二話 真価と勝利と驚愕
「封印解放!!!!」
その声と同時にモンスターが襲ってくる。人など豆腐のように裂けるであろう爪が僕の頭めがけて飛んでくる。常人ならば躱すことなど到底無理なものが。けれど、それは常人ならばの話。
僕は、出せる限りの力を出して地面を蹴った。
モンスターが腕を振りかざしたときには僕の姿はなく、モンスターから五メートル近く離れた場所に、僕はいた。
「‥‥?」
モンスターは獲物が急に消えたことに対して、混乱しているようだった。いや、それは僕も同じか。
「なっっんだこれ?! 僕じゃありえないほどの力が出たんだけど!!?」
———それが本来の君のステータスだよ。
確かに体がいつもよりも断然軽いし、力が漲ってくる。物理干渉で重力上昇を受けていた中でも、モンスターが反応出来ないレベルの速さを出せたことがなによりの証拠だった。
———しかし、君の貧相な武器ではあれの皮膚を切ることは到底無理だが、どうするのだい?
「‥‥大丈夫。武器の強化は慣れてる」
そう言って、僕は僕の腰につけていた刀に封印を付与した。刀の状態を封印し、刃こぼれや折れることを防ぐためだ。僕だけが出来る壊れない刀。江戸時代に造られたある名刀の名前を借りて、僕はこの刀に名前をつけた。
曰く、童子切安綱と。ある程度、ダンジョンで身を守れていたのはこれがあったからだった。僕の、唯一の技だった。
———そうか! それはいい! まさかその貧相な刀が名刀レベルになるとは! ならば君に言うことは何もない、全力でいけ!!
「もちろん!!」
そう言い放つと同時に地面を蹴る。あいつに近づくと同時にあいつが再び腕を振り下ろす。素早く空中で体を捻って腕をかわす。奴の懐へと飛び込み、刀を構えた。そして——
「終わりだァァァァァァァ!!!!」
僕が振りかざした童子切安綱は、軽々と奴の胴体を斬り裂いた。狼のようなモンスターが倒れた。もう起き上がる気配もない。そう、僕はこのダンジョンの下層のモンスターを一人で倒したのだ。
「やっったぁぁぁぁぁあ!!!!」
拳を握りしめて僕は心から叫んだ。僕が無能でなくなった瞬間であった。一人で、しかもダンジョン下層のモンスターを倒した。今の僕にとってこれ以上ないほどに嬉しかった。
◆
少し時間が経ち、モンスターから魔石や角や牙と言った素材を剥いだ後、僕は中層へと続く階段にいた。モンスターから取れる素材はとても高価な値段で取引されており、武器や防具といったものから魔石は電力などの代替品といったものにまで使われている。そして、ダンジョンではなぜか階段とボス部屋の前の空間だけはモンスターが入ってくることのない安全空間となっている。少し今の状況と体を休めるために、ここに向かったのだ。
「やっぱりステータスが全て上昇してる!」
そう言って僕は持っていたステータスを測る魔道具を使って僕のステータス値を見ていた。
ステータスを計れるとは言っても、あまり正確では無いし、数値が表示されるわけでは無いから具体的では無いけれど、以前に比べてはっきりと分かるほどに上昇していた。
———さっきも言ったが、それが君の本来だ。いや・・・・、まぁそれは置いておいて、あのモンスターに勝ててよかったじゃないか。
そう言って誰かが僕の頭の中で語りかけてくる。
「そんなことより! あなたは誰なんですか? ‥‥なんで僕を助けてくれたんですか? どうして僕のこの能力のことを知っているのですか?!!!」
———矢継ぎ早だな、順に答えようか。まず私の名前はレティア・トライゾンだ。それとも、ダンジョン攻略者と言った方が早いかな?
「‥‥えぇぇぇ!?」
しばらくの間あまりの驚愕的な言葉に開いた方が塞がらなかった。
———何をそこまで驚く? そこまで驚くことでもないだろう。
「いやいやいやいや、レティア・トライゾンなんて今どき幼稚園児ですらその名を知っていて、教科書にも必ず載っている大物ですよ!! 驚かないわけがないじゃないですか!!」
そう、そのレベルの超大物なのだ。しかし、それを知っているが故に疑問はますます増えるばかりだ。
「やっぱりなんで僕ごときにあなたが手を貸してくれたのですか?」
———そうだな。率直に言おうか。私を助けて欲しい。
レティア・トライゾン、それは二十二年前この世界で初めてダンジョンを攻略した者。人類には無理だと思われていたダンジョンの攻略を成し遂げた偉人。しかし、十八年前を境にパッタリと消息を消したと言われており、今ではどこかで生きているとも、もう死んでしまっているとも言われている。
それに、加えて全世界の人間が、レティアに関する二つの情報を覚えていなかった。
二話目から少し話が短くなっております。その点は後々増やせたら増やそうと思うのでご了承お願いします。コメントや感想お待ちしております!