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彼女のヘッドホンからはメロディは流れない

作者: MOZUKU

高校二年生の僕は、今日も我がクラス2ー3でボーッとしている。友達は少ないがボッチではないという中途半端な立ち位置の僕だが、この位置が案外気に入っている。

そういえば、このクラスにはボッチの女の子が一人居る。名前は美空(みそら) 日向(ひなた)ショートヘアーでボーイッシュの可愛い彼女が孤立する原因は、授業中以外はバカでかいヘッドホンを耳に当てて「私は他人とは一切干渉しない」というオーラを醸し出してることにある。

最初の内は、男子はもちろん、女子も彼女に話しかけていたのだが、ヘッドホンをした彼女は何も喋らず、動くことさえせず、他人に興味が全く無さそうである。

そんな態度をしているものだから悪目立ちし、お高く止まっていると女子は彼女を嫌い、彼女の可愛さにつられた男子共もその内話し掛けなくなった。

「美空さんって、ムカつくよね。」

「あーせっかく顔は可愛いのに性格ブスだな。」

女子も男子も文句を言う始末だが、ヘッドホンをして音楽を聞いている彼女にはその言葉は届くことはないだろう。

ある日のこと、たまたま彼女の席を通りかかった僕。そのまま通り過ぎようとしたのだが、彼女の上着のポケットから、ヘッドホンのコードが繋がったスマホが、コトンッと床にこぼれ落ちた。あれでもこれは・・・まぁ、いいか。

「これ落ちたよ。」

「チッ。」

彼女は舌打ちをしながら僕から自分のスマホを奪い取った。感謝の気持は微塵もないらしい。別に良いけど。なんか面倒そうだし。

そのまま僕は何事も無かったように授業を聞いたりボーッとしたり、友達と何気無い会話をしたり、通常通りの学校生活を過ごしていた。んで、放課後になったので帰ろうとしてたんだけど。

「ちょっと顔貸しなよ。」

美空 調さん。あーやっぱりそうきたか。そうだよな、分かった行きますよ。それにしても「顔貸しなよ」なんて初めて聞いたよ。



彼女に連れられてきたのは、窓にカラフルなステンドグラスなんかハメてある、小洒落た隠れ家的な喫茶店、ここならウチの高校の奴等とか来そうにない。秘密を話すのに持ってこいって感じだ。

「奥の席に座ろ。」

「う、うん。」

奥の広々としたテーブル席に向かい合うようにして座る僕ら。女の子とお茶するなんて中々なイベントだけど、美空さんの表情は険しいもので、楽しいお茶会にはなりそうにない。

「ホットコーヒー、砂糖はいらない。アンタは?」

「あっ、ホットココアで。」

「かしこまりました♪少々お待ち下さい♪」

可愛らしいウエイトレスさんが注文をメモに取って、それを厨房に伝えに行く。

さて、そろそろ聞いてくるかな?

「見たの?」

ほらね。でもあまりに唐突過ぎやしないかい?まぁ、何のことだか検討はつくけどね。回りくどいのは好きじゃないし、一発で当ててみよう。

「スマホの電源が切ってあったことかな?」

「ふん、やっぱりね。」

目が怖い。僕は悪いことしてないんだから、そんなに睨まないで欲しい。

「なんで電源切ってたの?」

「えっ、逆に聞きたいんだけど、必要無いのに電源付けてる必要あるの?電池の無駄でしょ?」

・・・やはり意図的に電源を切ってたらしい。つまり彼女は音が全く流れていない状態でヘッドホンをしていたということである。一体何の目的で?

「何で音が出ないヘッドホンしてたかって?聞きたいんでしょう?それが。」

「ま、まぁ、聞きたいような、聞きたくないような。」

「どっちかハッキリしなさいよ!!」

「き、聞きたいです!!」

怖い怖い、いきなり怒鳴るんだもんな。こんなキャラだったっけ?

