十六話 夢とベッドと許可
僕はその日、変な夢を見た。薄暗い中、誰かが泣いている。声を押し殺そうともせずに、大声でただ悲しみに暮れる様に泣き続けている。僕がその声のする方へ近づこうとすると、後ろから妙な気配を感じた。振り向くと、全身が真っ黒でモヤの様な物がかかっている物がいた。ただ輪郭があるだけで、顔も、腕も、足さえも何も見えない。ただ、そこにナニカがあるだけだった。そのナニカは何かをしゃべっていた。
「——ない。 ——もう———ない」
はっきりと聞こえなかったが何かを喋っていた。その声は何故か僕に聞き覚えのある声だった。しかし、誰の声なのかは思い出すことが出来なかった。すると、ナニカが動いた。その瞬間、僕の首が飛んだ。何の比喩でもなく、文字通り僕の首が飛んで、頭が地面に転がった。そこで僕は夢から覚めた。
「うわあぁぁぁ!!!!!!」
僕は上半身を飛び起こして、目覚めた。僕はびっしょりと汗をかいていた。汗で服が身体に張り付き気持ち悪かった。しかし、僕は思い出せなかった。夢の内容を。何か大事な物を見た様な気はする。けれど、何一つ夢について思い出せなかった。一度深呼吸をして、心を落ち着かせようとした。
「まだ四時半か」
時計は、午前の四時半であり、外では、雨の降る音がしていた。窓のガラスに、雨が打ち付ける音がする。
「そう言えば僕、昨日ベッドで眠ったっけ?」
僕が寝ていたのは二階の僕の部屋のベッドであった。辺りを見ると布団が少し、盛り上がっていた。布団を捲ると、下着姿のレナがいた。
「うわぁ!! な、な、な、なんでレ、レナがここに?!!」
僕が驚いて、ベッドから飛び降りると、僕が叫んだからかレナがもぞもぞと布団から顔を出した。まだ眠たいのか、レナは目を擦っていた。
「おはよう〜。歩君〜〜。でもまだ外暗いよ? まだ寝ていようよ〜」
「いや、なんでレナがここにいるの?! 昨日、帰っていったよね?」
昨日、レナは僕の暴走を止めてくれた後、蒼丸をどこかに捨ててくると言って、暗闇に消えていったのだ。そのはずなのに、何故かレナは僕のベッドで僕と一緒に寝ていた。
「ああ、それはね〜。アイツを捨てた後、もう一度、歩君の家に戻ったの。そしたら、鍵も開いてたし、入って良いよって事なのかなぁって思って入ったんだよ〜。でも、ソファで歩君が寝ていたから、ベッドまで運んで、私も一緒に寝ちゃったんだよ〜」
「理由になってないよ!! 普通に怖いんだけど!!」
「そんなこと言わないでよ〜。ほらお姉さんと一緒にもう少し寝よ?」
レナはそう言うと、僕の腕を掴んで、ベッドへとひきづり込んだ。ベッドへとひきづり込むと、レナが僕に抱きついてきた。僕が顔を赤くして、レナに抗議をした。
「ちょっと、レナ!! 流石に‥‥」
「すー、すー」
僕が言い終わる前に、レナは既に寝ていた。僕がレナから逃げることが出来るはずもなく、レナが起きるまで、為されるがままの状態であった。そして、段々と僕もまた、眠気が襲ってきた。そして、僕が起きたのはそれから四時間後のことだった。
午前八時半に僕は起きた。まだ寝ぼけていて、頭がふわふわとした。レナが僕の布団の中にいたっていう妙にリアルな夢を見た様な気がする。まさか、現実ではないよねと思いながら僕が布団を捲ると、そこには誰もいなかった。僕は安心して、ベッドから降りて、一階へ向かうと、下から味噌汁のいい匂いがした。
「あ! 歩君! おはよう!」
レナが元気に、僕へ挨拶をしてきた。レナはキッチンで朝ごはんを作っているところだった。僕はほっぺをつねってみたが、痛かった。どうやらこの状況は夢ではないらしい。
「どうしたの? 歩君。そんな不思議そうな顔しちゃって」
「‥‥朝からキャパオーバーだよ!」
僕はレナにそう言った。やっぱりさっきまでのは夢ではなかった。
「ほらほら、とりあえず、朝ご飯を食べよう? 歩君も、顔を洗ってきてよ!」
そう言われて、渋々と、僕は洗面所へと向かって顔を洗った。戻ってくると、テーブルには、ご飯と味噌汁、そして、目玉焼きとベーコンが二人分、置いてあった。
「冷めないうちに、どうぞ!」
レナがそう言うので、椅子に座り、箸を持った。
「いただきます」
レナの作った朝ごはんはお世辞抜きに、とても美味しかった。お腹が空いていたのも相まって、すぐに食べ終わった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした〜」
「ねぇ、レナ。ご飯は美味しかったんだけどさ、なんで、当然の様に、家にいるの?!」
当然の疑問をレナに尋ねた。
「だって、居心地がよかったんだもん! それに、パーティーメンバー同士が一緒に住んでることなんて特に珍しいことじゃないでしょ?」
「それは分かってるけど、せめて、僕に何か言ってから入ってきてよ」
「だってその時、歩君寝てたし。じゃあ今言うね!私をここに住ませて下さい!」
レナが子犬の様に、キラキラとした目で僕を見てくる。
「グッ、わかった、わかったから!!キラキラした目で見ないで!」
「じゃあここに住んでいいんだね?!」
「ハァ」
レナは僕の許可を得たことに喜んでいた。そんなレナを見て僕は、ため息を吐いた。僕はレナに根負けした形で、レナがここに住むことを容認した。
「あっ、そうだ。レナ」
「どうしたの?」
「僕達のこれからなついてなんだけど。シルバーダンジョンかゴールドダンジョンがある所に行かない?」
「それはここじゃない街に行くってこと?」
「うん。ダメかな?」
「いやいや、ダメじゃないよ! むしろ賛成だよ。デッドエンドが目標なら、歩君にはまだまだ経験が足りないし、それに、高難易度ダンジョンが多い都会なら、質の良い冒険者が多いしね」
「じゃあ、僕の武器ができたら、都会に行くってことで良い?」
「そうだね、それで良いよ。あと、昨日私が言った歩君の修行を付けてくれる人と連絡がついたんだけど、今新宿にいるって。だから、武器が出来たら、まず、新宿に行こうか」
「連絡をもうしてくれたの!? ありがとう!」
「いえいえ〜。まぁ、がんばってね〜」
「うん!」
これからの僕たちがすることが決まった。この時僕は、今の自分の力がどれだけ高難易度ダンジョンに通用するのかと少し、ワクワクしていた。
歩達の日常編です。
もう少ししたら、また冒険編が始まります!
次回は明日更新します。ちなみに歩が住んでいるのは、東京都の府中市です。
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