王橋
一の湯から出ると、目の前に王橋がかかっている。橋の上はカップルで賑わっていた。
「愛菜! ちょっと見て行こうよ!」
芽衣が手を引き、橋の上へ連れられる。
「綺麗だね! 城崎の夜!」
橋の上から見る景色は、息を呑むほど澄んでいた。2年前に事故があったとは思えない。夜の川が反射して、柳を映し出す。幻想的な光景だった。
「うん。本当に綺麗」と私は言った。
2人で夜景を見惚れていると、後ろから声をかけられた。見た目は茶髪で、浴衣を着て、爽やかそうな男性だ。横には彼女もいる。
「すみません! 写真撮っていただいて良いですか?」
不吉な予感がした。
「あ! と、撮りますよ!」と、言葉を詰まらせながら、芽衣は答えた。仕方なく肯定しているように見えた。
2年前、私の彼氏である『蓮』は、この王橋の上で写真撮影をし、命を落としたのだから。
「ありがとうございます。じゃあ、このスマホでお願いします」と茶髪の彼氏は言い、芽衣にスマホを渡した。
「この道路! 車通りが結構激しいので、注意しながら撮りますね!」
言い終えたあと、芽衣は私に無言でアイコンタクトを取った。車の様子を見守っていて欲しいということだろう。私は頷いた。
「分かりました。わざわざありがとうございます」と茶髪の彼氏は言い、彼女とポーズを取る。
芽衣は真剣な眼差しで、2人の写真撮影に臨んでいる様子だった。ここで撮った写真は、2人にとって大事な写真になるだろうから。私がそうだったように。
「いきますよ! はい! チーズ!」
元気な声で芽衣は合図をかけ、それに応えるよう2人は笑顔になる。
パシャリ
「良い写真が撮れましたよ! お2人とも良い笑顔です!」
「ありがとうございます!」
2人は嬉しそうに写真を眺めていた。その姿を見ると、2年前の私と蓮の光景に一致してしまう。
「お2人も撮りますよ」
茶髪の彼氏が言った。
私と芽衣は顔を合わせてから「お願いします」と言った。
車には注意しよう。芽衣も目からも同じことを伝えようとしている様子だった。
私と芽衣は、川をバックにして、王橋へ並んだ。
撮るからには良い写真を撮りたい。と願った。
芽衣が茶髪の彼氏に携帯を渡した。
「ちょっと待っていてくださいね」
夢中でカメラ位置を調整していた。
その時だった。
彼方で、車のライトが光った。こちらへ向かってきている様子だった。
「危ない」と、私は叫んだ。
でも、茶髪の彼氏が言う。「そうですか? まだ車と離れていますよね? それに基本は真っ直ぐ通り過ぎますし……」
「とりあえず一旦離れましょう」
愛菜は強引に茶髪の彼氏を引っ張り、道路の内側へと引っ張った。
「おっと!」
車は真っ直ぐ行ったので、私たちのいる橋の方向へ曲がって来なかったが、勢いを乗せたまま離れていった。
「ビックリしました……めちゃくちゃ早い速度で突っ込んできましたね。もし曲がってきたら大変でした」
茶髪の彼氏は目を見開き、口をパクパクさせながら言った。
「あなたのおかげで助かりました。ありがとうございます」
「はは! ホントだよ! ありがとうね! 愛菜!」
「え、えーっと……いえいえ。どういたしまして」
蓮。やったよ。結局は真っ直ぐ行ったから大丈夫だったけど、1人守れたよ。




