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騎士物語  作者: 連星れん
前編

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53/72

大陸暦1527年――24 釈放


 真っ青な空の下、捕虜を乗せた馬車が走り出す。


 彼らはこれから長い旅路を経て、故郷の地へと帰る。

 そこには彼らを待っている人もいれば、いない人もいるだろう。

 それでも帰る意味があるから、彼らは喜びに満ちた顔で帰っていったのだ。

 私は彼らの旅路の安全を祈った。

 こういうとき、帝国では国を作り上げてきた始祖たちに祈りを捧げる。けれど今はそれらに祈る気はしない。だから、ここでの神に祈った。信徒でもない自分が祈ったところで効力があるか分からないけど、何もしないよりはいいだろう。


 全ての馬車が見えなくなってから、私も監獄棟の出入り門へと向かうべく歩き出す。

 高い防壁に囲まれた監獄棟の敷地は、結構な広さがあった。だから視界の先に見える門までも少しばかり距離がある。

 それでもこれまでの自分だったら大した距離ではなかったのだろう。けど体重が減り、筋肉が落ちてしまった今の自分には、その門が距離以上に遠く感じた。

 これまで鍛え上げてきた身体は、捕虜生活で全て失ってしまった。そこに一抹の寂しさは感じるけれど、未練はない。

 騎士服も鎧も処分してもらった。いま身に付けているのは平服だ。上着とズボンとブーツ、そして外套。これらはホルマル獄吏官が用意してくれた。色が騎士服と同じく黒が基調なのは、彼女なりの配慮なのかもしれない。


 歩いてると、時より腰の剣帯のつなぎ目がカチャカチャと音を鳴らした。

 私は剣の揺れを抑えようと、自然に左手を柄に添える。そして左腰に下げた剣を見た。

 この剣は急ごしらえのものではなく、紛れもなく私の剣だった。しかも綺麗に手入れまでされている。

 私は最初、これを持っていくつもりはなかった。

 もう騎士ではない私には、剣は必要ないから。

 けれどこれは零黒れいこく騎士団配属祝いに、父が贈ってくれたものだった。

 私の手元に残った、唯一の家族との縁だった。

 だからもう必要ないとしても、どうしても捨てられなかった。

 それに敵国の騎士の剣をここまで見事に手入れしてくれた鍛冶士の思いも、無碍にはできなかった。


 重く感じる身体を動かし、何とか監獄棟の出入り門に辿り着いた。

 門は壁の高さから比べると小さなものだった。ここに入るときのことは覚えていないので、初めて見た気になる。幅も馬車が一台通れるぐらいに狭い。警備の関係上、そのほうがいいのだろうと理解できる。本来ここは囚人を収監しておく場所なのだから、出入口は少なく小さいほうがいい。

 門は開け放たれていた。

 門の外側には、両端に一人づつ門番がいる。

 あとそれとは別に、門端にもう一人、誰かがいた。

 その人物は、門の端に背を預け、腕組みをして横目をこちらに向けている。

 その白が基調の騎士服には見覚えがあった。

 サーミル獄吏官長に尋問されたとき、一緒にいた女性騎士だ。

 私が門に近づくと、騎士は口を開いた。


「帰らなかったのだな」


 私は何も言えなかった。そして何も話すことはないと思った。だからそのまま騎士の横を通り過ぎる。そんな私の背に、騎士は言った。


「エルデーンは私の部下だった」


 足が止まる。

 私は振り返り、始めて女性騎士を注視した。

 どこかで見覚えがあると思っていたけど、そうか、あのとき私を捕えた騎士だ。

 そして小隊長であったエルデーンを部下と呼ぶということは、彼女はあの部隊の長だ。

 女性騎士は門端から離れると「少し付き合え」と、それだけ言って門の外に歩き出した。

 見ると、門の外側には馬車が止められている。

 彼女にとっては、私が部下を殺したのと同じなのかもしれない。

 ……いや殺したのだ。手にかけてないだけで、確かに私が殺したのだ。

 彼女は私を恨んでいるのかもしれない。


 もし彼女に殺されるなら、それはそれでいいなと思った。



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