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Bar 1124  作者: 杏仁豆腐
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ミドリさんと付き合う事になった俺のアレコレと、その後

薫目線+その後です。

拗らせてます。

 ミドリさんと付き合う事になった。多少強引だったけど。


 ミドリさんは俺が店長をしているバーの常連の、4歳年上のお姉さんだ。


 最初はただの常連客の一人だった。

 けれど、ミドリさんとは映画の趣味が合った。その事がミドリさんが俺の中で特別な存在になるきっかけだった様に思う。


 ミドリさんは良い意味で俺の今までの人生で出会った事のないタイプの人だ。




 俺の母は美しい人だった。その美しさを活かして、複数の会社を経営する大金持ちの男の後妻になるくらいには。

 

 俺は母の連れ子として5歳の時、その金持ちの男の家の門をくぐった。

 男は70を間近にしたでっぷりと太った男で、母が何を目当てでこの男に嫁いだのか、あからさまに見て取れた。会社の経営は既に成人した自分の息子に任せて、悠々と若妻と隠居生活を送る事を楽しみとしていた。


 当然そんな家で、俺の立場は危うい物だ。

 男は母に惚れ込んでいる。遠からず母に様々な遺産を譲る遺言を書くだろう。だがその中に俺は含まれていない。当たり前だ、血が繋がっていないのだから。


 母としても俺の存在は自分の立ち位置を盤石な物にする為に邪魔だったろうと思う。

 男の息子にとっても勿論、母と俺は邪魔だった。


 行き場のない生活。以前より格段に贅沢な暮らしをしているというのに、俺は孤独を抱えた幼少期を送った。


 それでも男は俺をきちんと育てる意思はあった様で中学生になった時、俺に家庭教師をつけてくれた。

 有名大学を主席で入学した女子大生。長いロングの髪の毛を巻いて、いつもタイトなワンピース姿だった。


 今思えば、父親となった男の好みが多分に影響してた様に思う人選だった。


 彼女はとても優しくて、俺を1人の人間として扱ってくれた。家族みんなから放置されていた俺はその先生を当たり前の様に慕った。恋とか愛とかそんな形を持った物じゃなかったと思う。ただ俺ときちんと話をしてくれる相手、そんな彼女との時間を俺は大切に思っていた。


 けれどそれは俺だけだったらしい。


 しばらくして先生は俺にキスをする事を要求して来た。俺はそれに従った。

 断って先生に嫌われるのが怖かったからだ。


 そうして先生の要求は段々とエスカレートしていった。


 中学生当時の俺は先生が授業終わりに必ず身体を擦り寄せてくる事も、俺に色んな奉仕をさせるのも、おかしい事に気付いていた。けれど断れなかった。初めて俺に優しくしてくれた先生に失望されたくなかったからだ。


 結局その秘密の習慣は俺が中学を卒業するまで続いた。


 この出来事は少なからず俺にトラウマを残した。


 先生との縁は高校受験が終わった事で切る事が出来た。けれど高校に入学してからも、時折先生との間にあった出来事がフラッシュバックする事があった。


 そんな時に俺の体調を気遣ってくれた女友達がいた。彼女は家庭教師だった先生とは全く違うタイプで、ショートカットで日に焼けていて、恋愛よりも部活に打ち込む様な、そんな女子だった。

 若い女性の先生、決まってロングの髪型の先生の授業の時に、時折気分が悪くなってしまう俺を保健委員としていつも保健室まで連れて行ってくれていた。


 そんな彼女に俺のトラウマを話したきっかけは些細な事のように思う。

 頻繁に体調を崩す俺に彼女が理由を聞いたのかもしれない。それとも彼女を信頼した俺が話したのか。


 とにかく誰かと自身のトラウマを共有する事で、俺は楽になりたかったのだ。そしてあわよくば誰かに慰めてもらいたかった。


 けれど彼女の返事は期待とは違う物だった。


 『へぇ、そんな事があったんだ。でも仕方ないよね、薫君の見た目だもん』

 『え?俺の……見た目?』

 『うん、だってこんなにかっこいい人見た事ないもん。その先生も薫君の事好きだったんじゃない?』

 『……』

 『それに……あたしも、薫君の事、好きだし……』

 

