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城崎ガールズ  作者: モリオ
13/17

記憶の中で生きる

鴻の湯を出て、木屋町通りの夜景を眺めながら、のんびり歩いていた。

「やあ。また会いましたね」

「え?」

背後から声をかけられた。背筋がゾクッと震えた。

振り返ると、どこかで見たことがあるお兄さんが立っていた。

「あ! この人、カニの店の厨房に立っていた人だ!」

「その通りです。仙波って呼ばれていた人は、僕のことです。愛菜さんを見た時から、ずっと話したいと思ってました」

私に目を向けて、仙波さんは言った。

「え! もしかして、ナンパ!?」

「違います違います笑 僕はそういうのに興味ないんで。。アナタたちとどうしても喋りたかったので、後を着けてしまったこともありました。申し訳ございません」

「え! そうだったのぉ! ストーカーじゃん!」

「はい。ストーカーです」

あっさり認めちゃった! ヤバいよこの人……。

そもそも何で私の名前を知ってるの?

変な人だと思ったので「あなたは何者なの?」と聞いてみた。

「僕は城崎に住んでいる、ただの人ですよ。3年前の事件が忘れられないんです。夜はいつもこの川へ来て、忘れないようにしています」

3年前……?

私の彼氏が車で轢かれたのも、3年前だ。

待てよ……?

カニの店で見た時から思っていた。

どこかで、見たことがあると。

「……愛菜?」

そっか。

「思い出したよ」

間違いない。

「あの日に、写真を撮ってくれた、お兄さんですね」

「そうですよ。思い出してくれてありがとうございます」

「私のこと、覚えていたんですね」

「当たり前じゃないですか。忘れるわけがないです。僕が2人の幸せを奪ってしまったんで」

「どういうことですか?」

「僕があの時、写真撮影に付き合ってもらわなければ、こんなことにはならなかった」

!?

衝撃だった。

仙波さんは、自分が全て悪いと受け止め、今日まで生きてきたのか。

「君には生涯をかけて償いたいと思っていました。でも、あの事件の後、君は意識を失い、僕は連れて行かれました。元々、赤の他人だった僕たちは、連絡を取る術がありませんでした。

仙波さんの声は少し上擦っていた。心の奥底から錘を吐き出すかのように。

「でも、君はまた現れました。3年前に事件があった、この場所で再開出来ました。良かったです。本当に良かったです」

仙波さんは地面に両膝を付け、両手を揃えて地面に置き、頭を下げた。

「最初にこれだけは言わせてください! 3年前は! 本当に申し訳ございませんでした! 僕が写真撮影を誘わなければ! 君たちは今でも幸せなはずでした!」

「やめてください」

「……え?」

「私も蓮も、仙波さんのせいだと思ってないです。だからやめてください」

「嫌だ! あれは僕が悪い!」

「もう辞めてください。仙波さんがそう思っていたら、蓮も悲しみます」

「……うわぁ。うわぁぁぁん!!」

仙波さんは大声をあげて泣いた。私も芽衣も、泣いた。

泣いてから15分くらい経った。仙波さんが再び口を開けた。

「やっぱり色々考えますよ。あの日、写真撮影をしてくださいって言わなければ良かったとか、車が接近した時、無理矢理でも道路の内側に来てもらえたら良かった。とかね」

仙波さんは15分前と違い、落ち着いていた。

「起こってしまったことは、どうすることも出来ないじゃないですか。じゃあ何をするか。向き合っていくしか無いんです。それが、彼に対する唯一の供養であり、生きた証なんです。私たちは、彼の分まで生きないといけないんです。幸せにならないといけません。彼のことを忘れないまま。それがつまり……

仙波さんは私を見つめた。

「彼と一緒に幸せになる。ということです」

そうだ。本当に、その通りだ。

蓮も、私たちの幸せを望んでいるに違いなかった。

「僕自身もまだ出来ていないんですけどね。幸せになることが」

旅人は、川を見て一息付く。

「私もですよ」

「愛菜さんもですか」

「そうですよ。私もあの日から、立ち直れないままです。ずっと時が止まっています」

「そうなんですね。じゃあ、僕と一緒ですね」

「本当ですね」

「これも何かのご縁です。連絡先を交換しましょう」

「良いですよ」

「ありがとうございます。あなたと再会出来て、僕の中の何かが動き始めた気がします」

「私もです」

仙波さんと連絡先を交換した。

「ありがとうございました。また城崎に来てください。いつでも待ってますから」

「はい。いつか絶対。また来ます」

仙波さんは踵を返し、街中へ消えていった。

私たちは手を振り、仙波さんを見送った。

「よし! じゃあ旅館に帰ろっか! 帰って寝なきゃだし!」

「そうだね」

私たちは旅館の方向を向き、歩き始めた。

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