一話 予言とダンジョンと俺
———1999年
日本では一人の予言者の予言が世間を賑わせた。
曰く、、「人間は、1999年に滅亡する」
2022年6月8日
「はぁ‥‥、やりたくないなぁ‥‥」
私立 黄印高校に通う高校三年生の僕、 刻藤 歩は憂鬱に窓の外の鳥を眺めていた。
別に授業がつまらなくて嘆いているわけじゃ無い。
ただ、これから次の時間に始まる『ダンジョン攻略』が僕にとっての憂鬱の原因だった。
ダンジョン、それは1999年6月8日に突如として世界に発生した異常であった。何の前触れもなく表れたダンジョンの中からは悍ましいモンスターが現れ、人々は争う術もなく、無惨に殺されていった。
全世界はこの状況により、戦争も敵対関係も全てを放り投げ、事態の収拾に尽力した。その努力の成果もあり、モンスターを一時的に押し返すことには成功した。しかし、結果的に元々の世界の人口七十二億人は四分の一にまで減少した。
加えて、人が住んでいた場所さえも減少した。例えば、昔は緑豊かで生命で溢れかえっていたというアマゾンは今や異形の化け物たちが闊歩する魔境へと成り下がった。
けれど、人間の意地か、この事態によって人間の脳が覚醒した。脳の持つ能力の内二十%までを使うことが可能になり、それに伴って各々が不可思議な固有の能力を持つようになった。今じゃ、生き残った者は全員何かしらの能力を有した超人へと変化した。
かく言う僕も、能力を所有している。けれど、それがダンジョンに役に立つかどうかというと間違いなく答えはノーだ。
もしこの世界が漫画なのなら、僕は超能力だの怪力だのという能力を持っている主人公になれていたのかもしれない。
まぁそんなのは幻想でしかないんだけれど。
そして、そんなことを考えていると授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
とうとうダンジョン攻略の時間になってしまった。また憂鬱な時間が始まってしまう。
「おいグズ!! 早くしろ! 行くぞ!!」
幼馴染であり同じパーティーである西倉 蒼丸が僕を見るなりそう言ってきた。
「本当にこれだからお荷物さんは困りますね」
「‥‥‥‥」
向こうから残りのメンバーの桜 つぐみ、鬼丙 陸もこっちにやってきた。僕に対する態度はとてもじゃないが同じパーティーとは思えないものだった。
まぁ、いつもの事で、これが普通なんだけど。
この三人の能力は物理干渉、絶対領域、身体付加、という極めて強い能力を持っている。
学校の中でもかなり上位に位置する能力を持っていれば、ここまで横柄な態度を取るのも理解は出来る。
だからと言って、僕が虐げられる状況を納得出来るかは別だけど。
「‥‥、今行くよ」
僕はダンジョンに必要な荷物を押し込められたバッグを持って、蒼丸のもとへと急いで行った。
———ダンジョン 中層
「それにしても歯ごたえってのがねぇなぁ!! この階層ですら俺に取っちゃ雑魚どもの集まりってことかぁ?」
手には剣を持った蒼丸が狼のような魔物を狩ったところでそう言った。
「まぁ私たちの能力に比べたらこんなものですわよ」
「ああ」
二人もそれぞれが魔物を狩ってそう言っている。
世間的に見れば中層は高層と比べて難しくなっているはずではあるが、三人の能力を持ってすれば余裕なところであった。
「そんな後ろにいんなよ、歩!! チッ‥‥、ドンクセェなぁ!!」
そう僕は役立たずなのだ。能力はパッとしない。いや、はっきり言ってゴミだった。それなのに、このパーティーに僕がいるのは、蒼丸の幼馴染で一緒にパーティーを結成したからだった。
正直、僕がこんな場所にいるのはおかしいとはいつも思う。でも、だからこそ、せめてどうにかして役に立とうと能力以外のことを必死に努力をして、凡人なりに他の人よりも何倍も勉強して、サポートをずっとし続けてきた。
三人には褒められることなんてほとんど無くて、罵倒しかされなくても、必死にやり続けてきた。でも、そんな些細なことで待遇が変わるほどこの世は綺麗じゃない。
「そうですよぉ~、ただでさえ無能なんですからもっと私たちに気を回してくださいよ」
「フン」
「チッ、おい!! 早く行くぞ!」
「‥‥、ごめん、今行く」
他の二人も蒼丸の対応とさほど変わらなかった。
悔しくて惨めで、何も言い返せない自分が情けなくて、只々唇を噛むことしかできなかった。
———ダンジョン 下層
「フゥ、ここまで来ればもう良いか」
ダンジョンの天井を見上げながら、下層に入ってすぐに蒼丸がそう言った。
「ええ、そうですわね」
「‥‥そうだな。周囲に人の影はない。ここら辺でいいだろう」
僕はみんなの言っている意味が分からなかった、理解出来なかった。けれど、何故か僕は怖いと感じた。
「?? みんな何を言ってるんだよ、まだボスの部屋まで行ってないよ? 何をしようとしてるの?」
すぐに蒼丸が声を出して笑い始めた。
「クハハハハハハ、まだ気づかねぇのか? なぁ、本当にお前はグズだなぁ、えぇ? 察しの悪いお前に言ってやるよ。ずっと前から思ってたけどよぉ、お前はここにふさわしくないよなぁ? いつも俺たちに寄生するだけの足手まといはここにはいらねぇんだよ!!」
僕はそう言われて、さっき感じた恐怖の正体に気付いた。それは、この三人から漂っていた殺意だった。
もちろん、パーティー内での殺人等は犯罪だ。しかし、魔物に殺されたとなると話は変わってくる。僕は能力が低いから単独でダンジョン攻略なんてできるはずがない。だからわざわざ下層まで来て絶対に逃げられないようにしている。そして、お荷物の僕をここで殺して事故とでも処理するつもりなんだろう。
「ち、ちょっと待ってくれよ!! 僕は能力は低いけど、ずっとサポートとして貢献してきたじゃないか!!