 そう言って保健室でチラリと俺を見上げた彼女の目が忘れられない。それはあの、彼女とは似ても似つかない筈の家庭教師の先生と同じ目だった。


 その時俺はふと合点がいった。

 俺が家庭教師の先生にあんな事をさせられたのも、目の前の彼女が俺に優しくしてくれるのも、全部、俺の顔が原因なのだと。


 それから俺はニコニコとどんな人も受け入れる様になった。そうするのが楽だったからだ。


 ニコニコとしていれば色んな人が優しくしてくれる。どんな人からの誘いも基本的に断らなかった。断ってまた誰からも相手にされないのは辛いから。


 そうして大学を卒業して、家族から行方をくらますように家を出て、バーを立ち上げた。

 集団の中で自分を疲弊させて行く生活に疲れていた俺にとって、大好きな映画を観ながら美味しいお酒を作る生活が性に合っていたのだ。



 ミドリさんは開店当時から常連としてバーに通ってくれていた。ミドリさんが俺の顔目当てで通っていたのは知っている。

 そもそもこのバーの客の大半がそうだから気にした事は無い。


 けれどミドリさんは俺を口説く事は無かった。それに常連になってすぐに俺の顔よりも、バーで流れている映画と俺の作る酒を目当てに通うようになった。


 『はぁぁあ、美味しいお酒飲みながら最高の映画観るって贅沢すぎる……。ほんっとうに薫君の作るお酒っていつも美味しいよね』


 ミドリさんは知らないだろう。その一言が俺にとってどれだけ嬉しかったか。


 だから初めて自分からメッセージを交換した。開店前に店に来ても良いと言ったのもミドリさんが初めてだった。




 思い返してもミドリさんが初めて開店前に店に来た時は印象的だった。


 その日は、何度か関係を持った事のある女性がしつこく店で迫って来ていた。

 来る者拒まずの俺だけど、流石にミドリさんの顔が脳裏によぎった。あと10分もすればミドリさんとの約束の時間になる。


 『ねぇ、なんでダメなの?いつもなら笑顔でいいよって言ってくれるじゃない』

 『すみません、約束が……』

 『……つまんない。ね、キスだけ』


 未だに過去のトラウマを克服出来てない俺は、言われるがままにキスをする。


 その場面をミドリさんに見られたのだ。


 当時はその事を悪いとも思ってなかった。もしミドリさんに求められたらそれはそれで良いかもしれない、そんな風にまで考えていた。


 けれどその時のミドリさんは、とても悲しそうな目で俺の事を見ていた。


 その目が印象的だった。俺を見る女性の目はたいてい決まっていたから。好奇、期待、欲情、はたまた失望。それが全て。

 あんなにも悲しそうな目で見てくる女性はミドリさんが初めてで、何故かそれが嬉しかった。


 ミドリさんが開店前に来ると連絡をくれる度に俺は期待した。俺が違う女性と抱き合ってたら、またあの悲しそうな目で俺を見てくれるんじゃないかと。


 そのせいでミドリさんが、見たくも無い他人のラブシーンを多く目にしてしまったのは可哀想だけれど。




 きっとこれは恋なのだと思う。

 そう思ったのは、ミドリさんがベロベロに酔っ払って『なんでもいいから処女を捨てたい』と呟いた時。

 ミドリさんがバージンだという事実に驚きと共に嬉しさが込み上げて、そして『こうなったら出張ホストにでも頼むか』という彼女の呟きに怒りが込み上げた。


 自分が何かに怒った事がなくて、不思議な気分だった。


 そうして家に帰って考えた。この気持ちは何なのかと。そして気付いたのだ。きっと自分はミドリさんに恋をしているのだと。


 女性経験は多いけれど、恋愛経験は一度もない。遅すぎる初恋に戸惑いながら、それでも男女関係といえばセックスしか経験のない俺は何をすれば良いか分からず、ミドリさんにバージンを捨てる手伝いをすると大真面目に提案した。


