第3話:転生賢者は誘われる
捕まえた5人の盗賊たちはまとめて荷馬車の隅に積み込んである。
ミリオーラに着いたらまとめて衛兵に引き渡すことになっている。今回はたまたま未遂で終わったが、前科がありそうだし放っておくと被害が広がる一方だからな。
この辺の手続きはよく分からないので、全部行商人の爺さんに任せておくとしよう。
「ユーマっていくつなんですか?」
荷馬車に揺られていると、隣に座るミリアが尋ねてきた。
「15歳だよ。ミリアもそのくらいか?」
「私も同じです! 同じ歳なのにユーマはすごいです……」
「ちょっと仕組みが分からないけど、同じ15歳でもミリアは第七学院って学校にこれから入学するんだろ? 俺って、学校に進学するなら4月からだしさ」
言いながらちょっと疑問に思ったのだが、異世界だとすれば暦が同じだとは限らないんだよな。
更新されていたスマホのカレンダーや時計アプリを確認すると1年は12ヶ月で、365日。1日は24時間で1時間は60分——と俺がよく知る感覚と同一だが、これが正しいのかどうかまでは分からない。
「4月に入学……ですか? もしかして遠くの国とかでしょうか。……少なくとも私は知りません。入学は普通9月ですよ。それに、3年までなら浪人もできるのであまり歳は関係ないと思います」
「そうなのか? ってことは、俺も入学しようと思えばできるってことか……って、これからすぐ受験なら間に合うわけないか。っていうか第一お金ないしな……」
9月入学はなかなか馴染みが薄く気づかなかったな。
ということは、異世界基準だと俺とミリアは同じ学年ということになるのか。
「普通に当日行けば受験できますよ? お金って……学校行くのにお金がかかるってそんな怪しい学校じゃないです! ちゃんとお金もらえますよ!?」
「ええええ! そうなの!?」
「少なくとも第七学院は未来の冒険者や騎士団員を養成するための学校なので、卒業するまで王国役人の身分がつきます。なのでお給料ももらえるんです」
「な、なるほど……」
日本で言う大学校みたいなものと捉えるのが正解なのかもしれない。
「差し支えなければ……ですけど、ユーマはどうしてミリオーラに行くんですか?」
「え……いや、放浪してたらたまたまって感じかなぁ。そ、そのだな、山奥に住んでて全然常識とかわからなくてな」
咄嗟に思いついた言い訳としてはかなり上出来じゃないだろうか。
正直に話しても良いのかもしれないが、これがありふれたことなのか確かめた後でも遅くはないと思う。
「それなら、ユーマも第七学院を受験しましょう! 通っているうちにいろいろわかるはずですよ。私はどうなるかわかりませんけど、ユーマなら大丈夫だと思います!」
「なるほどなぁ、それなら受験だけでもしてみようかな?」
「それがいいです! 一緒に合格したいです……!」
その後、ミリアから軽く試験内容を聞いておいた。
特に今から対策できることもないので普通に受けるだけなのだが、まったく通用しないということもなさそうだ。
もしかして、いけちゃうのだろうか……?
突然一人で変なところに転生してきて、右も左もわからない状態。
ひとまず学校でもなんでもいいので、腰を落ち着けられる環境が欲しいものである。
「よし、止まれ」
そんなこんなで揺られていると、学園都市ミリオーラの門の前に到着した。
役人に止められたので、俺たちは降りていく。
これは手続き上必要なものらしい。
「ミリオーラに来た理由は?」
そう尋ねられたので、俺たちは一人ずつ回答する。
「商人の納品に来たのじゃ」
「ヨシ」
「私は第七学院の受験に来ました!」
「ヨシ。頑張れよ」
「俺も第七学院の受験だ」
「ヨシ。期待している」
このタイミングで行商人の爺さんが5人の盗賊たちを引き渡した。
すぐに衛兵が駆けつけ、仲良く全員回収されていった。
門を通って、都市内へ。
「おぉ……綺麗な街だな」
「ミリオーラは王国でも有数の観光名所だったりしますからね。良いところですよ!」
街の中心に第七学院らしき大きな建物が見える。
その周りに大小様々な建物が連なっており、大規模な水路が敷かれている。
水路の水は透き通って非常に綺麗だ。
「それじゃあ、ワシはここまでじゃ。二人とも元気でな。またどこかで会えることを楽しみにしている」
「ああ、ここまでありがとう」
「ありがとうございました!」
ほんのひと時ではあったが、貴重な出会いだった。
別れを惜しみつつ、ミリアと二人で商人の爺さんの姿が見えなくなるところまで見届けた。
それから、なんの気なしにポケットに手を突っ込む。
「あれ、そういやお金って使えるんだっけ……?」