第2話:転生賢者は助ける
荷馬車の外で何か言い争っているみたいだった。
気の弱そうな老人と金髪碧眼の女の子が、みすぼらしい格好の男たちに囲まれている。男たちの数は5人。
少女は、俺と同じぐらいの歳——15、6歳くらいか。
サラッとした綺麗なロングヘアー、引き締まった健康的な身体。歳に相応しくない大きな胸。
ただごとではなさそうな雰囲気が伝わってきた。
「——やめてください!」
「やめて欲しけりゃ荷物を置いていけ!」
「そ、それは困るんじゃ……ワシは一文無しになってしまう……なんとか見逃してくれんか」
「そりゃ無理な相談だ。俺たちはこう見えてプロだからな、絶対に情に屈さねえ。盗賊の矜恃ってやつだな!」
「ぐぬぬ……どうしても無理か……」
「ひ、卑怯ですよ! なんでこんなことするんですか!」
「うるせえこのクソガキ! てめえは後で可愛がってやるから覚えとけ! 泣いたって許さねえからな……ぐへへ」
気色悪い笑みを浮かべる盗賊の男たち。
あの少女をどうするつもりなのかさっぱり分からないが、とにかくこのまま放っておくと不愉快な結末になるということだけは分かった。
なお、言葉は日本語ではないみたいだが、不思議としっかり聞き取れるし、意味も正確にわかる。
話そうと思えば母国語と同じ感覚で話せそうだ。
「おい、何やってるんだ? 見るからに困ってそうじゃないか」
「ンだてめえ!?」
「いや通りすがりの……」
「しゃしゃりでてくんじゃねえ! 装備全部剥がしてやる!」
そう怒鳴って、盗賊の男たちが俺を囲んできた。
そして、一斉に拳が飛んでくる。
しかし——
「え、なにそれ?」
まるで、止まっているかのようだった。
極めた努力値のおかげで飛躍的に動体視力が上がっており、当たる方が難しいくらいである。
俺はやれやれとため息を吐きながら自慢の脚力で地を蹴り——
「な、消えただと!?」
「いや、分身してるぞ!」
「なんだと!?」
盗賊たちが捉えきれないほどの速度で移動。
荷馬車のロープを拝借して、盗賊たちを縛り上げた。
「く、くそ……なんでだ!?」
「こんなはずじゃ……ぐふっ」
「ふがふがふが……」
うるさいので、盗賊たちにはロープを噛ませておく。
「勝手にロープ借りて悪かったな。手頃なものがなかったもんで」
「い、いやそんなの全然いいんじゃが……おぬしは一体……?」
「あー、いや。通りすがりの……ただの人間?」
「なんじゃそりゃ……?」
行商人らしき爺さんが疑問符を浮かべている中、隣の少女はキラキラした瞳で俺を見つめていた。
「あ、あの……強いんですね!」
「ん、まあ……そうなるかな?」
「あの、私……ミリアって言います! ミリア・ヘンゼルです。もしかしてあなたも第七学院を受験しに来たんですか!? お名前伺ってもいいですか?」
「いや、えーとだな……。とりあえず、名前は山本佑磨。その第七学院っていうのは知らん」
「ヤマモトユウマ?」
日本人の名前は発音しにくいのか、かなりカタコトである。馴染みのない発音だろうし仕方ない。
「呼びにくいならユーマでいいよ。昔からあだ名はこれ」
「わかりました! ユーマって呼びますね!」
ミリアは見た目が美しいだけでなく、すごく素直で愛嬌があった。
歳が近いだろうということもあって、ちょっとドキドキしてしまう。不釣り合いだと思うけどさ……はは。
「ユーマ殿。歩いて都市へ?」
俺が心の中で苦笑いしていると、爺さんが尋ねてきた。
「ああ、そうなんだ」
「それなら乗っていっておくれ。謝礼の話もしておきたいしの」
「いやいや、あの程度のことで謝礼なんていらないよ! 気にしなくていいから!」
「そんなわけにはいかぬのじゃが……」
「俺のプライドが許さないって!」
魔法すら使わずなんとかなってしまう雑魚相手をどうにかしただけで金を巻き上げてたら、掲示板でボコボコにされちゃうぞ……ゲームなら。
「むう……なら仕方ないの」
「乗せてくれるだけで十分だって。それで十分ありがたいしね」
そんなこんなで、俺は爺さんの荷馬車に乗せてもらうことになった。