辺境警備隊に吹っ飛ばされて戻って来た公爵令息と婚約しました。反省しているようです。
メリアは王立学園の廊下を歩いていただけである。
すれ違った令嬢に思いっきり足を引っかけられ、転んだ。
そこへ頭から花瓶の水を引っかけられた。
「あら、ごめんあそばせ。」
「手が滑ってしまいましたわー。」
メリアを馬鹿にして、せせら笑っているのは男爵令嬢達である。
ここはフィルディス王国の王立学園。
そこの廊下でいきなり、メリアは足を引っかけられ、転んだところを頭から花瓶の水をかけられた。
「こちらこそ申し訳ございません。」
慌てて土下座をして、メリアは二人の男爵令嬢に謝る。
男爵令嬢の一人、マリア・プリッセナは、にやりと笑って、
「平民ごときがこの王立学園に通うことが間違っているのよ。」
「そうよ。本当に下賤だわよねー。」
もう一人の男爵令嬢、アリーナ・コルドも同意する。
虐められているのはメリアだけではない。
王立学園は貴族が通う学園だ。
平民は入学試験がある。それに優秀な成績で合格すれば、平民でも特別に王立学園に入学できるのだ。
王立学園生なら、王宮にある貴族にだけ開放している図書館にも入館することが出来る。
高度な教育も受けることが出来る。
それに、平民は奨学生として、学費はただにしてもらえる。
高度な教育を受けたいと願う平民達にとって、王立学園は憧れの場だった。
しかし、せっかく入れても、数少ない平民であるメリア達は、事ある毎に貴族達に虐められた。
二人の令嬢達が、その場を去った後に、平民の友達達がメリアを心配してくれた。
「メリア。大丈夫かい?」
「怪我はない?」
「それにしても、あいつらは特にひどいよな。」
親友のリーナは、ハンカチを差し出して、濡れたメリアの制服を拭いてくれる。
「本当に。私達が何をしたっていうの…ただ、勉強をして、先々、王国の為に役に立ちたいだけなのに。」
友の一人、フェルトも怒り狂って。
「俺達、平民は虐げられて、このまま卒業まで我慢するしかないのか…」
しかし、力のない自分達は耐えるしかないのだ。
濡れた服のまま、午後の授業を受けて、放課後、家に帰ろうと支度をしていれば、
伯爵令息達が二人、やって来て、
「濡れた服のままじゃ、困るだろう?」
「脱がせてやろう。」
「嫌ですっ。」
メリアが逃げようとすれば、手を掴まれる。
そこへフェルトとリーナがすっ飛んできて、
二人はメリアをかばってくれた。
フェルトが叫ぶ。
「か弱い女性を脱がせようだなんて、この王立学園でいくらなんでも許されることではありませんっ。」
リーナも震えながらも、
「そうですっ。先生に訴えますっ。」
伯爵令息の一人、レイド・トッテリアス伯爵令息が、フェルトの胸倉を掴んで、
「お前ら俺に逆らっていいのか?」
もう一人の伯爵令息グリード・カルティスはメリアとリーナの腰を抱き寄せて、
「俺達が可愛がってやるって言っているんだ。いう事を聞くものだ。」
「あら、随分と今年の一年生は荒れているのね。呆れたものだわ。」
その声と同時に、教室に入って来た人物を見て、伯爵令息達は固まった。
金の流れるような髪にスミレ色の瞳のこの令嬢を知らない者はいない。
エレシア・スタンシード公爵令嬢。
スタンシード公爵家と言えば、飛ぶ鳥を叩き落とす程の、フィルディス王国では王家の影を指揮する力を持った公爵家。
宰相であるレドモンド公爵とも手を結び、宰相の娘、シーリアと嫡男ベルトレッドとが婚約を結んだ事は記憶に新しい。
そして、エレシアはカルナード王太子の婚約者であり、王太子はエレシアを恐れて頭があがらないと言われている。
それはもう、学園一、いや王国一、恐れなければならないスタンシード公爵家。そして、エレシアなのだ。
二人の伯爵令息は真っ青になった。
「俺達はこれで。」
「失礼しましたぁ。」
慌てて、教室から逃げ去る伯爵令息達。
エレシアは、メリア達に向かって、
「怪我はないかしら。」
メリア達は頭を下げて、
