵ー!教えてくれー!」と懇願した。

「慎也君も勉強出来るようになろうね……」

 涼恵は苦笑いを浮かべながら、教え始める。

「涼恵、手伝おうか?」

 怜が声をかけると、「それなら、寮で勉強会でも開きます?」と笑った。

「いいですね、乗りました」

「ボクも。涼恵さんと一緒に勉強なんて久しぶりだし」

「うんうん。ボクもやりたーい」

 兄と幼馴染が乗ってくる。ほかの寮生もやりたいと言い出したため、夜に勉強会が開かれることになった。

 夜、下の階の人達も集め五階の広間で勉強会をした。

「レンレンー、ここ教えてくれー」

「蓮ー、ここが分からないよー」

「はいはいそこ初歩的なところだからなー、お前ら二人やばいと思えよー」

 蓮はとても大変そうだ。まぁ、勉強出来ない人が約二名いるから仕方ない。

「シンシア、分からないところはあるか?」

「いえ、大丈夫ですよ、兄様」

 シンシアの方は兄が教えたそうにしている。姉はうらやましそうに見ていた。

「すず姉、ここ教えてくれー」

「ここは……」

 涼恵は記也につきっきりだ。恵漣も亜花梨に教えている。

「すずちゃんって、本当に頭がいいんだねー」

 啓が言うと、「涼恵さん、勉強はちゃんとしていたからね」と愛斗が答えた。

 その時、涼恵のスマホから着信音が響いた。

「ごめんなさい、ちょっと出ますね」

 そう言って涼恵は立ち上がり、その電話に出た。

「もしもし。……はい、あ、そうなんですね。はぁ、面倒だなぁ……」

 会話を聞いている限り、何やら面倒ごとが起こっているようだ。領地のことだろうか?

「うん?一か月以内に解決したいから二週間で調べてほしい?何言っているんですか?

 ――二日で終わらせるさ。こっちもちょうど追っていた奴がいたしな」

 急に声が変わったため、何も知らない人達は驚いた。

 電話を切り、

「ごめんね、ちょっと用事が出来たから少し席を外すね」

 そう言って、涼恵は部屋に戻ろうとした。

「どうしたの?涼恵さん」

 佑夜が引き留めると、涼恵は振り返って、

「私が追っている奴の足取りがつかめるかもしれないの」

 それだけ言って、今度こそ部屋に戻った。

「あー……今回は邪魔しない方がよさそうだな……」

 慎也が呟いた。何をするのか分からないが、聞くことが出来なかった。


 涼恵は自室に戻り、ブルーカットが入った眼鏡を付けた。そして、

「さぁて、始めようか」

 パソコンをカタカタと打ち始めた。


 次の日、涼恵が食堂に来ていないことに気付いた怜は部屋に向かった。

「涼恵、起きてる?」

 ノックをして尋ねるが、返事はない。ドアノブを回してみると開いていたので入ってみる。

 涼恵は暗い部屋でパソコンをかかっていた。

「涼恵」

 声をかけると、ようやく気付いたのか「あ、怜さん。おはようございます」と振り返って笑った。

「いつからやっているの?」

 困ったような表情で聞くと、「昨日から一睡もしていないですよ」とあっけらかんと答えた。

「昨日からって……無理してるんじゃないの?」

「いえ、むしろこの程度の情報なら一日で出来ますよ。わざわざ昨日の勉強会を抜け出す必要はなかったです。でも、私の方がどうしても追加で調べたいことがあって」

 今は私のパソコンを見ない方がいいですよ、と笑って言いのける。

「え?なんで?」

「ちょっとグロい映像とか流していたので」

「涼恵、そういうの好きなの?」

「いえ、嫌いですけど……今回ばかりはどうしても必要で」

 なんで?と首を傾げながら「ご飯の時間だから、食堂に来てね」と告げて部屋から出た。

 怜が戻ったことを確認し、パソコンに映っている画面を見た。

「……薄々気付いていたけど、やっぱり……」

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