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4/5

冷たい人型

このゲームような魂の転移を

もう既に何周もしている

無機物専門の勇者。


彼にもやっと進化して

パワーアップを果たす

その時がやって来た。


自分の姿が見られない為

何になっているのかは分からないが、

今度は手足が着いており、

体を自由に動かすことが出来る。


『ついに、ついに、

俺も人型になれたのか』


今まではずっと

自分から動くことが出来ない

物質ばかりであったことを考えると

これはもう格段の進歩、

進化と言ってよかった。


喜び勇んで動き回り

そのまま街まで

足を運んだ勇者だったが、

人々の見る目がかなりおかしい、

いや目を逸らして

目が合わないようにしている

というかなんと言うか。


「ママ、変な人がいるっ!」


「しっ!見ちゃいけませんっ!」


指指す子供を叱りつけ

まるで人さらいのように

抱えて走って逃げて行く母親。



そこまで行くと

さすがに勇者も

嫌な予感しかしなかったが、

広場の噴水を覗き込み

水面に映る自分の姿を見る。


それは人型の中でも

考え得る限り

もっとも最悪な奴。


上品に言うならばラブドール、

ストレートに言えばダッチワイフ。


しかもビニール製の、

アダルトコーナーで

数千円ぐらいで売っていそうな

口で空気入れて膨らます

一番見た目チープな奴。


『え?

ちょっと待て、

そもそもなんで

こんなもんが異世界にある?


誰か転移者が

持ち込んだりしたのか?


おい、まさかこれ、

中古品じゃねーだろうなっ!』



しかしながらそのドール、

その見た目に反して

鬼のように強かった。


回転しながら両手に持つ剣で

魔物達を次々と切り裂き、

真正面から魔王の城に

乗り込んで行く。


『こんなのに殺されるとか

こいつらも浮かばれねーな』


目の前にいる魔王は

怪訝そうな顔をしている。


「なんだ貴様、

そのへんちくりんな姿は?

ふざけているのか?」


「ですよねー」


本人もそう思っているので、

もう素直にそう返すしかない。


そのふざけたような奴に

魔王もまた瞬殺された。


『あぁ、よかったあ、

これで毎日

セクハラされてるみたいな

地獄の日々から解放される』


-


その後も、

無機物専門の勇者は

案山子かかし、マネキン、自動人形オートマタ

自律式高性能ロボットと

様々な人型に姿形を変えて行くが、

人間そのものになることはなかった、

というか生物すらここまでない。


しかし、やはり自由に動ける

人型というのは楽しくて、

自動人形オートマタやロボットの時には

魔王を倒すこともそっちのけで

何百年も無機質な人形の

生き方を楽しんだりもした。


そうなるともうまるで

自分が転移や転生を

何度も何度も繰り返して、

何百年も何千年も

生き続けていける、

永遠の命を持っている

そんな気がして来る。


そこで彼は思い出す。


自分は車に轢かれて死ぬ寸前、

『死ぬのは嫌だ、永遠に生きたい』

と思ったことを。



そう考えると彼には

妙に納得出来る部分がある。


異世界での人間の平均寿命は

大体四十代ぐらいのものだ。


現在の日本の平均寿命と比べると

半分ぐらいしかないが、

日本もつい百年前までは

それぐらいの平均寿命しかなく、

ここ百年ぐらいで急激に

平均寿命が伸びたに過ぎない。


人間以外なら異世界には

エルフだ魔物だと

やたら長寿な生命体がいるが、

そうした種族は

元来個体数が少ない。


有り体に言えば、

異世界で一番平均寿命が

短いのが人間なのだ。


それは物の寿命よりも短い。


そう考えると

長く生きたいだけであれば、

人間は真っ先に

除外されて然るべき。


まぁ、だからと言って

ダッチワイフはどうなんだ、

と思わざるを得ないが。




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