「お助け頂きありがとうございます。」
「怪我はありません。」
「助かりました。」
エレシアは扇を手に、ホホホホホと笑って、
「怪我がないのならよかったわ。わたくしは失礼するわね。」
エレシアが行ってしまうと、フェルトがメリアとリーナに向かって、
「まさかスタンシード公爵令嬢エレシア様に助けられるとは思わなかったな。」
リーナも安堵したように、
「本当にね。」
メリアは二人に向かって、礼を言う。
「貴方達こそ、私の為にありがとう。」
フェルトが髪をガシガシと掻いて、
「友達だから当然だよ。」
リーナもにこにこして、
「そうよ。私達友達じゃない?」
メリアは頷いて、
「そうね。友達だものね。」
心が痛む。メリアは自分の正体が知られたら、この二人との友情が壊れるじゃないかと、とても心配だった。
メリアは徒歩で、家に帰る。
「お姉様。先程はありがとうございました。」
「いいのよ。それにしても、貴方、どうしてもスタンシードの名を名乗りたくはないの?」
「ええ。いかに私が父の子であろうとも、花屋マーサの娘でありたいと思っていますから。」
スタンシード公爵が若い頃の過ちで、花屋のマーサと恋に落ち、妻がいるのにも関わらず、子をこさえてしまった。
それが、メリアである。
メリアは女手一つでマーサに育てられた生粋の平民なのだ。
今は公爵家に住まわせて頂いているけれども、スタンシード公爵の名を名乗りたくはない。
自分は母マーサの娘なのだから。
兄のベルトレッドが優雅に紅茶を飲みながら、
「それにしても、学園は俺が卒業してから荒れているな…」
エレシアも頷いて、
「わたくしが居るというのに、やりたい放題な一部の貴族達。敵認定ですわね。」
エレシアが敵認定と言い切ると、それはもう恐ろしい罰が下る事は決定である。
なんせ王家の影を取りまとめる一族なのだ。
出来ない事なんてない。
メリアは慌てて、
「あまり過激な事は駄目ですわ。スタンシードの力で粛清するよりも、私、今度の試験で学年で一位を取ります。あのバカ貴族達を実力で見返したいと思います。」
エレシアが呆れて、
「余計に虐めが酷くなると思うわ。」
「それなら、お兄様にお願いが。私に護身術を教えてくださいませんか。」
ベルトレッドが、頷いて、
「成程。護身術。我が王家の影秘伝の護身術をお前に教えよう。」
「ありがとうございます。お兄様。」
エレシアが菓子をその白い手で優雅につまみながら、
「本当にメリアは頑固なのだから…助けが欲しかったら言って頂戴ね。」
「ありがとうございます。お姉様。」
二人はとてもよい姉と兄である。
スタンシード公爵が浮気をして出来た花屋の娘から生まれた自分に、とてもよくしてくれるのだ。
それでもメリアは、実力で示したい。
平民だって、優秀なのだと…試験も何もなくて入学してきた奴らとは違うと。
勉強に励むメリアであった。
放課後も王立図書館へ行き、勉強に励むメリア。
友のフェルトとリーナも一緒に行きたいと言って、三人で真面目に勉強した。
解らないところは教え合い、メリアにとってフェルトとリーナは大事な友達である。
フェルトは鍛冶屋の息子で、リーナはパン屋の娘だ。
「この数学の公式はこちらが正しいのかしら。」
二人に聞いてみれば、フェルトが頷いて、
「そうだね。でもこっちの公式でも解けるよ。」
リーナも真剣に公式をノートに写しながら、
「本当に役に立ちそう。」
二人の様子を見て、ちょっと胸が痛む。
フェルトとリーナは互いに惹かれ合っている。
それは傍にいて痛い程解るのだ。
それでも、二人はメリアを心配し、傍にいてくれる。優しい友達だ。
メリアは二人に向かって、
「貴方達が私の友達でいてくれてとても嬉しいわ。でも…二人の時間をもっと大切にして頂戴。」
リーナが目を見開いて、
「メリア…私は…」
「解っているのよ。リーナ。貴方、フェルトが好きなんでしょう。」
フェルトも真っ赤になって、
