第9話:転生賢者は合否を受け入れる
◇
あっという間に翌日——合格発表日になった。
基本的に魔法試験と剣技試験の結果で点数をつけられ、面接の結果は参考材料程度となるらしい。
そういう意味で俺は見込みが薄いのだが、念のため確認しておくことにした。
第七学院の校庭に設置されや大きな掲示板に合格者の名前が貼り出されるのだという。
「かなり緊張してきました……。試験を受ける前より怖いです」
隣に立つミリアをチラッと見ると、少し震えているようだった。華奢な身体を小刻みに揺らしている。
「大丈夫、別に試験に落ちても死ぬわけじゃないさ」
「そ、それもそうですね……。じゃあ、100位から順番に見ていきますね」
「俺もそうするよ」
第七学院の今年の合格者は総数で100人。
大勢の少年少女が本気で受験する中、たったこれだけの数しか入学が許されないである。
小説や漫画で見るより異世界は甘くないな——そう思った。
……100位。俺の名前はない。
……50位。俺の名前はない。
……25位。俺の名前はない。
……10位。俺の名前はない。
一つ一つ上を見るごとに気分がめげていく。
ミリアへの励ましの言葉が、自分自身に跳ね返ってくるのを感じた。
そうして、ついに2位まで見終えてしまう——
「あっ」
「ユ、ユーマ……私、やりました! 合格しました! それも2位です、2位! 合格できただけでも嬉しいのに学年次席で合格なんてめちゃくちゃ嬉しいです!」
無邪気にはしゃぐミリア。
ミリアが合格したのは俺も心から嬉しいのだが、同時に自分が惨めに思えてくる。
「おめでとう。でも、俺は……」
「しかもユーマ1位……主席じゃないですか! 私は絶対そうだと思ってましたけど、さすがユーマです!」
「え……?」
ミリアから飛び出した信じられないセリフを確かめるように、俺は掲示板の1位を確認した。
1位……ヤマモトユーマ
そこには、確かに俺の名前があった。
「え、まさか……本当に!? 俺が合格……しかも主席だって!?」
あまりの衝撃に現実が受け止めきれず、混乱を顕にしてしまう。
「正真正銘の一位ですよ! ユーマ凄すぎますー! これで一緒に学院に通えるようになりますね!」
「あ、ああ……本当に、本当に良かった……」
最悪、硬貨を売ったお金で食い繋ぎながら、今後の異世界生活をどうして行こうか思いを巡らせているところだった。
主席合格はラッキーだったが、そんなことはともかくとにかく合格できたことが嬉しい。
ここで異世界の常識とやらを学びつつ、じっくり人生プランを練っていく余裕ができたのだ。
その後、俺とミリアは一緒に合格者に配られる入学資料を受け取りに行った。
入学資料は全員同じものが配布された——が、俺に配られた資料だけは一枚余分な紙が入っていた。
「これは……?」
同封された資料には、主席合格者だけに与えられる特権が記されていた——
◇
「ユーマ、この部屋すごいです! めちゃくちゃ広いですっ!」
「本当にこれはすごいな……。普通に街で借りたら一泊で金貨2枚くらい取られそうだ」
入学資料に同封されていた、主席合格者に与えられる特権とはこれのことだった。
第七学院の入学者は無料の寮に住むことができるのだが、主席合格者だけは特別な部屋を用意されているとのことだった。
このだだっ広い部屋に一人で住むこともできるし、誰でも自由に指名してルームメイトになることもできる。
俺は、同居人にミリアを指定したのだった。
第七学院の入学試験前日にミリアと交わしたあの言葉が忘れられなかったのだ。
二人で一夜を共にしたあの日、確かにミリアは言っていた。
『ずっとこんな時間が続いてくれればいいのに』と——
俺もあの時まったく同じ気持ちだった。
思ったよりも早かったが、あの願いが叶ったのだ。
「ふかふかのベッドも気持ちいいですー! あっ、ところで挨拶ってどんなことを話すつもりなんですか?」
「ああ、それなんだが……どうすればいいんだろうなあれ。まだ何も考えてないよ。急に決まったしな」
実は、主席合格者には一つ義務も課せられていた。
それは、明日の入学式で新入生代表の挨拶をすること。
毎年、主席合格者が入学式で挨拶することが恒例となっているらしく、今年も例外ではなく俺に話が回ってきたということなのである。
名誉なことらしいが、俺としては不用意に目立つようなことはしたくなかったんだけどなぁ。
とはいえ、こんな特別待遇を受けている手前、断るのも忍びない。
結局『やります——」と答えてしまったわけだが、そのせいで頭を悩ませることになってしまったわけだ。
「思ったことをそのまま言えばいいんですよ! 何を言うのも自由なので!」
「気楽に言うなぁ」
「ユーマ頑張ってください!」
やれやれ。
思ったことをそのまま——ね。
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こちらもめちゃくちゃ面白いのでご覧いただけると幸いです。
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