プロローグ:廃ゲーマーは転生する
「やったぜええええええええっ!」
世界ナンバーワンのユーザー数を誇るVRMMORPG——テイルズ・オブ・アストラル。
プレイヤーは剣と魔法の世界で、各々のキャラクターを用いて戦うのである。
その世界大会出場を賭けた国内大会をただいま優勝したのが俺——山本佑磨である。
俺が使っているのは『賢者』のジョブを持つキャラクター。ちなみに『賢者』は一番の人気ジョブである。
剣と魔法が両方使えて、尚且つそのどちらもがチート級の性能を持つからだ。人気にならないはずがない。
しかし大会では、ジョブごとに順位がつくので、『賢者』を使ったから有利になるというわけではない。
最も人気のあるジョブだからこそ競争が激しい。
『賢者』使いは暴走気味なチートキャラクターを余すことなく使いこなす技量とセンスを要求されるのだ。
その中で優勝——つまり、最強のキャラクターを使うプレイヤーの中で最強ということだ。日本大会優勝は大いになる自信になった。
中学を卒業してから高校には進学せず、そのままプロゲーマーになった——
毎日何時間もゲームと向き合い続け、ひたすら研鑽を重ね、やっと実を結んだことに正直なところ安堵を浮かべた。
ゲームをログアウトし、VRヘッドセットを取り外す。
痒くなった頭を掻き毟りながら部屋の明かりをつけ、台所へ。
「さて、勝利の祝いに一杯やるか!」
もちろん未成年なので、コーラで。
「って、あれ? コーラないじゃん……」
冷蔵庫を開けると、キンキンに冷やしていたはずのコーラが跡形もなく消え去っていた。
たまに家族の誰かが勝手に飲んでるんだよな……。
名前を書いてないのが悪い! って言われたから今回はちゃんとマジックで『ユーマ』って書いたのに。
実家住まいの宿命である。
「ま、しゃあない。買いに行くか」
幸いコンビニはそう遠くない。
俺はポケットに財布とスマホを入れて、家を後にした。
財布は小銭でパンパンに膨れ上がっている。いつも小銭を出すの面倒臭がってお釣りを貰ってしまう悪い癖があるのだ。
たまにATMに行って入金しておくのだが、ここ最近はコンビニと実家の往復しかしていなかったせいでこの有様である。
コンビニに寄った帰りに銀行に寄るとしよう。
あと優勝したら取材が鬼のように舞い込んでくるだろうから、髪も切っておかないとダメかもな!
取材受けるのはアバター姿だけど!
この時、俺は完全に舞い上がっていた。文字通り、周りがまったく見えていなかった。
こんな時は少し落ち着いて、自室でゆっくりしておくのが正解だったのだ。
しかし、後悔してももう遅い——
「アザマシター」
コンビニでコーラのついでにポテチを購入し、悠々と店を出た。
運動しない俺にとってこの組み合わせは最悪なのだが、悪魔的魅力には抗えない。
今日くらいはいいだろう。チートデーだ。
予定通り銀行に向かって歩みを進めていく。
その瞬間だった——
キキキキィィィィ————!!
十字路を左に曲がった瞬間、死角からトラックが猛スピードでこちらに向かっていたのだった。
いやいや、こんな狭い道なら普通徐行するだろ。いったいなにを考えて——
「って、寝てやがる! 居眠り運転か!?」
しかし、気づいた時にはもう遅かった。
風景がゆっくりと流れていく——
生まれてから死ぬまでの人生が映像として鮮明に蘇っていく……。
ああ、これが走馬灯か。
ってことは、俺……死ぬのか。
せっかく血が滲むような努力を繰り返して、夢だった日本大会優勝を果たして、世界大会への挑戦権を手に入れたのに。
まだまだこれからだってのに……。
いや、ゲームだけじゃない。
まだまだ、やり残したことがあるってのに……!!
——そんな俺の思いが通じたのか、はたまた偶然か。
意識が吹っ飛び、目が覚めると、そこは壮大な異世界だった——