「も、勿論。リーナが好きさ。でも、メリア。友として共に頑張りたい。」
メリアは頷いて、
「フェルトの気持ちもリーナの気持ちもとても嬉しい。でもね…ちょっと私、寂しいの。解るでしょう?一人だけ、ぽつんと仲間外れにされているようで…」
リーナが泣き出して、
「ごめんなさい。メリア。貴方は大事な私の友達よ。」
フェルトもしゅんとしたように、
「俺にとっても、メリアは大事な友達だ。」
メリアは立ち上がって、
「ありがとう。二人とも。でも…ね…私は辛いの。」
図書室を出た。
自分はフェルトを好きだったのかもしれない。
いや、リーナの事だって好きだ。
フェルトに対して恋愛感情とかそういうのはないけれども、二人の様子を見ていると辛いのだ。
一緒に頑張ってくれた二人。
友達として気を遣ってくれた二人…
それでも、傍にいるのが辛い…
最近、特に…
図書館の廊下を歩いていると、背後から声をかけられた。
「エレシア嬢?」
金の髪が似ているのだろうか…
名を呼ばれて振り返れば、黒髪の見知らぬ青年が立っていた。
「私はエレシア様ではありません。平民のメリアでございます。」
相手は高位貴族なのであろう。
頭を下げて礼をする。
「いや、失礼。後ろ姿が似ていたものだから。」
「貴方様はどなたでございましょう。」
失礼だとは解ってはいるものの、つい聞いてしまう。
青年は眉を寄せて、
「ルーク・レドモンド。レドモンド公爵家の長男だ。あまり名乗りたくはないんだがね。」
その名を知らない者はいない。
宰相子息の彼は、エレシアの悪口をカルナード王太子と共に、言った罪で、騎士団長子息と共に辺境警備隊へ飛ばされていたはずである。
思わず聞いてしまう。
「ま、まことに無礼であるとは思うのですが、辺境警備隊って噂通りの?男の方が内股になってしまうという?」
「いやその…我が王国の辺境警備隊はまともだったが…どこの警備隊の話だろう。妹がスタンシード公爵令息に見初められて婚約をね。私は許されて戻って来たんだ。まだ運がいいと言うか…」
「それは良かったですね。」
「それにしても平民が?この王宮の図書館に?」
「私、王立学園の生徒なのです。」
「それなら納得だな。」
って、事はこの人、私と親戚になる人?この人の妹さんが、私のお兄様の?
シーリア様は一つ学年が上だから、会った事はないけれども…
しかし、今は平民メリア。
自分の事は貴族社会に知られていないはずである。
「それでは失礼致しますっ。」
「待て。」
「え?何故?待たねばならないでしょうか。」
「実は…君に面影がよく似た女性の事が私は好きだったのだ。」
「え?もしかしてお姉様の事がっ?」
「お姉様って?君は平民のメリアだよね?」
「失礼致しました。エレシア様の事がお好きだったのですか?それなら何故?悪口を?」
ルークは眉を寄せて、
「だって、カルナード王太子が、あの女は堅苦しくてとか…なんとか…言うから。
解ります解ります。やっかいな事は正妻に押し付けて、側室とのんびり愛をはぐくむって奴ですよね。とかなんとか言ったら、エレシア嬢の怒りを買って、辺境警備隊へ吹っ飛ばされたってわけでね。」
「最低ですね…」
「最低とか言うな。」
睨まれてメリアは慌てたように、
「それでは私はこれにて失礼っ…」
「待てっ。」
「まだ待つのですか?」
「お茶に付き合え。公爵令息である自分の命令だ。」
「ああ…厄介なのに捕まった。」
「なんて無礼な平民だ。」
「解りました。」
外のカフェでこの厄介な公爵令息とお茶をした。
メリアは根掘り葉掘り聞かれる。
「私の眼はごまかせないぞ。お前はエレシア嬢のなんだ?」
「だから平民のメリアだって。」
「私は優秀なるレドモンド公爵家の跡取りだ。」
「レドモンド宰相は素晴らしいお方でしょうけれども、跡取りがこれでは…」
「なんて不敬な。」
「辺境警備隊は如何でした?やはりアッーーな世界でしたか?」
「ちょっと…」
こんな事はしていられない。学年で一位を取るために勉強しなくては…
