大陸暦1526年――13 本物の騎士
最近、自分が起きてるのか、寝ているのか、
白昼夢を見ているのか、夢を見ているのか、
分からなくなってきている。
*
皇都にある零黒騎士団の兵舎。
兵舎内の広場で、新人遠征訓練の出発式が行なわれている。
整列した新人騎士の面前では、リセス伯爵――零黒騎士団長が、新たな零黒騎士となった私たちに激励を送って下さっている。
初めて見た団長の風貌は、まさに歴戦の騎士そのものだった。
鍛え上げられた肉体と傷だらけの厳つい顔は、見るものを緊張させるぐらいの威厳に満ちあふれている。
騎士団長は全員の前で話し終わると、新人一人一人に声をかけ始めた。
それは左端から始まったので、前列の右端に位置していた私の番はすぐに回ってきた。
私は何を言われるのかと緊張した。
周りの新人騎士は騎士の家系ばかりだ。
そのことを指摘されないかと少し不安になる私に、騎士団長はこう言った。
――私は何度か、言ったことがあるのだ。
何のことか分からず、私は騎士団長を見た。
騎士団長は厳つい顔に、まるで悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
――そのがたいで文官とは何かの間違いだとな。
がたい、そこでやっと父のことを言ってるのだと気づいた。
――これで騎士の家系の仲間入りだな。期待しているぞ。
勢いよく返事をすると、騎士団長は微笑んで頷いた。
私の気持ちは高ぶった。
帝国騎士の在り方――吹っ切れたと思っていたその疑問は、士官学校生活でまた大きくなっていた。騎士の家系という名の敷かれた道の上で、ただ流されるように騎士を目指す同級生たちを見て、その思いはさらに強くなった。
だからこそ、騎士団長のような本物を見ると安心する。
幼いころ、助けてくれた騎士のように、その立ち振る舞いだけで、私は間違っていないのだと思わせてくれる。
これでいいのだ。
過去の歴史など気にするな。
帝国騎士は――私は野党やならず者、そして瘴魔から、国を民を守る。
ただ、それだけだ。




