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破棄系

おりなすもの

作者: アロエ



「すまないが、この婚約はやはり解消させてもらいたい」

 


7つの頃より決められた許嫁と初めて顔を会わせた途端に、神妙な顔でそう切り出された。


突然のことに父も母も向こう方の親族らも驚き目をまんまるとさせて唖然となっている。無理もない。ようやく互いが成人し、夫婦となるために山を二つと砂漠を越えて嫁入りに先程着いてのこの仕打ち。


おどおどと狼狽えた様子であちら様の母君が婿に問う。



「お、お前は何を言い出すの!せっかく遠路はるばる来てくださったお嫁さんに!まさか許嫁がいながら恋しい人でも作っていたの?!」


「違う!そんな義理も何もない男なんかじゃ俺はない!」


「じゃあどうしていきなり!あんただって今日この日を心待ちにしてきたじゃないか!」


「それは……そうだが、逆になんでお袋たちは彼女と俺が夫婦になれると思うんだ。見ろよこの体格の差を。俺なんかのところに嫁いで来たら、いつ彼女は命を落とすかもわからないだろうに!」



振り向きざまの衝突でさえその華奢な体は吹っ飛んでしまうに決まっていると痛ましげに顔を歪める彼は本当に彼女のことを首を長くして待ち続けてきた。


遠く離れた地からくる手紙のやりとりだけで姿絵一つ高価すぎて買えず、人に聞く姿のみでその人を想像した。字の癖、季節によって贈られる贈り物、勧められて知った外の世界の英雄譚や少し気恥ずかしい恋物語。


幼い頃から寄り添いあった友のような、兄妹のような、けれど何者にも代えがたい人。


そんな人だからこそ瑠璃色の花嫁衣装に身を包んだ彼女の小ささ、細さ、美しさ。そしてどうしようもなく埋められない体格差を前にし壊してしまうと不安と恐怖に駆られ、辞退を申し出たのだった。



「体格の差、それがわたくしを迎えがたいという理由なのですか?」



思い思われ、望まれてようやくと辿り着いた地で顔を会わせてから光の速さとでも言うかのように婚約を解消しようと言われ、己の容姿が良くなかったとでも言うのか。それともこの婚約を喜んでいたのは自分だけだったのかとこの世の終わりのように血の気の引いた顔をしていた彼女も母と争うその様を見て平静を次第に取り戻していけば会話に参加した。


ちなみに、未婚の女性は無闇矢鱈と口を挟むことはあまり良しとされない。話をするにも通訳のような主の意思を伝えるものを間に入れるのが彼女の一族のしきたりである。


親しいものと夫のみが女性の声を聞くに値するのだ。


そんな彼女の様子に連れてきた親族らが眉を寄せかけたが彼女の真剣な表情と、事の次第に誰も止めようとはしなかった。


その場に一つきり響いたカラレリナ(木の精が奏でると言われる音を含んだ風)のような澄んでよく通る声を聞いて母親と言い合っていた青年が顔を赤く染めて硬直した。


彼もまた、彼女の一族のしきたりを知っている。そのような文化があるのだと知人や彼女本人から手紙で聞いていたのだ、そしてそれにどれほど意味があるかもわからない阿呆ではない。



「体格の差など些事です。我が一族の女の特性を知らぬ者はおりません。繁栄の神の加護を得ているために滅多なことでは壊れませんもの。もちろんあなた様の子もきちんと授かるつもりです。わたくしはそのためにこちらに参ったのですから、きちんとお嫁にもらってくださらねば困ります」



儚く折れてしまいそうな細い身でありながらも胸と腰は女性らしく丸みを帯び魅力的であり、見るものが見れば加護があるとのそれも確かにと頷けるような型だ。


嫁入りに来たのは本当だが、それでもまだ祝言すら挙げていないのになんと言う身も蓋もない破廉恥な話をと花嫁方の母親が卒倒したのをお側付きが慌てて抱え運び出す。


焦がれてきた女性に恥をかかせまいとあえて触れずにいた話題をどんと出された婿は更に顔を真っ赤に染め上げアーケル(赤面の猿)のようになって彼女を二度見した。



「婚約の解消なんて認めません。わたくし、友にも、故郷の者たちにもあなた様という実直で誰より信頼を置ける殿方に嫁ぎ、必ずやお役に立って幸せになるんだと約束してきたのです。誓いの神ヤームナーマ様のお怒りが下ったなら、旦那様、責任がと・れ・ま・し・て?」