「教えてあげるよ。私はね。陰口を言うような人間が大嫌いなの。人がいない所でネチネチ人の悪口を言うような人間を軽蔑してるし、近寄りたくもない。だからこうして音の鳴らないヘッドホンをして、陰口を言わない人間と言う人間を選別してるのよ。ヘッドホンしてるとね、聞こえてないと思って馬鹿な奴らが言いたい放題色々言ってくれるわけよ。だからムカつくとか性格ブスとか全部私に筒抜けなのよね。」

なるほど、確かにヘッドホンしてたら、音楽聞いてると思って悪口の一つや二つ平気で言う人間も居るよな。実際にクラスの奴等なんか美空さんの悪口言いまくりだし、けど責められることじゃない。人間生きてれば陰口ぐらい言うさ。面と向かっては言えないことを、相手に聞こえてない大前提で喋る。思ったことを口に出したいのが人間の性というものだ。

それを彼女は許せないと言う。どれだけ潔癖な人間なんだろう?

「やってみて分かったけど、陰口言わない人間なんて居ないのよね。私を見て大なり小なり皆何か言ってるわ。だから皆大嫌い。」

そりゃ、毎日ヘッドホンしてブスッとしてるんだから、クラスの皆も美空さんに何かしら思うところがあるだろう。それにしても、陰口をここまで気にするなんて、なんて生き方の下手な人なんだろう。少しばかりの鈍感力があれば、多少の陰口なんて気にならない、いや気にしないようにする筈だ。無音ヘッドホンなんてして、世界を自分で生き辛いものにするなんて、僕には理解することも出来ない。

「ふぅ、それで、アナタを呼び出した理由は、私のヘッドホンのことを皆に黙っておいて欲しいの。駄目ならそれで仕方ないけど。」

音の出ないヘッドホンをしてるなんてことがバレたら、更に異端扱いされてクラスでの立場なんて無くなっちゃうもんな。言ったところで僕に利点なんて無いし、さして言う必要もない。

「分かったよ。黙ってる。」

「そう、一応お礼を言っておくわ。ありがとう。あと、ここの支払いは私が払うから。」

これで彼女との話は終わり、明日からはいつも通りの日常か。

だが、待ってくれ。

こんなに生き方の下手な女の子が現実に居るとは、正直な感想を言えば・・・無性に可愛いじゃないか。あと放っておけない。こんな子が社会に出たら、社会不適合者のレッテルを貼られて生きていけないのでは無いだろうか?それは非常に勿体ない。だって可愛いもの。

「あのさ!!」

「・・・ちょ、どうしたの突然大声出して」

「実はさ!!僕!!君の悪口言ったことないんだよね!!」

「そ、そういえば聞いたことないかも。」

そうだ僕は美空さんの悪口を言ったことがない。まぁ、とくだん興味も無かったのだけど、それはこの際どうでもいい。言ってないことが重要である。

「だ、だからさ・・・」

僕の人生初、テンションを上げて思い切ったことを言おうと思う。たまにはそういうことをしてもバチは当たらないだろう。

「だから、結・・・いや、付きあっ・・・もとい!!友達にならない!?僕ら!!」

あっぶねぇ、テンション上げ過ぎて二段ぐらい順序をすっ飛ばすところだった。一段ずつ下げていって、ようやく言えたよ。

「友達?・・・アンタ恥ずかしいこと言うね。」

真顔で美空さん。リアクション悪いなぁ。これは無理か。

「あんたが友達になったら何してくれんのよ?」

なるほど、何かしらのメリットが欲しいわけか、どうしようか?まぁ適当に言っておこう。

「寂しい時に側にいてあげるよ。」

「えっ?じゃあ四六時中私と一緒に居るつもり?家にも着いてくるつもり?変態じゃん。」

「ご、誤解だよ!!」

ん?というかこの子は常に寂しいってことかな?しれっとメチャクチャ可愛いことカミングアウトしてね?

「ぷっ、まぁいいや。友達(仮)ぐらいにはしといてあげるよ。じゃあここの支払い宜しく♪」

えっ、やった。なんか友達になれたし、仮免だけど。でも支払いが俺になってる。彼女の中で友達=財布なのか?

まぁ、僕の気まぐれと彼女の寛大な(?)計らいにより、僕らは友達(仮)になったけど、これからどうなるか分からないけど、願うことなら彼女がいつか音の鳴らないヘッドホンをするのをやめるようになれば良いな。




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