大陸暦1527年――14 恋い焦がれる
新人遠征訓練の野営地。
訓練が始まって二ヶ月あまりが経っていた。
今日はいつも整然とした雰囲気の野営地が、どこか浮き立っている。
先週、ずっと体調を崩されていた皇帝陛下が崩御なされたのだ。
それに伴い皇太子殿下が即位なされ、帝都では即位パレードがあったらしい。
野営地は訓練の一環で俗世から離れているため、今日それを知らされたのだ。
その夜は、前皇帝陛下に黙祷を捧げたあと、新皇帝陛下即位のお祝いを兼ねて、指導官が宴を開いてくれた。
同僚達は厳しい訓練の反動か、お酒を飲んだり、火を囲って踊ったり、それぞれ羽目を外している。
私は隅でその様子を見ていたけど、すぐに酔っ払いたちに見つかり、踊りの場へと連れ出されてしまった。
楽しいひとときの中、私は夜空を見上げてエルデーンのことを想った。
彼女は今、何をしているのだろうか。
いつものように本でも読んで、夜を過ごしているだろうか。
エルデーンとはもう、五年も会っていない。
彼女のことを想うと、胸が苦しくなる。
会いたくて、仕方がなくて、胸が締め付けられる。
これが友人に向ける感情ではないことは、流石の私も気づいていた。
この胸の奥に形成された感情が何かも。
でも私は、この想いを彼女に伝えることはないだろう。
意気地なしの私には、今の関係を壊すほうが怖いから。
ただ今まで通りの関係を続けられればいい。
それだけでも私は幸せだから。
だから早く会いたい。
この訓練が終われば会いに行ける。
その時は今日の話もしよう、そう思った。




