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騎士物語  作者: 連星れん
前編

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38/72

大陸暦1527年――18 覚悟


 私たち第三偵察小隊が偵察任務に就いてから二週間が経っていた。


 未だに目的であるせいルーニア騎士団の発見には至っていない。

 何も成果が得られないことに小隊長はいらついているようだったけれど、私の心情は小隊長とは真逆のものだった。

 私は内心、安堵していたのだ。

 何も発見できないことを。犠牲が出ていないことを。

 そして彼女の国の人間を手にかけていない現状を。

 私はそれを免罪符のように思っていた。

 今さらこんなもの、何の意味もなさないことは分かっている。

 だけどそれでも、たとえ紛いものの免罪符でも、持ってさえいればまだ彼女に許しを得られる立場にいられるのではないかという愚かな希望に私は縋っていた。

 成果が得られなくとも、あと数日経ったら補給のために一度本陣に戻らなければならない。それまで何もなければ今は乗り切れる――。

 そんなことを考えていた矢先、偵察に出ていた部下の一人が戻ってきた。

 部下は険しい表情をしていた。私は嫌な予感がした。そしてそれは的中した。


 部下は近くでせいルーニア騎士団の偵察兵を見つけたと報告した。

 偵察兵の数は三人。

 何れもせいルーニア騎士団のものである青の制服を身に付けており、指揮官である白服の姿は確認できず。どうやら予想外な出来事があったようで、三人は馬から下りて何かを話しているようだと部下は言った。

 想像するに、急くあまり馬を走らせすぎたのだろう。

 だから馬が疲弊し、止む得なく休ませているのだ。

 それほど急いで伝えなければならないこと――浅く考えてもこちらの本陣、または別働隊の位置情報の可能性は高い。

 小隊長が何を指示するかは、状況から分かりきっていた。

 ――少人数で奇襲をかける。一人は必ず生きて捕えろ。

 その命令を、私は苦汁の思いで受け止めた。



 部下が偵察兵を奇襲する様子を、私は離れた場所で見ていた。

 小隊長は私を奇襲には参加させなかった。だから私は部下が――仲間が命をかけて戦うのをただ見守るしかできなかった。これはこれで、とても辛く感じた。

 偵察兵は最後まで抵抗し、結局一人も生きて捕えることは出来なかった。

 小隊長は部下を叱った。

 あれだけ抵抗されれば、捕縛が難しかったことは遠目でも分かった。でも小隊長は知らないのだ。部下が戦ってるさますら見ていなかったのだから。

 でもたとえそれを言って擁護したとしても、小隊長の神経を逆なでするだけだろうと思った。だから私は小隊長を宥めるために、偵察兵の遺体を探ることを申し出た。

 小隊長は口を挟まれ不愉快そうな顔をしたけれど、まだ成果が得られる可能性に怒りが負けたのか、吐き捨てるように「勝手にしろ」と言うと、ひとまず怒りの矛を納めてくれた。

 私は馬で戦闘があった場所へと向かった。

 するとすぐに二人の騎士が後から付いてきた。

 一人が一人見れば早く済みますから、と一人の男性騎士が言った。

 確かに戦闘音を聞きつけて誰かが来る可能性がある。確認は早いほうがいい。

 私は二人に礼を言ってから、彼等と共に馬を走らせた。


 戦闘があった場所には三人の遺体があった。

 手前の二人は仰向けに、そして奥の一人は伏せた状態で倒れている。

 その周囲の草花は、彼等の血を吸って赤く染まり始めていた。

 私は部下に手前の二人の確認を頼んでから、奥の遺体へと近づいた。そして気づく。

 その遺体は女性だった。伏せてはいるけど纏められた長い髪と体格でそれは分かった。

 どうやら男二人に女一人だったらしい。

 私は探るために伏せてる身体を仰向けにする。

 その女性は若かった。年は恐らく自分より少し上で、目を開けたまま絶命している。

 私はそれを見て胸が圧迫されるのを感じた。

 女性の目を閉じると、心の動揺を表に出さないよう気をつけながら荷物を探った。

 私が探り終わらない内に、伝令書は部下が見つけてくれた。

 内容はやはり本陣の位置情報だった。これなら小隊長も満足してくれるだろう。

 私たちは念のために全ての荷物を探ってから、その場を後にした。


 途中、私は部下たちの後を馬で追いながら振り返った。

 亡くなった三人の騎士達は、味方に発見されるまで放置されることになる。

 それまで野ざらしにされる彼等を、彼等の家族のことを考えると心が痛んだ。

 そして思った。


 覚悟を決めなければ、今度は私が彼等のようになるのだと。




 私は自分の心を偽っている。


 こんなこと――彼女エルデーンの国と戦うことなど、私は望んではいない。

 だというのに私の心は、偽っている私に罰を与えない。

 最初、それが何故だか分からなかった。

 でも、今は分かる。

 私の心は、私以上に分かっていたのだ。


 この状況を受け入れるのもまた、私の本心だということを。


 皇帝の意思に背いた騎士は、反逆罪に問われることになる。

 それが私一人だけならまだしも、身内の罪は家全体の罪、が当然の帝国では、家族までが断罪されてしまう。

 そう、心のままに動けば、家族は守れない。

 すでに守るべきものがある私には、物語の騎士のように心のままに動くことは出来ない。この剣を振るう相手を選ぶことは出来ない。

 それは、どうしようもない現実だった。

 現実は物語の中のようにはいかない。

 どんなに憧れても、目指しても、私は騎士物語の騎士にはなれない。

 全てを捨てる覚悟で、姫に会いに行くことはできない――。

 だから私は、決意する。


 ――何としてでも生き残れ。


 兄の言葉を噛みしめ、覚悟を決める。

 私は何としてでも生き残る。

 自分の家族に、野ざらしにされた彼等の家族のような思いをさせないために。

 この戦争を生き残って、もう一度家族に、エルデーンに会うために。


 たとえ嫌われても、もう友とは思ってもらえなくても、

 それでも生き延びなければ、再び彼女に会うことすらもできないのだから――。




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