鴻の湯
「蓮……死んだはずだよね? どうして……?」
蓮の顔は、少し笑ったように見えた。
「明日、玄武洞で待ってるね」
蓮は私を真っ直ぐ見つめて言った。
「愛菜! どうしたの?」
少し先へ歩みを進めていた芽衣が戻ってきた。
「え? ちょっと待って。そこに蓮が」
「ん? 誰もいないじゃない?」
「ホントに? あそこだって。……ってあれ?」
再び柳の木を見ると、誰もいなくなっていた。
「ほら! 誰もいないでしょ?」
「う……うん」
「行こ! 愛菜!」と言い、手を差し伸ばした。私はその手に掴んだ。
明日、玄武洞で待ってるか……。蓮は何を見せようとしているんだろうか。行けば何かが変わるのだろうか。
柳の木を名残惜しく眺めながら、手引きする芽衣に着いて行った。
鴻の湯に着いた。2回目の湯船に浸かる。
一の湯の時みたいに、芽衣の手助け無しでいけた。
夜の露天風呂は最高だった。水面が建物を反射していて幻想的だった。
「ぷは〜! 気持ちいいね!」
「うん。夜の露天風呂ってこんなに気持ちよかったんだね。知らなかった」
「城崎温泉だからこそかもしれないよ! 何てったって『城崎温泉』の『温泉』なのだから!」
芽衣はイタズラをした子供のような笑顔で言った。
「鴻の湯はね、しあわせを招く湯って言われているの! だから絶対に入りたかったんだ〜! 足を怪我したコウノトリが傷を癒やしていた場所っていう言い伝えがあるみたい!」
「そうなんだ」
「まあ『しあわせを招く湯』って言われているだけだから、幸せになるかどうかは自分次第なんだけどね!」
「そっか。今の私のままだったら、幸せが来たとしても、幸せと感じられないかもしれないね」
「あ! いや! そ、そういうつもりで言ったんじゃ無いんだけどさ! ただ」
芽衣は、私から空に浮かぶ月に目を移した。
「私にも言えることだなって!」
芽衣の目は、どこか悲しそうだった。
「芽衣も、色々あるんだね」
「当たり前じゃん! 人間なんだし!」と言った後、ハリセンボンのように頬を膨らませた。
「芽衣なら大丈夫だよ。面倒見も良いし、私がここまで出来るようになったのも、芽衣のおかげだから。本当にありがとね」
「そんなことないよ! 大したこと、何も出来てないし!」と言いながら、照れた顔をしていた。
「さて! そろそろ上がろっか! のぼせちゃいそうだし!」と言い、芽衣は湯船から離脱した。私もそれに続いた。