 ミドリさんの答えは予想とは違った。


 真剣な顔で、なんなら怒った表情で俺に説教をしたのだ。

 その時俺は腑に落ちた。俺はずっとこの表情を見たかったのだと。俺を諌めてくれるミドリさんが、心の底から俺の事を心配して大事に思ってくれてるのが伝わるから。


 俺のミドリさんに対する気持ちはこの瞬間、「初恋」なんて可愛い物じゃ無くなった。執着と欲望と懇願と慈しみと、そんな色んな感情がドロドロに混ぜ合わさって解けない様な、そんな感情。

 どこか遠く、誰もいないところで2人きりでミドリさんの笑顔をずっと見ていたい気もするし、ぐちゃぐちゃに泣かせてみたいとも思う。そしてそんな俺を全て許してもらいたいとも。



 ミドリさんは不幸だ。こんな思春期を拗らせまくった俺なんかに見つかったんだから。



♢♢♢



 「ねぇ、薫君。お願いがあるんだけど……」

 「何ですか?」


 ミドリさんに店のお客さんの前で強引にプロポーズしてから早一週間、あの出来事で諦めがついたのか、ミドリさんは意外にも俺と付き合ってくれている。

 付き合ってるといってもいつもの様に店で飲んだり、たまに閉店後にキスしたりするくらいで、あまり付き合ってる実感が無いのも正直なところだった。


 あの日、ミドリさんに水をかけたあの女は許せないけれど、でもそれのおかげでミドリさんと付き合う事が出来たとも言える。非常に複雑な心境だ。


 「薫君をモデルにした漫画描こうと思ってるんだけど……ダメ?」

 「俺がモデル……ですか?」


 どんなお願いをされるのかと思えば、なんて事はない内容だった。けれどミドリさんは、まるで人を殺してくれとでも頼んでいるかの様に申し訳なさげにこちらを見上げてくる。


 ミドリさんの職業は少女漫画家らしい。


 代表作を聞くと、普段少女漫画に興味の無い俺でも聞いた事があり、何年か前には映画化もされていたりする物だった。


 「ほら、前も言ったけどリアルな恋愛を描く為に薫君と付き合う事になったんだし、薫君をモデルにしたら描けそうな気がするの……!」

 「なるほど……」


 ミドリさんの職業を聞いた日から二週間、俺は既に彼女が描いた漫画を全て読破していた。


 「ミドリさんの描く恋愛は確かにキラキラし過ぎていて、現実味は無いかもしれませんね」

 「はは……や、やっぱそうだよね。薫君にはっきり言われると凹むな……」

 「けど漫画ってそういう物じゃないんですか?夢を与えるのが漫画だと思いますけど」

 「薫君……」


 これは本心だ。もし俺が今まで経験してきた様な男女の関係が漫画になったとして、それを読みたいかと言われたら全く読みたくない。


 「ありがとう、薫君。やっぱりそれでもリアルな恋愛を描ける様に頑張るよ。

 漫画は夢を与える物だけど、碌な恋愛経験もないのに描き続けるのは違うと思うし。だから薫君、お願い。モデルにしても良い?」

 「もちろん良いですよ。でもその代わり俺もミドリさんに聞いて欲しいお願いがあります」

 「……お願い?」


 ミドリさんの笑顔がひきつる。俺はそれを華麗にスルーして笑みを深めた。


 「デート、行きませんか?」




♢♢♢




 薫君に少女漫画のモデルになるお願いをした時、交換条件の様に薫君にもお願いされた。


 その時の笑顔はこの一週間で何度も見た事のある意地悪な物で、どんな事を要求されるのかと思ったけれど、意外にも薫君の要求はデートだった。


 デートだったらむしろウェルカムだ。何しろリアルな恋愛の基本ってデート、だと思うのだ。うん。


 そうして1124がお休みの日曜日、私と薫君は駅で待ち合わせをしていた。



 「薫君、お待たせ。ごめんね遅くなっちゃった」

