これが……幽霊?
あなたならどうしますか?
もしも、あなたの家に、女の子の幽霊が現れたとしたら。
驚きますか? その家を出ていきますか?
「ハァーイ!」
四畳一間のアパートに住む青年、羽矢が自分の部屋の扉を開けると女の子が眩しいほどの笑顔で出迎えた。
この部屋には羽矢しか住んでおらず、女の子がいるなんてことはありえない。しかも、足がない女の子がいるはずもなかった。
しかし、羽矢は女の子がいることにも、女の子に足がないのも気にすることはなかった。
「これ、洗濯しといて」
上着を脱ぎ、足のない女の子に手渡す。女の子が見えていないわけではないようだ。
「はーい……って、なんでやねん!!」
一度は受け取った上着を、床に叩きつけた女の子は、見事なノリツッコミを披露してくれた。
「ああ!! 人の上着を叩きつけるなよ!」
「その前に、うちの存在は無視か?!」
上着の心配をしている羽矢に、女の子は怒りをみせている。
女の子の怒りようを見て驚いたのか、羽矢はじっと女の子を見つめる。頭の先からつま先まで……。
「ああ!!」
眼を大きく見開き、冷汗を流す羽矢。
女の子はそのリアクションを見て満足そうに笑う。幽霊としては人に驚いてもらえるのが嬉しいようだ。
駄菓子菓子
「なんでオレの部屋に女の子が?!」
羽矢のずれた驚きのポイントに、女の子は空中でずっこけるような形になった。
「えぇぇ?! そこ?! そこか?!」
「他にどこがあるんだよ。幽霊じゃあるまいし」
「いや、幽霊! ほら、足! ないやん?!」
途中で消えている足を指差しながら女の子が叫ぶ。羽矢は消えている足を見て一言、
「そんな奴もいるだろ」
「おらんし! 絶対おらん!!」
羽矢のとんでもない一言に、手をぶんぶん振りながらツッコミを入れる女の子だった。
「えー……。てことは……。ウぉぉォぉイィぃィ?! ゆっ……ユーれーさんデすカ?!」
女の子が幽霊とわかり叫ぶ羽矢。その声は驚きのあまり片仮名と平仮名が混ざった奇妙な言葉となっていた。
「そや! うちは幽霊さん! そうそう、その反応が正しいんやで」
何故か偉そうにする女の子だが、羽矢は以外に早く立ち直った。
「へー。じゃあ、洗濯ヨロシク」
再び上着を女の子にパス。
「はいはい……っ、なんでやー!!」
次は天井へ向かって上着を放り投げた。
「ええか?! よぉ聞け! うちは姓は斉藤、名は雅! りっぱな幽霊や!」
透けている手を、羽矢の肩に置いて言う雅だが、羽矢の何の反応も見せなかった。
「へー」
へぇボタンを押す仕草を見せながら言う羽矢に雅はチョップをくらわした。
「反応薄いわ!! しかも一へぇかい!」
幽霊であるにもかかわらず、羽矢にダメージを与えたそのチョップは、キレ、形、スピード、どれをとっても最高級であった。
床と仲良しになった羽矢は雅の仲間入りを果たしそうになったが、どうにか一命をとりとめた。
「何が不満なんだ?! 幽霊なんて今時こんなものだろ?!」
「んなわけあるかい! あんた、頭のネジどっかに落としたんちゃうんか?!」
「何?! 雅は頭にネジがあるのか?!」
「アホか! 言葉のあやじゃ!」
本気で驚く羽矢に、今度はアッパーをくらわせた雅は、しっかりツッコミの役目も果たした。
「オレに世界の常識は通用しない!」
「偉そうに言うな!!」
こうして、幽霊の雅と、大ボケ羽矢は出会ったのであった。
END