決死の覚悟
「着いた! 玄武洞前だ!」
雨足が強まる中、玄武洞公園駅に着いた。目の前には玄武洞ミュージアムもある。
バスの扉が開くと、雨水がバスの中へと入ってきた。
この雨の中を歩くのか……と思うと、逃げ腰になってしまう。
それでも、行かなければいけないんだ。
「愛菜! 本当に、この中を歩くんだよね?」
「うん。歩く。それが私がやらなければいけない『覚悟』だから」
「分かった! 私も着いていくね!」
バスを降り、歩みを進めた。玄武洞公園に入り、前へ進んだ。
風の勢いは奥へ進むたびに、強くなった。
「あっ!」
芽衣の傘が上空へ飛ばされた。傘は天まで上がり続け、見えなくなった。
「もうヤダよ〜〜うわぁぁ〜〜ん!」と、芽衣は大声で泣いた。
芽衣には本当に悪いことをした。謝らなければいけない。
結局、私の傘に芽衣も入れ、歩みを進めた。雨の勢いが凄くて、傘が意味を成していなかった。全身ビチョビチョになった。
少しずつ、前へ前へ歩みを進めた。そして遂に
「着いた! 玄武洞だ!」
石で出来た大穴が、そびえ立っていた。
『生命力を高め、魔を寄せつけない』という石言葉の通り、どっしりしていた。昔から、城崎にいる番人のようだ。
「やっと、辿り着いた」
私は今にでも倒れそうだった。意識が朦朧としている。
どこからか、声が聞こえた。
「愛菜ちゃん。強くなったね」
ブワッ
声の方向を振り向こうとする前に、一面が白い濃霧に染まった。横にいるはずの芽衣が見えない。
雨は止んだのだろうか? 自分の体が濡れすぎて、雨に打たれているかどうか分からない。
「愛菜ちゃん」と後ろから声が聞こえた。
振り向くと、蓮が立っていた。
「久しぶりだね」
「蓮……生きてたの?」と私が言うと、蓮は首を横に振った。
「俺は3年前に死んだよ。今、目の前にいるのは、自分の意識を実体化させているからなんだ」
「へえぇ……」
「実体化させるのに凄いパワーを使うんだ。今日、パワーを使い果たしてしまうから、愛菜と会えるのは、最後だ」
「……難しいこと、よく分かんないや」
信じたくないだけだった。蓮と本当のお別れをするなんて、嫌だった。
「もう一度だけ、愛菜に会いたかった。そして、伝えたかった」
風が吹いてきた。お別れが近いような気がした。
「ありがとう」
「幸せになってね」
強風が襲いかかった。立っているのに必死で、目を開ける余裕も無くなった。
「蓮〜〜〜〜〜〜」
返事は無く、風の音しか聞こえなかった。
霧は風に乗って、天へ羽ばたいた。そして、消えた。蓮も一緒に乗っているのだろうか。
強風が収まった。目を明けると、日差しが舞い降りた。空を見上げると、雨雲は消え、雲一つない青空が広がっていた。
「愛菜〜〜!」
振り返ると、涙顔の芽衣が走ってきた。
「無事で良かったよ〜〜! 怖かったよ〜〜! うわぁぁん!」
芽衣は私に抱きついた。私もそっと抱き締め、芽衣の頭を撫でた。
そして、一緒に泣いた。




