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城崎ガールズ  作者: モリオ
9/17

一の湯

海鮮が美味しい晩御飯を食べ終え、部屋へ帰ってきた。

「ねぇ愛菜! 外湯でも回ろうよ!」

芽衣が誘っているのは、城崎の名物『外湯回り』だ。外湯が7個あり、旅館から貰える無料券さえあれば自由に回れる。

「いいよ。どこの温泉回ろっか」

「一の湯行ってから鴻の湯に行こっか!」

「わかった」と言い、私は準備を進めた。内心、一の湯を避けたがっている自分がいた。でも、乗り越えなければ、いけないんだ。

気付けば小刻みに震えていた私を、芽衣は優しく抱きしめた。

「愛菜! 大丈夫だよ! 一緒に楽しもう!」

もしかしたら芽衣は、乗り越える覚悟を持った私の背中を押す為に『一の湯』を選んだのかもしれない。

「芽衣。ありがとう。楽しもうね」

「うん! せっかくだからさ、浴衣着て回ろうよ! 無料のなら、部屋に置いてあったし!」

芽衣はタンスを開けると、浴衣が2着入っていた。

「わぁ。可愛い。イイね。着替えてから、外出よっか」

私たちは、着物に着替え、夜の城崎温泉へと繰り出した。

川の水面に街灯りが反射して、幻想的な光景だ。やっぱり夜の街を歩くと、思い出しそうになる。

「ねぇ。芽衣」

「どうしたの!」

「……手を繋いで、歩きたいな」

「え! あ! い、いいよ! はい! どーぞ!」

芽衣はぶっきらぼうに手を私へ差し出した。目は真っ直ぐ前を向けたままだ。歯を食いしばり、顔は赤面している。

「ふふっ……」と言いながら、私は芽衣の手を握った。

暖かい。私の冷えた心を、包んでくれそうな温もりだった。

「あの……さぁ? 愛菜から、何かお願いをするって、珍しいよね!」

「そう……かな?」

「うん! ちょっと、ドキッとしちゃった!」

芽衣は赤面した状態で、視線を宙に逸らしながら言った。

私は、からかうように「えぇ〜。そんなこと言わないでよ」って言った。

「だって! 本当なんだもん!」

必死に恥ずかしさを隠そうとする芽衣を見て、笑ってしまった。

夜の街中を歩くと、闇へ吸い込まれそうな気分になる。芽衣の温もりは、闇へ吸い込まれそうになっても、引き上げてくれそうな感じがした。

やがて、一の湯の前に着いた。目の前は事故現場だ。

思えばあの日もそうだった。一の湯に入ってから、写真撮影をした。その途中、車に轢かれた。

やはり、いざ目の当たりにすると、身体がこわばるのを否定出来なかった。

「愛菜! 大丈夫だよ! 行こ?」

愛菜は、優しく包んでいた私の右手を引っ張って、一の湯へと入った。

中の様子は賑わっていて、安心した。

受付を済ませ、脱衣所へ歩みを進める。

芽衣とは、手を繋ぎっぱなしだったが、脱衣所へ着き、ずっと繋いでいた手を離した。

寂しさが私を襲った。気付けば私は、芽衣に依存していたのだ。

顔が青ざめ、硬直した私に、芽衣は「大丈夫だよ! 芽衣! 早く行こ! 楽しみだな〜〜!」と言った。

その言葉に後押しされ、私は服を脱ぎ切った。

浴場へ入り、軽く体を洗ってから、湯船へ向かう。

芽衣の後押しを受け、露天の方へ。洞窟を意識した造りだった。反対側から見える森の景色もあり、大自然の中で入浴している気分を味わえる。

「ぷは〜! 気持ちいいよ! 愛菜も早く早く!」

芽衣に急かされ、湯船に足を滑らせる。

……!!

温泉は暖かくて気持ち良かった。

まるで、冷め切っていた私の心を温めてくれているかのように。

「ね! やっぱり気持ち良いよね! 愛菜の顔、さっきと全然違うもん! う〜ん。何て言えば良いだろう? 副交感神経が刺激されている感じ?」

「リラックスした顔になってるって言った方が分かりやすくない?」

「そ、そーだね! 愛菜! リラックスした顔してるね!」

慌てて言い直している芽衣の姿が可笑しかったので、笑ってしまった。

私は、3年前にトラウマのあった一の湯で、リラックスしていた。

ありがとう。芽衣のおかげだよ。

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