表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/12

両想いの二人

 次の日、学園内の空き教室で寮生達と一部の教師が集まった。

「昨日、涼恵ちゃんが狙われたというのは本当か?」

「うん。あれは確かにモロツゥだったよ」

 ファン、という音とともにその情報を魔法で出す。そして、ホログラムのように手でずらしながら、

「おそらく、それなりの地位の人じゃないかな?誰も彼に対して変だと思ってなかったから。……あぁ、いや、怜さんはおかしいって思ってましたね」

 不意に話を振られ、怜は目を丸くする。涼恵はモロツゥのことを教えてくれた。

「昨日、教えるの忘れていました。私達の力は特殊であるゆえに、主にモロツゥとトリストという組織が狙っているんですよ。で、モロツゥは昼でも堂々と動く代わりに他人からは変だと思われないように魔法をかけているんです。だから、よほど集中していないと分からないんですよ」

 だから、あの時驚いていたのか……と怜はようやくつながった。

「涼恵は分かってたの?」

「今まで対峙してきましたからね、あれぐらいなら分かりますよ」

「何なら、そういった索敵能力は涼恵ちゃんが一番だよな」

 蓮が間に割って入った。それに涼恵は「まぁ、私達の家系は攻撃向きではないからね」と笑った。

「そうだな。どっちかっていうと人を守る力だもんな。森岡家や成雲家の結界を張っているのも君だったし、回復系が得意だしな」

「蓮ちゃん達みたいに攻撃系が得意だったらよかったんだけどね」

「ボクからしたら助かってるよ。情報も確実だしな」

 今は森岡家も成雲家も女子供しかいない。シンシア達の方も子供だけで来ているから、身を守るためには自分達でどうにかするしかない。

「それに、護身術も身に着けているからな」

「誰もいないときに襲われたら大変だもん」

 確かにきょうだいや幼馴染が守ってくれるが、いない時ももちろんあるわけで。そうなった時、自分の身を守れないといけないのだ。

「そうなの?見てみたいなー」

 啓が笑いながらそう言った。それを記也と亜花梨が冷や汗を流しながら止める。

「い、いや、マジでやめた方がいいっすよ」

「そうだよ。お姉ちゃん、本当にすごいもん」

 そこまでなのかと思う。涼恵は蓮に比べ、かなり細身だ。そこまで力があるようには思えない。

「涼恵ちゃんの得意技、見れるの!?」

「シンシアちゃんも見たいの?」

「本当にシンシアは涼恵の得意技が好きだな」

 ぴょんぴょん跳ねているシンシアに、ユーカリが笑いかける。

「では、リクエストにお応えして」

 涼恵が啓の手首を掴むと、

「えいっ」

 そのまま、啓が宙を浮いて地面に伏せる。この間、わずか一秒。された本人は目を丸くしていた。

「涼恵は見た目に反して、大の大人を倒すぐらいの力を持っているんですよ」

「……それは先に言ってほしかったなー」

 恵漣に言われ、啓はため息をついた。

「あ、でも」

「はい?」

「ここだとすずちゃんの下着が」

 言い切る前に恵漣のげんこつが飛んできた。涼恵は顔を真っ赤にしながらスカートを抑える。

「ばばばバカ!ヘンタイ!悔い改めてください!」

「おー、決め台詞が決まったな」

「ううううるさい慎也君!てか決め台詞って言うな!」

「うちの妹に不埒な真似をするようなら……分かっていますね?」

 涼恵はかわいらしく怒るが、兄の方が怖い。まぁ当然の反応ではあるが。

「あー、それで。昨日会ったのは本当にモロツゥなんだな?」

 蓮が軌道のそれた話を戻した。それに涼恵は「うん。あれは確かにモロツゥの人間だよ」と顔が赤いまま頷いた。

「だったら、君の護衛を増やした方がいいかもな」

「え、それを言うなら蓮とシンシアちゃんもじゃない?」

 風花が不思議そうに言ってきた。

「風花、考えてみろ。情報係のりゅうが捕らえられたら、どうなる?」

「えっと……結構きついよね。蓮がいるから助けられそうだけど、りゅうもいてくれた方が救出も早いかも。戦えないから心配だし」

「それと同じこと。涼恵ちゃんはボク達にとっても重要な立ち位置だ。すぐに分析してくれるし、りゅうと同じぐらい正確だ。しかも女の子だから狙われやすい」

「なるほど」

 どうやら納得してくれたらしい、風花は頷く。情報係というのが気になるが、聞いてはいけないのだろう。

「それだったら、怜がいいんじゃね?」

 慎也がそう推してきた。それに怜は驚く。

「いや、俺そこまで強くないよ?」

「それは鍛えてやるから大丈夫だ。それよりすぐに気付けるというところが重要なんだ」

「そうだね、普通の人でモロツゥの魔法をすぐに見抜く人の方が必要だよ」

 怜が無理だというが、祈花の双子が首を横に振った。

「そりゃあ戦うだけなら、涼恵一人で十分だ」

 そう言われてはぐうの音も出ない。涼恵とて戦えないほど弱くはないだろう。

「でも、涼恵も女だ。不意打ちにあったら絶対に負ける。安心しろ、お前がボク達と同じように戦えるとは思っていない。ただ、守るだけでいい。それなら、いくら非力なお前でも出来るだろ?」

