旅館
「愛菜! ここだよ!」
芽衣が指を刺した先には、年季が入った外見の旅館があった。
名前は『なだぎ荘』と書いてあった。
旅館の手配は芽衣が全部やってくれていた。なだぎ荘を紹介した時「ご飯が美味しくて安い旅館」と言っていた。値段が最優先だったのと、ご飯も美味しいということであれば、何も問題なかった。
「じゃあ! 入るね!」と言って、芽衣は扉を開けた。
「こんにちはっ!」
「こんにちは! 予約していた芽衣です!」
「芽衣さんですね……確認出来ましたっ! 長旅ご苦労さんっ!」
「ありがとうございます!」
チェックインの手続きが行われていき、鍵を貰った。
3階まで上がり、扉を解放した。2人には広い畳の部屋がお出ましだ。よく見ると6人部屋と書いてあった。
「口コミにはボロボロって書いてあったけど、悪くないね! 部屋が畳なのも落ち着くし、なだぎ荘にして良かった!」
安くてご飯も美味しくて部屋も悪くない場所を選んでくれた芽衣には本当に感謝だ。ありがとう。
耳元で「プゥーーン」と音が響いた。
「うわあぁぁ」
私は腰を抜かした。音が鳴る方を向くと、一瞬ハエと見間違えてしまうぐらい、大きい蚊が飛んでいた。
「芽衣〜見て。めちゃくちゃ大きい蚊が飛んでるよ。こ、怖い……」
「うわぁ! ホントだ! さすが城崎! 滋賀県でもハエのような蚊はあまり見たことがない! はっはっは!」
「芽衣〜早く〜」
「待ってろよハエ蚊! この私、芽衣が成敗してやる〜〜!」
「頑張れ〜芽衣。やっつけないと夜が眠れなくなっちゃう」
「おう! 任せとけ!」
芽衣は親指を立て、蚊へ向かって勇敢に立ち向かっていった。