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あなたを殺す為に恋をする  作者: drink
一章 昇格試験
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1-7 セカンドコンタクト

次回は土日の修正期間を挟んで、月曜日の午前8時に投稿する予定です。よろしくお願いしますm(_ _)m


 話し合いが終わる頃には、日の目はすでに真南まで昇っていた。校舎の窓から照りつける日差しは、一筋の影を生み出す。明るくなればなるほど、俺と一体化しているこの影はより一層存在感が増す。


 俺はシンの横をゆっくり歩きながら、何となくそんな光景を眺めていた。やはり影を見ると心が穏やかになる。暗闇が今置かれている息苦しさを解放させてくれるのだ。


 そんなことを考えてはみるものの、ググゥという音が鳴ってすぐに我に返る。お腹をさすってみれば、また鈍い音を響かせる。生理現象には勝てないらしい。隣からも似た音が鳴っているのを聞くと、二人で口では言わないものの、自然と笑みがこぼれた。


 俺たちは会議室から、隣の教室棟にある食堂へと向かっているところである。シンは我慢出来ないようで、徐々に歩くペースが速くなる。



「腹減った。ルウシェ、早く食堂行こうぜ!」


「うん、そうだね」



 シンの声に応じて、俺も歩みを進める。


 会議室のある管理棟から教室棟を繋ぐ道を渡っていく。ここは昨日の夜に行った噴水があり、この時間帯は人で賑わっていた。そうなると必然に俺の白髪が目につくのか、はたまた別の理由か、そこにいる学生が皆、俺に標準を合わせるなり薄ら笑いを浮かべる。


 目の前で悪びれもなくやる辺り、アカデミーの実情が垣間見える。怒りを通り越して呆れてしまった。


 そんな時であった。嘲笑は静まり返り、賑わいの色が変わる。居心地の悪い空気が換気されたのだ。皆が一点を見つめる。否、男女問わず見惚れている。


 俺とシンは足を止め、その目線を追った。


 その先には取り巻きに囲まれたシャルロッテがいた。周りから憧憬の眼差しを一心に受けているにも関わらず、それらを物ともしない。取り巻きの可憐な女学生らと会話に花を咲かせ、彼女ら周辺だけでひとつの世界を構築していた。



「お前は初めて見る光景かもな。Aクラスの神童、シャルロッテとその威光を笠に着る狐どものお出ましだ」



 随分な物言いである。Eクラスの劣等感という風には見えないが、あまり良い気分ではないらしい。



「凄い注目集まってる……中心にいる彼女ってかなり有名なんだね」


「当たり前だろ。なんて言ったって世界初の全属性魔法使いだ。注目するなって言う方が無理な話さ」


「全属性……それは凄いな」



 まぁ、知ってるけどね……と心の中で一言付け足す。


 シンの説明があった後、再び改めて彼女を見る。


 昨日の晩とはどことなくシャルロッテの雰囲気が違う。取り巻きとの会話に笑顔を浮かべているものの、ぎこちないものであった。もしも、昨日彼女にあっていなかったら、気が付かないほどの僅かな誤差。しかし、あの笑顔の印象が強かったからこそ、今の彼女とのズレに違和感を覚えた。


 そんな思考に耽っていると、隣にいたシンは俺を肘で小突く。なにか面白いものでも見るかのように、ニタニタと笑っていた。



「なんだ? お前も彼女に一目惚れでもしたか? 意外とミーハーなんだな」


「ち、違うってば……ただちょっとね」



 そうこう話しているうちに、シャルロッテと女学生らは俺らの横を通り過ぎる。俺と目が合うなり女学生は鼻を鳴らして嘲るような仕草を浮かべる。


 あぁ、こいつらもか。確かにシンの『狐』という言い草もあながち間違ってないのかもしれない。


 一方のシャルロッテはこれといった反応を示さない。目が合っても、知らない振りを貫いていた。ただ、せめてもの気遣いなのか、取り巻きたちの視線を外させるように会話を再開させている。



