第4話:転生賢者は小金持ちになる
「もちろんお金は使えますよ? 王国共通硬貨ならですけど……」
「えーと、これなんだけど」
俺はパンパンの財布のチャックを開いてみる。
膨らみ虚しく、悲しいことにお札は一枚もない。小銭がジャリジャリしているだけである。
500円玉を取り出して、ミリアに見せてみた。
「見たことないお金です……。残念ですが使えないと思います」
「だよなぁ……」
宿を取るにしても、ご飯を食べるにしても、お金は必要になるだろう。
第七学院に入学すれば給料がもらえるとのことではあるが、それまでどうやって餓死せずに食べていくか……という大きな課題がある。
「でも、すごく質が良いですよね。そのお金」
「そうか? 普通の500円玉だと思うが……」
平成初期に製造されたようで、そんなに綺麗なものではないと思う。
特別汚くもないが……。
品質という面ではエラー硬貨とかでもない限り同じだと思うし。
「お金としては使えないと思いますが、その出来なら芸術品として売れるかもしれませんよ?」
「え、こんなの売れるの!? 結構いっぱいあるんだけど……」
「買取商に見せてみないと正確なところは分からないですけど、珍しいので売れると思いますよ!」
「そ、そうなのか……? 売れるなら売りたいけど……」
「商業地区に行けば買取商がたくさんいますし、今から行ってみましょう! こっちですー! 多分!」
ミリアに先導される形で500メートルほど移動し、商業地区に向かった。
商業地区は所狭しと露店が並び、必死に商人たちが客寄せする混沌の場になっていた。様々な物品を好きな価格で販売している様は、バザーというより闇市という言葉がしっくりくる。
金属製の芸術品を扱っている商人をピックアップして声をかけた。
「ちょっと買い取りしてほしいものがあるんだが、見てもらってもいいか?」
「へいらっしゃい! いつでも歓迎だぜ——? とりま、見せてみな」
「これなんだが」
俺は財布から500円玉、100円玉、50円玉、10円玉、5円玉、1円玉を一枚ずつ取り出して買取商に見せてみた。
「ほ、ほお……なかなかの上物じゃねえか。金属の光沢、重厚感、それにシンプルで美しいデザイン……」
ふむふむ、ミリアの言っていた通りそれなりの価値があるということか。
「よーし、特大サービスだ! 見せてくれた順に、金貨1枚、銀貨5枚、銀貨5枚、銀貨1枚、銀貨1枚、銅貨5枚で買い取らせてもらおう! その金のやつはなかなかの値打ちもんだと見ているぞ!」
「そうか、ありがとう」
そう言って、俺は硬貨を片付けてその場を離れようとした。
「ちょ、ちょっと待てよ。売っていかねえのか!?」
「いや、他の買取商にも見てもらおうと思ってな。せっかくサービスしてくれたのはわかるんだが、他の商人にも査定してもらってからでも遅くはないだろ?」
「いやいやいやいや、ちょ、ちょっとだけ待ってくれ! 分かった、もうちょっと考え直す! だから他には行かないでくれ!」
「はあ」
俺はもう一度硬貨を取り出して、商人に査定してもらった。
「よし……よし、だいたい分かってきたぞ。それぞれ金貨20枚、金貨15枚、金貨15枚、金貨10枚、金貨10枚、金貨8枚……こ、これが限界だ! どうだ、これで売ってくれないか!?」
「お、結構上がるのか。どうしようかな?」
いきなり500円玉の買取価格が20枚も上がるとはたまげたなぁ。
俺は財布の中に眠る小銭を眺める。
チャリンチャリンという音がする。
「な、なあ……もしかしてまだ在庫ある感じなのか?」
「うん? 結構あるぞ。500円玉ならあと10枚はあるな」
「それ、全部売ってくれるならそれぞれ単価1枚引き上げる! どうだ、即決してくれるならこれで決めたい!」
「え、そんなに上げてくれるのか!? じゃあ売るよ!」
すごく親切な買取商だなぁ。
めちゃくちゃラッキーだ。こんなにポンポン金額を上げてくれるとは!
「よし、交渉成立だ! 金は即金で渡そう。全部並べてくれるか?」
「分かった、これで全部だ」
俺はジャリジャリと硬貨を出していき、並べていき、買い取ってもらった。
500円玉13枚、100円玉10枚、50円玉7枚、10円玉15枚、5円玉6枚、1円玉9枚。
買取金額は合計で金貨857枚。
よく分からないが、結構良い感じのお値段なのではないだろうか?
財布に収まりきらないので、アイテムスロットに収納しておくことにした。
ゲームでは普通に使えていた便利機能だが、異世界でもちゃんと使えるようでここは一安心だ。
大量の荷物をアイテムスロットなしで運ばなければならないとなると大変だからなぁ。
「き、消えた……!? どこに行ったんだ! お、俺はちゃんと渡したよな!?」
「うん、ちゃんと受け取ってるよ。ほら」
アイテムスロットから金貨を1枚取り出して、見せてみる。
もしかして、この機能みんな知らないんだろうか……?
「す、すげえなそれ……初めて見たぞそんなの」
「私も気になります! お金が消えちゃったのにすぐに戻ってきました!?」
「まあ、魔法みたいなもん……かな?」