 「いいえ、今来たところです」



 薫君と外で会うのは初めてだ。シンプルなジャケットに白いシャツ、黒のスラックスに革靴。薫君の素のままの良さが最大限活かされている感じだ。


 私はといえば、新調したロングスカートのワンピースとジャケット、そして歩きやすいパンプス。普段家でスウェットを着て漫画を描いてばかりいる生活だからか、久々の他所行きの格好に嫌でもウキウキする。


 「まずは昼ご飯食べに行きましょう。どんなの食べたいですか?」

 「う、うん」


 薫君はスマートに私の手を握ると、店が集まる方向へ歩き出した。


 なるほど、手を繋ぐのが一瞬すぎて断る隙を与えないのね。このスマートさはまさに少女漫画に出てくるヒーローっぽい。


 「初デートって何を食べるんだろう」

 「そうですね、映画だと何食べてましたっけ?」

 「私の好きな映画だと……ガレット食べてるな。いやそれってフランス映画だからだよね?参考にならない……」

 「ふふっ、そうですね。あんまり難しく考えずにミドリさんの今食べたい物で良いんじゃないですか?」


 薫君と私が向かい合ってガレットを食べてるのを想像したらなんだか笑えてくる。私の中ではまだガレットという食べ物は馴染みが無い。

 薫君も同じらしい。珍しく肩を揺らせてクスクスと笑っていた。


 「ラーメン、は流石に初デートじゃないし。うーん、そうだなぁ。…….あ、カレー食べたい」

 「カレーですか?」

 「うん、たまに薫君ドライカレー作ってお店で出してくれるでしょ?あれ凄く好きなんだよね。思い出したら無性に食べたくなってきちゃった」

 「いいですね。俺もガレットよりカレーの方が良いです」


 薫君とは基本的に色んな趣味が合う事が分かった。好きな食べ物や本、歌。アウトドアよりもインドアだし、犬よりも猫派。遊園地に行くよりかは水族館に行きたい、とか。


 今日は思いっきりデートらしい事をしよう、という事になって、カレーを食べた後私達は水族館に行った。


 「綺麗だね薫君。見て、エイがこっちに来るよ。あ、あそこに……」

 「……ね、ミドリさん」

 「ん?」


 薫君の声に振り返った瞬間、唇を奪われる。


 「初デートでカレーってやっぱり違うかもですね。

 ……カレーの味します」

 「……」


 薄暗い水族館でそうニヤリと笑う薫君は、なんだかとてもいやらしいという事も分かった。




 「1124でゆっくり映画観ませんか?」という薫君の言葉に一も二もなく頷いた。

 久々の人混みで少し疲れていたのもあるし、結局私は薫君とまったり映画を観るのが好きなのだ。


 私が観たい映画を選んでいる間に、薫君が出来合いのおつまみとお酒を用意してくれる。


 「ごめんね、折角の休みなのに仕事みたいになっちゃったね」

 「いえ、俺がしたくてしてる事なんで」


 そう言ってソファに横並びになって映画を観る。今日選んだのはサイコサスペンス映画だ。


 初っ端からハラハラドキドキする展開に食い入る様に画面を見つめていると、薫君がさりげなく腰に手を回して来た。


 「俺、ミドリさんの事好きです」

 「……ん」


 あ、背後に犯人いるのに、主人公気付いて!


 「……映画に夢中になったら全然人の話聞かないところとか」

 「……う、うん?」


 あれなんか今嫌味言われた?


 「ミドリさん、聞いてたんですね」


 思わず左隣の薫君を見ると、薫君は嬉しそうに唇を寄せてくる。


 「っ……。待って」

 「なんでですか?」

 「私別に話し聞いてない訳じゃないからね?ちゃんと……ん、」

 「ミドリさん集中して」


 ……って話聞かないの薫君の方じゃん!!