下から睨みあげ、人差し指を突き出しツンツンと割れた腹筋を少し強めに突きながら一言一言を言えばふん!と鼻を鳴らし彼女はむくれた顔をしようやく口を閉じた。





それから少しごたごたやら気まずさはあったが、とりあえずは彼女の嫁入りは滞ることもなく叶った。


初対面の時のあれもなかったかのように彼女は心から嬉しそうに褐色の肌を喜びに染めて艶やかに笑う。誰が見ても幸せの絶頂であることが伺えた。


婿は早々に尻に敷かれている。あんなバカをやらかしたのだから当然だ。が、しかし彼の言葉には悪意などがなく、また彼女の体を思いこの先を憂いて自分以外に嫁ぐならばまだ取り返しのつくうちにとそういう意図が含まれていたため情状酌量の余地はあるとされた。 

 


婿の父親が嫁の父親にどつかれ、うちの倅がすまないだの何だのと酒を飲み交わす裏でせっせと母親たちは新婚の彼らがやがて足を踏み入れる部屋の仕度と加減を見て指示を飛ばす。寝所は神聖な場所だ。繁栄の神の見守るとされる。


故に入念に準備は進められて、二人がこちらにやってくるという知らせを受けてすっと皆が退出した。


枕の下に繁栄の神を象徴するシイナの木の一枝を隠して、これから連綿と続いてきた営みを行う。


僅かな灯りの中、改めて互いのみだけで向かい合い夫婦となったことを確かめ。




明くる日、昼過ぎに婚家の下働きの女性と婿の母親が様子を見にやってくる。すれば仲良く二人がまだ寝入っているのを見、安堵したような顔をしながらまず婿を起こし、疲れているであろう花嫁を起こさぬようにと寝具から抜けさせ枕の下の枝を取り出す。


細く頼りないその枝が折れていようといまいと神が見届けをした証となり、全てを拾い集めそれようにと用意された火にくべられる。


これで初夜は完遂だ。



花嫁が自然と目覚めるのを待つのも繁栄の神に委ねられているからだと言われている。産みにより命をかける女性を大切にするのも彼らの習わしによるものだ。



「ん、クゥエルさま……」



片割れが離れてそう経たないうちに彼女は目覚め、鼻にかかった声をあげた後に直ぐに片割れを求めそれを聞いた婚家の下働きたちは嬉しそうに彼女の世話を焼き出す。


彼が彼女を思い続けた年月と信頼関係、それに嫁入り前の様子などを知るものらである。主人らに少しの騒動はあったがそれでもこうして仲良くやれている様子が見られたなら皆、祝福一色だ。


甲斐甲斐しく彼女の世話を焼いて、少し離れて両親や彼女の父母に、それから様々な箇所に出向いていた婿も帰ってきたなら彼女を労り愛おしげな眼差しで見る。



そうして恙無く、彼らは伴侶としての生活を織り始めた。


いずれ両家の血を繋ぐ子も生まれよう。


時に優しく大胆に思わぬ動きを見せて立ち居振る舞う彼女を目耳に入れて、もう決して関係を断とうなど思えぬほどに青年が惚れ込むのも時間の問題だった。




婿:濃灰色の髪に白い肌。筋骨隆々の大男。2m余裕で超える。力持ちとその見てくれでだいぶ稼いでる村の有望株。嫁さんが送ってくれた手紙はほんのりお香付きでこっそりクンクン嗅いでから大切に保管している。対面の場で怖がられると俯きなかなか彼女を見ることができなかった奥手。アリボの森の民。


嫁:150前後の小柄な女性。繁栄の神(子宝、安産、多産の神)の加護を有すると言われ、数多ある国や民族に重宝され大切に保護されるフシュラム一族の生まれ。藍色の髪を編み込んでまとめ、褐色ボン・キュッ・ボンでパッと見虫も殺せなさそうだけれども槍持って弓持って狩猟小刀持って猟しまくる野生児。己の血筋に誇りを持ち、腹や肉体の強靭さに自信がある。男性経験はなかったけどお姉さまもお母様も皆が大丈夫だったんだから私も平気なはず!と勢いあまっていったけど、やっぱり旦那のブツがでかくて普通に泣きを見る。慣れるまで戻したり何だりと寝所は慌ただしいけど、加護もあるのでそのうちケロッと慣れる。

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