それに‥‥ずっと、ずっと仲間として一緒に過ごしてきたじゃないか!!!!」
空気が変わった。ピリッとした空気が僕を真正面から襲ってきた。
「は? いつ俺たちがお前を仲間と言った? 俺たちのような強力な能力も持っていないようなクズを仲間として見ているわけがないだろうが!!! みんなもそうだ、誰一人テメェごときを仲間となんて思っちゃいねぇんだよ!!」
それにみんなも頷く。
僕は自然に溢れた涙が止まらなかった。どんなに蔑まれても、必死で努力してなんとか追いつこうとしていた。
蒼丸のこの言葉は、僕の心が壊れるには十分すぎるものだった。
「ぐぅっっ‥‥!!」
そして、蒼丸が能力の物理干渉で僕の周りの重力だけを増加した。僕が耐えられるはずもなく、地面に打ち伏せられた。いきなり、打ち伏せられて、僕は頭を地面に打ちつけた。
「じゃぁなぁ、無能くん。恨むんなら、ゴミスキルで調子に乗った自分を恨めよ。でもよかったなぁ、最後に俺たちの手をわずらせることなく死ねてよ!!」
「そうですわね、それではごきげんよう」
「‥‥フッ、惨めだな」
「ま、待って!! 頼むから、置いていかないで!! 助けて、助けてェェェ!!」
僕は重みに耐えながらはっきりとした声でいった。
けれど、誰も振り返ることはなく、とうとう足音さえも聞こえなくなった。
代わりに、後ろから足音がしてきた。ゆっくりと重さに耐えながら後ろを振り返ると、動けない僕を獲物として見つけたのであろうモンスターが近くに寄ってきていた。
死にたくない一心で、能力を使う。
「異能力、封印!!!」
そう、これが僕の能力だ。封印なんて名前だが飛んだ欠陥能力で、生物に使うことができないせいで、せいぜいが、壊れた窓を元に戻すくらいの能力だ。しかもこの能力のデバフによって僕のステータスには封印が常時付与されており、身体能力も能力も何もかもが強くならない。
当然、モンスターにそんな欠陥が通用するわけもなく、モンスターの動きは止まる事なく、僕へと襲ってきた。
そんな絶対絶命の状況なのに、思考だけはいつもよりも澄んでいた。何故か、よく回る頭の中で自分に問いかけ続けている。
何が、ダメだった?
———君が弱いから。
何が、悪い?
———君が弱いことだ。
能力がもっと良ければ、変わったのか?
———自分の能力を何も理解していない君にはどんな能力でも無理だったろうね。
なぜか僕の問いに答える声があった。
それよりもこの声は今なんて言った? 能力を理解していない? この能力を? こんな、何にも使えないゴミ能力を?
———ああ、そうだ。君は封印をすることだけが能力だと思っているのかい?
だって、それが‥‥、
———最後くらい、賭けに出てみろ。答えは君の中に既にあるはずだ。
頭の中で考えを巡らせるのは一瞬で終わった。あの声は、僕に何かを指し示した。自らの内側に眠る獅子、いや竜の姿に対して気づかせた。
グダグダと巻がえている暇はもう既に無い。僕は、目前に迫ってくるモンスターを前にして一か八かの勝負に出た。
「封印——解放!!!!」
心の奥底から、そう叫んだ。同時に僕を縛っていた何かが崩れ去る予感がした。
‥‥‥‥一つ言い忘れていたことがあった。これは無能と呼ばれ、役立たずと呼ばれて、殺されかけた俺が、ダンジョン殺しへとなる物語だ。
どうも、作者の市原 明です!よろしくお願いします!!
さて、封じる世界と動き始める予言のダンジョンはいかがでしたでしょうか。初めての執筆ということで、色々至らぬところはありますが、頑張っていきますので応援よろしくお願いいたします。感想やコメントをお待ちしておりますので、是非よろしくお願いします!!