幕間 蒼丸と嘲笑と決心
時は遡り、僕が起きる二時間前。奴は駅で寝ていた。サラリーマンや朝早くから登校する学生など、行き交う人皆んなが奴を見ていた。中には、携帯を取り出し、写真を撮るものや、笑っている人もいた。そして、奴は目を覚ました。
「ハッ!! アイツはどこ行った?! 絶対に殺してやる!」
その声は、西倉 蒼丸その人の声であった。今にも、蒼丸は暴れ出しそうな勢いであった。しかし、蒼丸が暴れることは無かった。蒼丸はその場から動くことが出来なかった。自分の体を確認するために、蒼丸は下を向いた。下を向くと、蒼丸は服を着ていなかった。正確に言うと、パンツ以外を着ていなかったのだ。そして、腕と足、そして頭は動くが胴体が時計棒に縄で縛り付けられていた。そして、蒼丸の顔には“負け犬”と油性のペンで書かれていた。
「なんだこれは?!! なんで俺が縛られてるんだ!! それにここはどこだ?」
蒼丸がいるのは府中駅の二階のところであった。いくら朝早い時間帯とはいえ、駅を使う人は多く、大勢の人が蒼丸を見ていた。
「やめろ!! 何を見てんだ! 見せ物じゃねぇんだよ!!」
しかし、蒼丸がそんなことを言おうと、今の蒼丸の状況は道化以外の何者でもない状況だった。学生達がクスクスと笑い、色んな人が写真を撮っていた。
「写真を撮るんじゃねぇ!! テメェら殺すぞ!!」
そんな民間人の行動がさらに蒼丸に油を注いでいった。
「俺は赤級の冒険者だぞ!! 誰がやったかしらねぇがこの縄を解けよ!!」
蒼丸がそんなことを言おうと、蒼丸を助けようとする者は一人としていなかった。正直に言って、側から見て、危険人物以外の何者でも無い蒼丸を助けようとする者がいないのは至って自然なことだった。現に、もし蒼丸がその状況を見ている立場であったら、面白がるだけでその当人がなんと言おうと、助けようとは思わないだろう。
「おい!! 聞いてんのかテメェら!! 早く解けっつってんだよ!! おい!! ぶっ殺されテェのか!!」
まだ朝早い府中駅に蒼丸の怒声が響き渡る。周りでは、『怖いねー』や、『頭がヤバい人だよ、関わらない方がいいよ』
『あんな事顔に書いてんのにな』と声があちこちから聞こえてくる。それから蒼丸は皆んなの目に晒される事、実に十分。誰かが、警察に通報したのだろうか、警察官二人が府中駅へと来た。
「はいはい、退いてくださいねー」
そう言って、蒼丸の周りにいた人たちを退かしつつ、蒼丸へと近づいた。
「それで、君は何をやっているんですか?」
「アア?! 見りゃ分かんだろ! 縛られて身動きが取れねぇんだよ!」
「とりあえず、署へ行きましょうか。おーい、縄を切るためのナイフ持ってきて!」
蒼丸へ話しかけた警官がもう一人の警官へそう言った。そして、二人かがりで、固く縛られた縄を切った。
「はい、じゃあ署へ行きますよ。パトカーに乗りましょうか」
「チッ、なんで俺が」
蒼丸はぶつくさと言っていたが、流石に警察官に逆らうことは出来ず、大人しく警察官のいうとおりにパトカーへ乗車した。
———警察署
蒼丸は警察署の取調室にいた。警察側から服を支給されたのか、既に蒼丸は服を着ていた。顔に書かれていた文字は油性ではなく、魔道具のペンで書かれており、タオルで拭いても消えなかったため、大きな絆創膏で文字を隠していた。そして、どうやら通報は駅で、パンイチの男が怒声を上げていると言う苦情によるものだった。
「あなたの行動に関して、苦情が入って来たんですが。何故あのような行為をしたのですか?」
取調室では先程の警官とは違う背の高いスーツ姿の人が蒼丸と向かい合っていた。
「だからぁ、俺が目を覚ましたら、あそこで縛られてたんだって!!」
「では、暴言については?」
「それは、あれだよ。俺を助けようともせずに、笑っていた連中に、イライラしちまったんだよ。あんたも、その気持ちはわかんだろ?」
「そうですか。‥‥下着姿で縛られていた理由は何かわかりますか?」
「ンなもん分かるわけねぇだろ!!」
「まぁそうですよね。では、誰にやられたか心当たりはありますか?」
「それはあの仮面の野郎だ!! 絶対に許さねぇ!!」
「その仮面の奴とは?」
「昨日会った奴で黒い仮面をしてたんだよ。んで、白級の冒険者だって言ったな」
「その方とは何があったのですか?」
(「ここで真実を言うのは不味いな。とりあえず、俺は悪くねぇってことを主張しとくか」)
蒼丸は心の中でそう考えた。
「初めて、会ったんだけどよ。何故か急に言いがかりをつけて来やがって、それでいきなり暴力を振るって来やがったんだよ! それで、そいつを捕まえようとしたら、気を失っちまったんだよ。んで、目が覚めたら、あそこにいたってわけだ」
「その仮面の人物について、もっと情報はありますか?」
「いや、さっき言ったので全部だ」
「そうですか。それでは、その仮面の人物はこちらでも捜索しておきます。あなたには警告だけしておきます。 いかなる理由があっても、公共施設において、多人数に暴言を吐くのは、恐喝罪や恫喝罪に当てはまりますので気をつけてください」
「ああ。そこは悪かった」
「では、今日のところはお帰り下さい。ご協力感謝します」
そう言われて、蒼丸は、警察署の外へと連れて行かれた。
警察署を出て、蒼丸は一人呟いた。
「あの仮面野郎。俺に恥をかかせやがって、絶対に許さねぇ!! 次会ったらただじゃおかねぇ!!」
そう蒼丸は心に決めたのだった。それが蒼丸にとって不幸の始まりとなるなんて、蒼丸は夢にも思わなかったのだった。
本編のサイドストーリーになっております。後々本編と合流すると思います。とりあえず、明日までは毎日更新します。
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