大陸暦1527年――17 彼女の故郷
こんな形で彼女の故郷を見ることになるとは、いったい誰が想像できただろうか。
国境都市を越えて、星王国に足を踏み入れたとき、私はそう思った。
初めて見た星王国の地は、山が多く緑が少ない帝国に比べ、自然豊かでとても美しい土地だった。これがただ友人に会うための旅路ならば、この美しい景色についての感動を彼女に伝えることもできたというのに。
幸い、と言っていいのか分からないけど、私たちの任務は星都周辺で防衛に就いているとされる星ルーニア騎士団の可能な限りの隠密偵察だった。彼女の国の人間と直接戦うのが仕事ではない。
それでも相手と鉢合わせすれば戦闘は避けられないし、戦闘になった場合は最低人数で動く私たちのほうが不利な立場となる。それはつまり、発見されれば必ず犠牲者が出ることを意味している。だから絶対に見つかってはならない。
その緊張と責任の重圧で、心が押しつぶされそうになる。
だからといって顔や態度に出すわけにはいかない。一応でも私は副小隊長なのだから。
隊の雰囲気自体は悪くはなかった。
みんな緊張はしているけれど、部下たち――同期もいるのでそう呼んでいいのか迷う――もこんな若造に素直に従ってくれている。
ただ小隊長だけは、自分にいい気持ちを抱いていないようだった。
彼は表だって態度に出さないようにしているようだったけど、私を見るその目だけでも、文官貴族が、女が、と思っているのは明白だった。
それでも実害はないので私は知らぬ振りをした。
そのほうがお互いにとってもいいだろうし、それにこんなことは些細な問題だ。
私たちがこの国にしていることに比べれば――。
星王国に入ったその夜、私は空を見上げた。
空には今まで見たことがないぐらいの星が輝いているというのに、私が考えることといえばエルデーンのことばかり。
彼女はいま、何を思っているのだろう。
私を、心配をしてくれているだろうか。
……それとも私を、帝国を、嫌悪しているだろうか。
彼女の故郷の星空の下、そんなことを思った。