「兄さん、年上の人にそんな言い方はないだろ?でも、そうだね。その方がいいかも」

 なぜか勝手に話が進んでいると怜は冷や汗を流す。しかもサラッと失礼な発言もされていたような。

 ――でも、涼恵を守れるなら。

「……分かった、俺で務まるかは分からないけど」

 怜は了承した。

「そう言えば、涼恵さんは夏服じゃないの?」

 不意に廉人が首を傾げる。確かに、ほかの人達は夏服を着ているのに涼恵だけ冬服のままだった。かなり目立つ気がするのだが。

「あー……えっと……」

 涼恵は少し言いにくそうにその答えを告げた。


 実は先週、夏服が届いたので雪那がいるところで着てみたのだ。

「うん?ちょっときついな……」

「でも、サイズはそれであってるよね?」

 しかし、ボタンがなかなか閉まらず無理やりつけようとした。実際、それでなんとか入ったのだが、

「なんか、ギチギチだね……」

「そうですね……」

 そう言った途端、ブチンと胸元あたりのボタンが弾け飛んだ。


「……それで、大きいサイズを頼んで今は裾直し中で……来週来る予定です……」

 涼恵は顔を隠していた。廉人も耳まで真っ赤にする。

「……不躾に聞いてごめんね」

 まさかそんなフィクションみたいなことが本当に起こるとは。

 ちなみに、冬服でも同じことが起こっていたのは言うまでもない。

「じゃあ、涼恵。怜のトレーニング任せたぞ」

 慎也の言葉に、止めたのは記也と亜花梨。

「すず姉に任せるのか?」

「お姉ちゃんじゃなくて別の人がいいんじゃない?」

 しかし、慎也は首を横に振った。

「いや、涼恵に任せる。もう少し仲良くなった方がいいだろ」

 慎也はそう言ってニヤリと笑う。しかし、さっきのあれを見てしまってはさすがの怜も身が引ける。

「す、涼恵。お手柔らかにお願いね?」

 涼恵に頼み込むと、「えぇ、もちろん」と頷いた。分かってくれたかと思ったが、

「孝さんぐらいの男性を投げ飛ばせるくらいにはなりましょう」

「いやお手柔らかの意味知ってる!?」

 ……明日は筋肉痛を覚悟しないといけなさそうだ。

「そういや、廉人先生とすずちゃんって知り合いなのー?」

 啓の質問に「いきなりどうしたんだい?」と廉人は首を傾げる。

「なんか、転校初日から先生達とは普通に話しているみたいだったから、もしかしてと思ってさー」

「まぁ、そうだね。涼恵さんとは知り合いだよ。亜花梨ちゃんの教育係を任されていてね、その時に会っているんだ」

「そうだったんだー」

 それは意外だった。聞けば、雪那直々の指名だったらしい。

「私とは前の職場で顔見知りだったからね、学校の先生になるなら頼もうって」

「本当に人使いが荒いよ……」

 ハハハ……と廉人は苦笑いを浮かべた。

「何か言ったかしら?」

「な、何でもないよ。だから魔方陣を浮かべながら近づかないでくれるかな?」

 雪那がニコリと笑うと、廉人は冷や汗を流した。

 雪那さん、怖いもんなー……。

 怒らせてはいけない人上位に君臨する。

「まぁまぁ、雪那さん。落ち着いてください。廉人先生も悪気があって言ったわけじゃないんですから」

「涼恵が言うなら、仕方ない」

 ……この人達は涼恵のことになると甘いな。

 そう思いながら、ほかの人達は見ていた。


 その日の夜、寮のトレーニングルームで涼恵と怜が鍛錬をしていた。

「大丈夫ですか?」

「す、涼恵って強いんだね……」

 怜が息を切らしながらそう言った、事実、涼恵はその細い身体のどこにそんな力があるのかと聞きたいほど強かった。これ、護衛必要ないんじゃない?なんて思考がよぎってしまう。

「一応、家では雪那さんに剣道を教えてもらっていましたから」

 まさかの武闘派だった。

 護身術を身に着けるためなら剣道じゃなくてもいいよね?と思ったが、それはそれで怖かったのであえて言わなかった。

「……ねぇ、なんでそこまで私を守ろうとしてくれるんですか?」

 不安げに、涼恵は尋ねた。

「なんでそんなことを聞くの?」

「だって、私達他人じゃないですか。それなのに、なんでかなって思って……」

 少し怖がっている。きっと、昔のことを思い出しているのだろう。

(大事な友人だからかな?)