「私、帰ります。テスト勉強しなくては。」
「それなら私が教えてやろう。これでも、勉強は優秀だった。王立学園では学年一位を常に取っていた。」
「それ程、優秀な人が辺境警備隊…」
「煩い。私が勉強を見てやろう。」
王立図書館の自習室へ行き、勉強をルークに見てもらう。
貴族なんてスタンシード公爵家以外は、水をかけられて、罵詈雑言、無理やりのセクハラ。最低な野郎ばかりだと思っていたが、ルークは丁寧に勉強を教えてくれた。
そこへフェルトとリーナが現れて、フェルトは頭を下げて、
「先程はごめん。大事な友達だから。一緒に勉強しよう。」
リーナも涙を流して、
「メリア。ごめんなさい。でも…私…」
メリアは二人に対して頷いて、
「レドモンド公爵子息様が勉強を見て下さるそうです。」
「「ええええっーーー?あの宰相子息様っ?」」
ルークは頭を抱えて、
「悪い意味で叫ばれたんだろうか…」
二人はぶんぶん首を振って、
「いえいえ、悪い意味ではないですっ。」
「そうですっ。そうですっ。」
こうして、三人はルークに勉強を見てもらった。
そして、その甲斐あって、テストの結果は、メリア1位、リーナ2位、フェルト3位と、素晴らしい結果だった。
スタンシード公爵家では褒められた。
スタンシード公爵は、メリアに向かって、
「いい加減にスタンシード公爵家の娘だと名乗らないか?メリア。これだけ優秀な娘がいるのなら私は鼻が高い。」
「お父様。私は花屋マーサの娘なのです。今度の休みには母の所へ帰って親孝行したいと思っております。」
ベルトレッドも、
「護身術の方はだいぶ様になってきた。多少の危害なら躱せるだろうが…」
エレシアが扇を手に、
「それにしても、メリアを虐めた貴族達は許せませんわ。メリア。スタンシード公爵家の名で制裁なさい。」
「お姉様。それは最終手段に使わせて頂きます。ありがとうございます。」
それから数日後、ルークにお茶に誘われた。
「メリア。君もスタンシードの人間だったんだな。」
「ばれてしまいましたか。でも、私の母は花屋のマーサです。私自身はスタンシードの人間という気持ちは…でも…お父様もお兄様もお姉様もとてもよくしてくださって。」
「そうか…その…私の妹と君の兄上が結婚することは知っているな。」
「ええ。シーリア様がお兄様の妻になるなんて…素敵な方だと伺っております。」
「そう、その…あの…私は許されて将来レドモンド公爵家を継ぐことになっている。それでだな。君の事…」
「政略ですか?必要ないではありませんか。お兄様とシーリア様が結婚する時点で、スタンシード公爵家とレドモンド公爵家と強固な結びつきが出来る。それで政略は達成されたのですから。」
「メリア…その私の気持ちはだな。」
「私は先々、王立学園で学んだ事を生かして、スタンシード公爵家の為に働こうと、もしくは王宮で政務官になろうかなと…」
「それならば、私の妻になっておくれ。」
「嫌です。だって私、貴族の作法なんて…今、王立学園で作法の授業もありますが…私に公爵夫人は務まりません。」
「学年で一位を取る実力だ。スタンシード公爵令嬢としての価値もあるが、君自身も優秀ではないか。必ず我がレドモンド公爵家の為に君は役立つ。頼む。私と結婚してほしい。私は優秀な妻が欲しいのだ。」
「改心しましたね…」
「それを言うか?」
「カルナード王太子殿下と共にお姉様の悪口を言って、辺境へ飛ばされたとは思えない。」
「あああああっーーー。心の傷が…」
「でも…私でよろしいのでしょうか?そちらのご両親が反対するのでは?」
「私の妻になりたい女性なんていないのだ。高位貴族の女性達は大抵、婚約者がすでにいる。いない者は何かしら問題がある者しか残っていない。」
「だから、残っていたのですね?」
「納得するなーーーーっ。」
メリアは思った。
この人、根は悪い人ではない。だが、以前の発言で、女性を馬鹿にするような。仕事を正妻に任せて、愛を側妃と…とかなんとか…全女性を敵に回すような発言をかました奴なのだ。
