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騎士物語  作者: 連星れん
前編

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32/72

大陸暦1526年――12 最後の手紙


 ……これは本当に夢なのだろうか……?


 講堂に多くの生徒が並んでいる。

 士官学校の卒業式だ。

 卒業式には、体調が思わしくない皇帝陛下の名代として、皇太子殿下が参列なさっていた。

 皇太子殿下を拝見するのは入学式以来、これで二度目だ。

 今年十九になられる殿下は、立派に成長なされていた。

 側に護衛である黒炎こくえん騎士とフリュノス女侯爵を従え、堂々とした佇まいで演台に向かう姿は、入学式で父帝の後ろに付いていた幼い皇子の面影はもはやない。

 殿下は演台で生徒に祝辞を述べる。

 その声は若々しく、その表情は殿下の人となりが滲み出るように柔らかい。

 だがあのとき私は、得たいの知れない寒気を感じていた。


 皇太子殿下の優しげな瞳の奥に、仄暗い何かを垣間見た気がしたのだ。





 私は士官学校を上位の成績で卒業し、正真正銘の騎士となった。

 家に帰ると、父も母も、すでに文官となっていた兄も、自分のことのように喜んでくれた。

 その日は久々の家族団らんを楽しんで、夜にエルデーンに手紙を書いた。

 夢であった騎士になったこと、配属先は昔、私たち家族を助けてくれたあの零黒れいこく騎士団に決まったこと。

 そしていつものように何気ないことを書きつづり、手紙の最後はこう締めた。


 新人遠征訓練が終われば休暇がある。

 今度は私から会いに行く、と。





 エルデーンからの返事は訓練に出発する前日に届いた。

 内容は騎士になったことへの祝いと、私の家族の話題、そして訓練がんばってね、とこれまでに比べたら短めの手紙だった。

 恐らく訓練に間に合うようにと、急いで書いてくれたのだろうと思う。

 だけど今回は短い代わりに、手紙の最後に追伸があった。


 ――とびきりのお土産を用意して待っているわ。


 これが彼女とやりとりした最後の手紙。

 彼女との思い出は終わった。

 これ以上の先はない。


 ないのだ――。




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