 薫君はキスをしながら私の方に体重をかけてくる。気付けばソファの上で薫君に押し倒されて、薫君は私の顔中にキスのシャワーを降らせていた。


 おでこ、鼻、頬、唇。思わず顔を背けると耳、首筋に。


 「待って、待って待って、薫君!」

 「どうしたんですか?」

 「言ったよね、ほら、薫君と付き合うけどセックスなし!これ、重要!」

 「……チッ」


 え、今舌打ちしなかった?


 「別に俺は今ミドリさんにキスしてるだけですよ?それなのにそんな想像するなんて、ミドリさんやらしいね」

 「……」


 薄暗い中で覆い被さってくる薫君は控えめに言ってエロい。こんなの、処女の私でも自分の今の状況がまずいって事くらいは分かる。


 「ね、ミドリさん俺と付き合ってるんですよね?」

 「そ、そうだけど……」

 「だからキスだけ、させてください。ね?」

 「……キスだけ、だからね」


 何度も言うけれど、私は薫君の顔に弱いのだ。


 「良かった。俺、ミドリさんの事好きです」

 「あ、ありがとう?」

 「ね、ミドリさんは?俺の事好き?」

 「えっと……」


 好きか嫌いかで言ったらもちろん好きだ。こうやって付き合う事になった経緯が特殊とはいえ、好きじゃなきゃ付き合ったりしない。

 けれど、ここで薫君にその気持ちを伝えるのはなんだか危険な気がした。


 「ミドリさん、俺がどれだけミドリさんの事好きか分かりますか?」

 「さ、さぁ?」


 薫君の瞳の色が濃くなる。

 むしろ薫君が私の事を好きだという実感があまりない。


 確かに一週間前のあの日から、何がきっかけかはわからないけど、薫君の私に対する態度は変わったと思う。それに私の事を特別に思ってくれてるんだろうなって事も分かる。

 けれどそれ以上に私は薫君の今までの恋愛遍歴を知ってるのだ。来る者拒まず、去る者追わずの彼の姿を。


 薫君の事は好きだ。けれど私の心全てを預けるにはまだ怖い。


 そんな風な事をツラツラと薫君に語りかける。


 薫君は私に覆い被さったままじっと私の拙い言葉を聞いていた。


 「分かりました。前ミドリさんが俺に、本当に大切な人が出来た時に後悔するって言ってくれましたよね。今まさしく後悔してます」

 「とりあえず薫君に私の気持ちが伝わったみたいで良かった」

 「はい」

 「……あの、薫君?」

 「はい」

 「……なんでどいてくれないの?」

 「逆にどうして俺が引くと思ったんですか?」

 「え?」

 「俺嬉しいです。ミドリさんも俺の事好きなんですね。そんなの聞いて俺が引くわけないですよね?」


 そう言って薫君が唇の端を舐めて、そのまま私の首筋にキスをする。

 歯の当たる硬い感触に、ゾワりと肌が震える。動物番組でよく見る、ライオンに捕食されるヌーの姿が何故か脳裏によぎった。


 「俺、ミドリさんがシたいって言うまで待ちます。でも代わりに俺がミドリさんにキスするのだけは許してください。いいですよね?」

 「ちょ、薫君?」


 薫君は有無を言わせず、シャツワンピースのボタンを外していく。両手首をまとめて薫君の左手に捕まえられている私はろくに抵抗も出来ない。


 「キスだけ、です。

 でもミドリさん、我慢できなくなったらいつでも言ってください、ね?」

 「〜〜〜っ!」


 今まで見た事も無いくらい爽やかな笑顔を浮かべる薫君を見上げて、私が感じたのは圧倒的な敗北感だった。




 それでも映画のエンドロールが流れるくらいまでは頑張った私を、誰か褒めて欲しい。




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