「君のことが好きだからかな?」

「え……?」

 本心と建前が逆になってしまったことに、涼恵が赤くなったことで気付いた。

「――――っ!」

 つられて怜も真っ赤になった。

「ご、ごめん!忘れて!」

 告白するつもりはなかった怜は慌てて頼む。顔を見ることが出来ず、そっぽを見ていたが、

「え、えっと……忘れた方がいいですか……?」

「へ……?」

 残念そうな声に、怜は涼恵の方を見る。

「その、わ、私も、好き、です……で、でも、迷惑ならそう言ってくれていいですから!」

 はわわわ……!と焦っている涼恵が可愛い。同じ気持ちであることに、怜の頭は混乱していた。

 しかし、理解すると怜は「ううん」と涼恵の手を優しく握った。

「その……俺でいいなら……付き合ってほしい」

 そして、はっきりと告白すると涼恵も小さく笑って「はい」と頷いた。


 次の日、慎也が話しかけてくる。

「怜、昨日はどうだった?」

「昨日?まぁ、なんとかなりそうだよ。筋肉痛でやばいことになってるけど」

 実際、全身がかなり痛い。しばらくは鍛錬できなさそうだ。インドア派であることを後悔する日が来るとは思ってなかった。

「違う違う、涼恵とはなんか進展あったか?」

 その言葉に、ハメられたと気付く。

「えっと……」

「なんもなかったんすか?」

 いつの間にか、記也も話を聞いていた。

「いや、その……」

「どうしました?怜さん」

 そこに、涼恵がやってくる。記也が早速「昨日怜さんとなんかあったか!?」と聞いた。

「え!?いや、その……!?」

「なんかあったんだな!」

 弟に詰め寄られ、涼恵はアワアワとしている。すると「こらこら、やめなさい」と見ていた佑夜に止められていた。

「え?すずちゃんも付き合い始めたの!?」

 舞華が嬉しそうに手を握った。舞華もゴウと付き合っている、彼氏がいる者同士で話がしてみたかったのだ。

「なんでこうすぐバレるかなぁ……?」

 そんなに分かりやすかっただろうか?

「涼恵はともかく、お前は結構分かりやすかったぞ」

「うん、ボクでも分かったからね」

「佑夜は案外鈍感なところあるもんねー」

 守護者三人がそれぞれそう言った。

 ……もう少し隠す努力はしよう……。

 そう誓った怜だった。


 学校内では、涼恵に話しかけてくる男子生徒達がたくさんだ。

「ねぇ、森岡。今日おれと……」

「え、いや、私、やることあって……」

「たまにはいいじゃんか」

(あぁああああああ兄さんの殺意が!)

 男子生徒の後ろには殺意を込めた視線で見ている怜が立っていた。それを見ていた蘭が顔を真っ青にした。

「ちょ、兄さん。勉強教えてくれないか?」

「うん?いいよ、蘭」

 小声で頼むと、怜は快く引き受けてくれた。しかし、

(……全然収まらない!)

 怜の殺意が収まることがなかった。

「えっと、怜さん。大丈夫っすか?」

「大丈夫だよ、気にしないで」

(いや気になるって!)

 怖すぎて冷や汗が流れるほどだ。

「ほ、本当に涼恵のことが好きなんだな」

 蘭が言うと、「もちろん」とニコリと笑った。

 ――まぁ、兄さんが幸せならいいけど……。

 この兄、実はかなり嫉妬深いのだ。多分大変だろうなぁ……と我が兄ながら思う。

「あんまり困らせないようにしろよ、兄さん……」

「大丈夫だよ、やるとしても佑夜と協力するから」

 そういえばあの人も涼恵に対してはかなりの過保護だった。

(まぁ、いいか……)

 こうなっては止められないと、蘭は早々に諦めた。


 放課後、一緒に帰っていると涼恵が怜の腕を抱きしめた。

「どうしたの?涼恵」

「……昼休みのあの人、毎日詰め寄ってくるからちょっと怖くて……」

 よく見ると、腕が震えていた。怜はその頭を撫でた。

「大丈夫だよ、俺がいるからさ」

 そう言って微笑むと、涼恵は安心したようにコクッと頷いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