メリアはルークに向かって真顔で、
「愛人は認めませんよ。白い結婚は嫌です。後ろは無事ですか?女性にちゃんと興味ありますか?」
ルークも真顔で顔を近づけて、
「誓って後ろは無事だし、妻一筋に愛する。愛人は作らない。」
「解りました。それならば、正式にスタンシード公爵家に申し込んでください。受けましょう。」
「ありがとう。メリア。ありがとう。」
結局、メリアはルークと婚約する事となった。
どう、フェルトとリーナに説明しよう。
「平民であるメリアが、レドモンド公爵令息と婚約をねー。」
「ルーク様と言えば、ほら辺境騎士団へ飛ばされて…」
二人の男爵令嬢達が意地悪く、こちらを見て悪口を言っている。
フェルトとリーナは祝ってくれて…悪口を言う二人に対して、メリアに、
「気にしない。気にしない。」
「そうよ。本当におめでとう。玉の輿ね。」
まだスタンシード公爵家の娘だって二人に伝えていない…どうしよう…
伯爵令息達が、メリアに近づいてきて、
「お前があのルークと婚約を?」
「ルークは余程、焦っているんだなぁ。」
何だかイライラしてきた。
ルーク様だって反省しているのよ。
こいつら…いつまでもネチネチと。
伯爵令息レイドが腰を引き寄せてくる。
思いっきり、その腕を振り払い、股間を蹴り上げた。
グシャっ。なんか嫌な音が聞こえた気がしたけど気のせいだろう。
もう一人のグリードが怒り狂ったように、とびかかって来た。
思いっきり護身術でグリードを投げ飛ばしたら、窓の外まで飛んで行った。
生きていればいいけれども…
男爵令嬢達は真っ青になって、
「暴力はいけないわ。」
「そうよ。暴力は…私たちは貴族。貴族に逆らったら…」
メリアは叫ぶ。
「貴族が何様よ。平民の働きの上に貴族がなりたってんの。それなのに、平民を馬鹿にするな。」
その時、扉ががらりと開いて、エレシアが例のごとく入って来た。
もしかしてお姉様。影を使って見張っている?いや見守っている?
エレシアは二人の男爵令嬢達を睨みつけて、
「我が妹に今までよくも虐めをしてくれたわね。貴方達はスタンシード公爵家の敵認定ですわね。男爵家がどうなるか…跡形もなくなるでしょうね。」
男爵令嬢達は真っ青になって涙を流して、
「お許しをっーー。」
「まさかメリアがスタンシード公爵家の人だったなんて。」
フェルトもリーナも驚いて、二人とも慌てて土下座する。
「メリア様っーー。知らぬ事とはいえ…」
「申し訳ございません。」
メリアはフェルトとリーナに駆け寄って、座って二人に向かって、
「貴方達は私の大事な友達。今までもこれからもずっとよ…」
「ありがとう。メリア様。」
「メリア様ぁーー。」
メリアはフェルトとリーナを抱きしめて、泣いた。
この二人は大事な友達…
「様なんていらない。ずっと私はメリアよ。」
その後、メリアや平民達を虐めていた伯爵家や男爵家はスタンシード公爵家の妨害にあって、借金まみれになり、跡形もなくなった。
二人の伯爵令息は、メリアからの正当防衛なる怪我から回復した後、まともな辺境騎士団ではなく、これはもう、内股になってしまうであろう例の辺境騎士団へ飛ばされた。一生帰ってこられないだろう。
男爵令嬢達は、娼館へ身を落とし、一生懸命働いて、男爵家がこさえた借金を返している。
そして、メリアはルークと婚約した。
スタンシード公爵家はレドモンド公爵家と更に深く結びついて、フィルディス王国内でそれはもう、強い権力を持ち、国王やカルナード王太子殿下も言いなりになる位であった。
ルークは約束した通りに愛人を作らず、メリア一筋に愛して、メリアも公爵夫人としての教養やマナーを身に着け、二人の間には子宝にも恵まれて、レドモンド公爵領も発展し、それはもう幸せに暮らした。
フェルトとリーナ夫妻とは生涯、友達付き合いをし、苛烈なスタンシード公爵家の人間には珍しく領民に寄り添う穏やかな公爵夫人だったと記録に残っている。