十二話 ご飯と真実と———
僕とレナさんがパーティーを組んでから少しして、僕たちは、商店街の近くを歩いていた。もちろん、既に僕は仮面を付け直していた。そして、少し歩いているとめし処 『しんすけ』 の前でレナさんが止まった。
「ゼロ君、お腹空いてるよね? ここで、夜ご飯食べて行かない? ここは個室もあるしさ! ちなみに、今日は私の奢りだよ?」
「えっ、いいんですか?」
「いいよ〜。パーティー創立記念ってことで」
「じゃあご馳走になります! 」
「よし! 決まりだね」
そう言って、レナさんは『しんすけ』 の中へと入っていった。ここ、『しんすけ』は安いのに量が多く、個室もあるため、多くの人に愛されている店である。僕も、頻繁にここに通っており、お気に入りの店であった。その為、今日は平日だというのに、サラリーマンや家族連れの客で賑わっていた。入り口に入ると、店員さんが近づいてきた。
「いらっしゃいませ!! 二名様でよろしいですか?」
「はい」
「お席はどうします?」
「個室で」
「了解いたしました。それでは、こちらへ」
そう言われて、僕たちは個室へと案内された。個室は、小洒落た空間で大きなテーブルが真ん中にあり、その周りは掘りごたつになっていて、和室のようになっていた。レナさんと、僕は向かい合って座った。
「ご注文が決まりましたら、そちらのボタンを押して、お呼びください。それではごゆっくり」
そう言って、部屋から店員さんは出ていった。少しして、二人とも注文が決まり、ボタンで店員さんを呼んで、注文をした。僕は、『しんすけ』に来たら食べているカツ丼を頼み、レナさんは海鮮丼と生ビールを頼んでいた。料理が来るまでの間、僕たちは話をしながら待っていた。
「レナさんは僕に、自分の能力のことについて教えてくれましたけど、本当に良かったんですか?」
「水臭いなぁゼロ君は。パーティーメンバーなんだから、敬語はやめて。それに、レナって呼んでよ。私の能力については大丈夫だよ〜。だって、ゼロ君。私のこと裏切ったりしないでしょ?」
「それはそうですけど」
「ほらね? なら大丈夫」
どうやら、レナは、僕のことを全面的に信用してくれているらしかった。そんなレナさんの能力は、空間跳躍というもので文字通り、空間を省略して移動をすることが出来るというものだった。例えば、50メートルの距離を歩くという行為を消して、50メートル先に着いたという結果だけを得ることができるというものであった。あくまで、跳躍をするのであって、任意の座標に飛ぶ瞬間移動とはまた別のものであった。だから、さっき僕がレナの姿を目で追うことすら出来なかったらという訳だった。
——歩、君はどうするんだ? 君のダンジョンへ行く目的や、なぜ、そんなことになったのかという本当の理由を言う気はあるのか?
(「それは‥‥」)
僕は迷っていた。レナは会って間もなかった僕に、自分の能力を言ってくれた。僕は、まだ彼女に本当のことを言えないでいる。それに、僕のダンジョンへ行く理由はデッドエンドまで行くという、生半可なものではなかった。それを隠すのはレナに対して、裏切りになると思った。だから、僕が彼女に真実を言うことは必然だった。
(「やっぱり、僕は言うよ」)
——そうか。君が決めたことなら、特に言うことはないよ
そして、僕は大きく深呼吸をして、レナに真剣な眼差しで言った。
「レナ。僕も、本当のことを言うよ。僕も、レナを信用する」
「言いたく無いことなら、言わなくて良いんだよ? 君にとって辛いことなら尚更———」
「ありがとう。でも大丈夫。本当のことを伝えるよ。まず、僕の名前は無明 ゼロじゃない。僕の本名は 刻藤 歩 だ。そして、———」
僕は、レナに僕が裏切られ、殺されかけたこと、そして、封印の能力が覚醒し、窮地を乗り切ったことなどを語った。話している内に、僕は自分でも気付かない内に、涙が溢れていた。この二日間の出来事は、まだ十八のガキにはあまりにも重く、辛いことだった。気づくとレナが僕の隣で僕の背中を終始何も言わずに、さすってくれていた。その手は、温かくてとても心地よかった。そして、料理が運ばれてきた。レナがご飯を食べようと言ったので、食べると、そのカツ丼はいつも食べ慣れているはずなのに、いつもより、心に沁みるものだった。それは、丸一日何も食べていなかった僕の胃を優しく、満たしてくれたのだった。
———だからと言うべきなのか否か、僕はこの時気づかない、いや、気づけなかったことが一つだけあった。僕が語ったこの話の中に、レティア•トライゾンのことが一度として出ていなかったことに。
更新が遅い時間になってしまってすいません。もし、書けそうだったら、明日更新します。できなくても、金曜には必ず。
そろそろ、復讐を行うべきかどうか考えてます。うーん、どうするべきか。ひとまず、まだ歩視点の話が続きます。
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