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贈り物

 俺は家に帰った後も、まだだれか他人が自分の部屋の中にいるような気がして、部屋中を捜し回った。

 あったのは、くしゃくしゃになったチラシと飲みかけの酒、薄汚れた安物の壁紙に、脱ぎ散らかした服だけだった。


 いつもと変わらない部屋。おいてある物。匂い。


 そのどれもが日常であるはずなのに、なぜか今日は青臭い匂いがした。

 ピーマンのあのイガイガした臭いによく似ている。

 

 勿論、自炊など時間の無駄だと思っている俺は、野菜は買わない。まして、苦い野菜など買い物の候補に挙がるはずも無く、ただただ、その臭いが良からぬ者が残した痕跡に違いないと思った。

 その臭いは、お風呂場の方から滲み出すように香ってくるのである。

 

 なぜか、消したはずのお風呂場の電気が付いている。

 

 俺は薄い呼吸を繰り返して、そっとお風呂場の扉を開けた。


 ゴロリと緑色の塊が床に転がった。


 そこには、お風呂場の床を埋め尽くすほど大量のピーマンが積み上げられ、テカテカと不気味な緑色の輝きを放っていた。

 恐る恐るその一つを拾い上げてみると、人肌に温かいのである。


 まるでついさっきまで誰かが胸に抱いて運んで来たように。嫌な汗が脇を伝う。


 俺は急いで六畳一間に退散した。ぴしゃりと引き戸を占めて布団を頭からかぶる。

 今日は酒を飲んでいないのである。

 頭がおかしくなったとしか思えない。


 その証拠に、もう一度ゆっくり引き戸を開けると、床に転がり落ちていたはずのピーマンが、そこにはもうなかった。


 幻覚か、あるいは売れないyoutuberが見知らぬ他人の家に反応しずらい悪戯をかけているのか。

 どちらにしても気味が悪い。


 夕飯として買ってきたクルミパンをかじりながら、テレビを大音響で付け、くだらないお笑い芸人の姿を見る。

 俺は芸人が嫌いだ。なんだかいじめられっ子がみんなに笑われている姿によく似ている。

 ああいうのをメディアで流すから真似をするのではないだろうか。

 いやむしろ、それが人間の本性だとするならば、それも正しいんだろうか。少し心は落ち着いた。


「ああ、あの芸人死なないかな(仕事で疲れすぎていて世界が敵だと思い込んでいる)」


 ふと、部屋に入るときに閉め忘れたのだろうか、引き戸に3センチほどの隙間が空いていて、やけに暗い外の暗がりを映していた。

 その暗がりの中に、何か不吉な物がいて、こちらを見ている。

 そんな夜眠れない小学生のような妄想に駆られて、俺は身震いした。


「はーあ。寝ちゃおっかなぁ」


 仕事に疲れていた。趣味をする時間も無い。

 本音は、早く寝て、この不気味な状況から逃げたい。

 

 布団を正して、部屋の明かりを落とし、ゆっくりと横になった。その時。引き戸がゆっくりと音を立てずにスライドするのが分かった。


 フローリングの床が、何者かの体重でわずかに音を立て、ぽつりぽつりとなにか水っぽい物が床に垂れる音を聞いた。

 目が怖くて開けられない。

 見れば殺されるんじゃないかと思った。


 だが不思議なことに入って来たその物音は、ベッドの隣に立ち尽くしたまま、一切身動きを取らなかった。

 ややあって、気のせいだったのだと、思うようになった。


 暗闇で時計も見えないので、カーテンをわずかにめくって外でも見ようと、真っ暗なガラスに目をやった。


「ヒィッ!!!」


 そこに映ったのは、背中を曲げ、上から覗き込むように俺を観察する巨大な化け物の姿。


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