「おい、早く行こうぜ!」



 シンはそっぽを向き、頭を雑に搔き上げて言う。先程と打って変わって不機嫌さを露呈させる。


 かく言う俺も、早くここから逃れたい気持ちもある。俺はシャルロッテを横目に見ながら、シンの背中を追った。


 あぁ、昼飯何にしよう。


 忘れかけていた空腹が蘇り、昼飯に想いを馳せながらその場を立ち去った。




 お昼の後、シンと基礎練習をしようと話をしていた時だった。俺のポケットに一通のメモが入っていたことに気がついた。シンに気付かれないようにそっと覗くと、そこには『今夜昨日の場所に来て』とまるびを帯びた小さな文字で書かれていた。メモの内容的にシャルロッテのもので間違いないが、早々2度目の本格的な接触だ。慎重にならずにはいられない。



 日は沈み、皆が寝静まった頃、俺はいつもの様にフレイアと連絡と取り合った。今日の出来事を一通り話しながら、今後の対応を伺っていたのだが──



「やったじゃない。早くも告白パートね!」


「いや、違うからな!?」



──この有様である。


 あまりの物言いに思わず叫んでしまった。まだ若干残っている怪我の痛みに悲鳴をあげたくなる。しかし、フレイアにからかわれるのは目に見えているので、奥歯を噛み締めてグッと押さえ込んだ。




「で? どうすればいいんだ?」


「ちょっと待って……ええっと……確かここに」



 ガサゴソと何やら探しているようだ。少しの間待っているとフレイアの声が再び聞こえてきた。



「あった、あった……うん、会うのが先決らしいわ」


「らしい?」


「ロキの脚本にそう書いてあるのよ」


「あぁ、そういうこと」



 毎回、ロキは暗殺対象に対して脚本を作る。それがロキの趣味なのか嗜好なのかどうかは分からないが、そこにこだわっているのは確かであった。もっとも、ただ己の欲望に酔いしれる為人ではないので、そうとは言い難い。


 この脚本の注目すべきはその精度である。まるで未来予知でもしたかのように、一語一句も違うことなく、暗殺までの経緯が書かれている。俺らから見てしまえば暗殺指南書のようなものである。死に半分足が浸かっているこの裏世界で、手際よく仕事ができるのも脚本の成果が大きい。


 まぁ、そもそも、誰かが犠牲になるときは、それは脚本にも書かれるのであって、予知同然のことを成し遂げるロキが脚本を書く限り、そんなことはありえないのであるが……



「っと、もうこんな時間か。私は別の用事があるから今日はここまでね。上手くやりなさいよ」


「うっせ、わかったよ。じゃあな」



 二人で軽口を叩き合って、俺はさっさと外へ出る準備をした。






 まもなく俺はランタンを片手にアカデミーを散策する。散策とはいうものの、すでに行く場所は決まっていた。アカデミー中央にある噴水だ。


 やはり、今日もいるみたいだ。


 昨日よりも生き生きとした声で歌う少女に今回は俺から話かけた。



「こんばんは、シャルロッテ」


「〜♪ あ、ルウシェ君! こんばんは」



 シャルロッテは俺の顔を確認すると、嬉しそうな声をあげて、こちらに駆け寄る。


 まだ会って一日二日のことであるが、何故か彼女は俺に壁を作らない。こちらとしては都合がいいが、どこか不可解である。『草食系ながらも、人懐っこい青年』の顔でシャルロッテと向かい合いながら、密かに彼女の様子を窺う。変に勘ぐるのも良くないが、注意はしておいたほうが良いだろう。


