大陸暦1519年――05 騎士物語1
今日、セドナの収監部屋に訪れたマルル・ホルマル獄吏官は、その手に沢山の本を抱えていた。
手に積み上げられた本は、彼女の鼻にまで達している。女性一人で持つにはそれなりに重たいはずだが、ホルマル獄吏官は見るかぎりでは片手で軽々と持ち、自由な手で扉を開けて、部屋に備えつけられた小机にそれを下ろした。
そしていつものように、かかとを揃え、敬礼をする。
「サーミル獄吏官長付き、マルル・ホルマル獄吏官です! 挨拶が遅れ申し訳ありません!」機敏に礼をすると、続けて言った。「今日は、バルゼア殿に本をお持ちしました!」
机に置かれた本は、どうやら自分への進上物らしい。
ベッドに腰掛けたまま、成り行きをぼんやりと見ていたセドナは、言われて初めてそのことに気がついた。
「バルゼア殿、何も要求して下さらないし、お外にも出られませんから。せめて本でもと思いまして、勝手ながらお持ちしました。本の選分は私の趣味です! すみません! 気が向いたらお読み下さい。お好みのがなければ遠慮なくお申し付けください。では失礼します!」
ホルマル獄吏官は言いたいことだけ言って、部屋を後にした。
まるで嵐のようだ、とセドナは思いながら本の束を軽く一瞥する。
どうやら題名からして物語が多いようだ。ホルマル獄吏官は自分の趣味だと言っていたが、妙に納得する。彼女のことは何も知らないが、確かに好きそうではある。
セドナはどちらかというと、本を読むのは苦手だった。
勉強のために読むことはあっても、それ以外は自分から好き好んで読んだりはしない。
なので読むつもりはなかったが、だからといって他にやることもないので、とりあえず本の束を上から順に眺めることにした。そして下のほうに差し掛かったとき、見覚えのある題名に思わず目を見開いた。
セドナは立ち上がり、本が置かれた小机へと近づく。
上の本を横に置き、目当ての本を手に持つと、手慣れた手つきでページを開いた。
それは最後の見開きだった。
右側には物語の最後の場面が記され、左側にはその場面の挿絵が描かれている。
挿絵に視線を落とす。
そこには片膝を付き、姫に手を差し伸べる騎士と、その手を取る姫の姿――。
セドナは尊いものに触れるかのように挿絵に手を乗せると、静かに目を閉じた。




