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後編

 地面に穴を掘り、枯れ枝や枯れ葉を貼り付けて偽装した外套をかぶせ、ガキと一緒に中に入ってじっと息を殺す。


 普段は唐突に「おまえ、ころしゅ」などと言い出すガキだが、こういう状況では気配を消してどれだけ時間が経とうが身じろぎひとつしない。


 北の雷鳴が轟いてからしばらくすると、森の奥から数匹の人影が現れた。


 極端な猫背。人間の子ども程度の身長。赤銅色のてらてらとした皮膚に、しわくちゃで醜い顔……小鬼どもだ。


 いつもの通り道が荒らされていることに気がついたのだろう。警戒心をむき出しにして進み、森を出る。


 先陣が安全に森を出たことに安心したのか、森の奥から続々と小鬼が姿を現し、大胆な様子で進んでいく。


 十二……いや、十三匹か。これで全部だな。穴の中で小剣を抜き、偽装用の外套を跳ね除けて雄叫びを上げる。


「うぉぉぉぉおおおおお!!!!」


 背後から突然現れた奇襲者に驚いた小鬼どもが獣道に沿って村の方へと逃げ出す。


 先頭を走っていた小鬼が転倒する。俺が仕掛けた草を結んだだけの罠に引っかかったわけだ。後に続いていた小鬼もそれにつまずき転倒。


「「「うぉぉぉぉおおおおお!!!!」」」


 今度は村の方から男たちの雄叫びが上がる。手に手に農具を握った村の若者たちが草むらから飛び出して倒れた小鬼に振り下ろす。


 こうなれば小鬼どもは完全に恐慌状態だ。散り散りになって、普段とは違う道筋をたどって逃げ出そうとする。


 だが、慣れない地形に足を取られて数匹が転ぶ。追いかける村人たちの農具がまた振り下ろされる。


 村長への頼み事とはこれだった。


 小鬼どもは単独では人間よりも弱い。群れとしての力を乱すことさえできれば、十数匹程度の小鬼ならこの村の戦力だけでも十分に倒せる。


 そして勝算のある作戦なら村も当然乗る。小鬼退治には村の生き死にがかかっているし、なにより同じ村の仲間の仇でもある。


 復讐は、誰だって自分の手で成し遂げたいもんだ。


 草原を抜け森に入った小鬼たちもいつもの道に戻ろうとはしない。


 これ見よがしに荒らしておいたんだ。狡猾で臆病な小鬼どもは、「また罠があるんじゃないか」と警戒して必ず違う道筋を選ぶ。


 森に入った小鬼どもが次々に俺が仕掛けた罠にかかっていく。仕掛け矢、くくり罠、踏みつけると刺さるよう折り曲げた古釘。


 動けなくなったやつらは後で仕留めればいい。罠にかからず森の中に逃げた残りを追う。


 一匹に追いつき、首筋を小剣で斬りつける。十分な手応え。太い血管を切ったはずだ。ほっとけば死ぬ。


 致命傷を与えた小鬼を捨て置き、次を追う。追いつく、斬りつける。次を追う。


 作業のように首筋に向けて剣を振るう。次を――頭に衝撃。視界が揺れる。なんだ? 視線を右に左に動かす。いた。地面につくほど長い腕の小鬼。くそ、変異種までいやがったのか。待ち伏せか。


 視界が揺れる。歪む。歪んだ視界に映る変異種の姿が大きくなる。めちゃくちゃに剣を振るって近づけまいとする。再び頭部に衝撃。膝に力が入らない。両肩に衝撃。仰向けに倒れる。ずん、と腹に重み。くそ、のし掛かられた。


 首筋が熱い。何か流れ出している。血だ。噛みつかれている。肉の奥まで、骨に当たるほど牙が食い込んでるのがわかる。はっ、くそ、致命傷だ。死んだ。こんなくそ小鬼に殺されて終わるのか俺は。


 最後に一発ぶちかましてやりたいが、身体が冷たくてまるで力が入らない。ああ、そういえば穴に置いてったガキはどうなった。一人で村まで帰るくらいのことはできるよな……。


 目が霞んできた。ふっと身体が軽くなる。いよいよおしまいかと覚悟したところに聞き慣れた声が耳に入った。


「おまえ、ころしゅ」


 視界の端に、あの手長の死体らしきものが転がっている。再び腹に重み。霞んだ目に無理やり力を入れると、血に濡れたナイフを持ったガキがいた。


「おまえ、ころしゅ、わたし」


 ああ、それがいい。復讐は誰だって自分の手で成し遂げたいもんだ。


「ち、ささげる」


 ナイフが振るわれ、俺の視界は真っ赤に染まった。

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