 丸テーブルの中央にランタンを置き、それを取り囲むようにして俺達は椅子に腰を下ろした。



「僕のポケットに入っていた手紙ってシャルロッテが書いたやつ?」


「うん、そうだよ。魔法でこっそり忍ばせといたの。急に呼び出しちゃってごめんね。ルウシェには昼間のことを説明しといたほうがいいと思ってね」



 そう言って、シャルロッテはため息をついて肩を落とす。彼女の首から垂れ下がる髪は少しばかり乱れている。笑顔ではあるものの、空笑いに近いようでどこか疲れが見て取れた。昼の様子からして、彼女なりに思うところがあるようだ。

 


「あの時はごめんね」


「うん、いいよ。挨拶しようとしたら、周りの人達に蔑むような目で見られて、当の本人からは華麗なスルーをされたなんて気にしてないから。これっぽっちも気にしてないから。あぁ、僕は気にしてないとも。人生で三本の指に入るぐらいしか気にしてないから」


「なんか凄い気にしてる!?」


「まぁ、そんな冗談は置いといて」


「冗談のはずなのに目が笑ってない……」



 それでも本当に冗談だと分かっているのか、シャルロッテは嬉しそうだ。左右の指を軽く絡ませて、そっと丸テーブルに肘を乗せる。昼間の彼女ではこんな姿勢には絶対にならないだろうが、今は全く気にしていない。



「クラスではいつもあんな感じなの?」


「うん、みんな良い人なんだけどね……やっぱり身分とか、立場とか、どこか気にしちゃう見たい」


「身分……? シャルロッテってどこかの貴族だったの?」


「ううん、普通の平民だよ。でも、Aクラスの人はほとんど貴族だからね。一線引かれているというか、なんというか……」




 Aクラスの実情を言いにくそうに言葉を濁した。

 確かに、このフリーデン王国一と名高いアカデミーのトップクラスともなれば、実力主義とも言えど、英才教育を受けている貴族が多くなるのは必然である。その中に平民がいれば間が悪くなってしまうのも想像に難くない。しかも、ちょっとした秀才や一芸に富んだ天才ならともかく、シャルロッテは生涯現れるかどうかすら分からない稀代の天才だ。他とは訳が違う。穏やかに過ごそうとしても、出る杭を打ちたがる人はどうしても出てきてしまう。


 彼女もこのアカデミーで相当苦労してるようだ。


 俺は「なるほどね。それは居心地が悪そうだ」と同情したような言葉をかける。彼女の表情は少しばかり柔らかくなった。だが、まだ侘しさも残っているように見える。



「そう言えば、ルウシェ君の方は最近どうなの?」



 場の空気が悪くなったと思ったのか、シャルロッテはすぐに次の話に移った。彼女は前回初めてあった時の俺の発言や、決闘の時の風の噂でAクラスを目指していることを知っているはずだ。その事を聞いているのだろう。



 だけど、その話はその話で俺が辛い、と思いながらどこまで話そうかと思考を巡らせた。思わず俺の喉がうなりをあげる。



「なんとか次の試験でなんとかAクラスに行きたいけど、状況はあまり良くないかなぁ」


「そうなの?」


「うん。ほら、例のログが流れてから僕たちいろいろと注目されちゃって、実践的な練習が出来ないんだ。今日はちょっとした会議と基礎練で終わりだったよ」



 俺は詳細は伏せつつ、概要だけを伝えた。


 シャルロッテは顎に手を添え、真剣な表情で考える仕草をとっている。その姿はさながら様式美である。


 今、彼女がなにを思っているのか、俺には想像がつかなかった。


 やがて、彼女は目を細める。



「ねぇ、ルウシェ君」


「なに?」


「私もルウシェ君の練習に混ざっていい?」



 こうも都合よく鴨が葱を背負ってやってくる。思わず笑いたくなってしまうが、ここまでの努力を無駄にしないためにも、どうにか堪えた。


 俺はシャルロッテに向かって驚いたような表情を浮かべて見せた。



いかがだったでしょうか。



感想、評価等は随時募集しております。作者のモチベに繋がります。


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