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あなたを殺す為に恋をする  作者: drink
一章 昇格試験
6/16

1-6 ルウシェとしての欠点

次回は明日の午前8時に投稿予定です。よろしくお願いしますm(_ _)m



「正確には決闘の時と魔力の質がちょっと違うのかな」


「え……?」



 思わず、そう呟いてしまった。


 ありえない。これで二人目(・・・)だ。


 いくら神童といえども、こんな短時間で分かるわけがない。だが、現実はどうだ。ファーストコンタクトでぐうの音も出ないほどに当てられている。


 いつもなら、ここを切り抜ける上手い返しが見つかるのだが、その思考すら止まっている。自分でも分かるほどに動揺してしまっている。言葉を返すことすらも思考が拒絶してしまっているのだ。言葉を失うとはまさにこのことか。


 心なしか俺の呼吸も徐々に荒くなっていく。



「大丈夫、誰にも言ったりしないから。君にもそれなりの事情があるんでしょ?」



 優しく微笑む彼女は言う。その笑顔が俺に背筋が凍りつくほどの恐怖を与えた。同時に、俺がまるで慈悲を与えられた罪人になったようで酷く惨めだった。



「君は一体……」


「あ、自己紹介がまだだったね。私はシャルロッテ。良かったら君の名前も教えてほしいな」


「……僕の名前はルウシェ」


「うん、ルウシェ君か、同じ学年見たいだし、また会えるといいね……もう時間も遅くなって来たし、私は寮に戻るから。またね!」



 彼女はそう言うと、笑顔で手を振りながら俺の横を通り過ぎる。

 その時、俺はふと彼女の瞳を見た。光に照らされているので、ハッキリと表情が見て取れる。やはり僅かに揺らいでいる。潤んでいて、目尻も赤くなっていた。



「ち、ちょっと待って!」


「うん? どうしたの?」



 彼女は驚いたように俺を見た。



「すぐにAクラス(そっち)に行くから!」



 彼女は目を見開いた。瞳が先程よりも潤んでいく。しかし何か思うところがあったのか、少し表情が柔らかくなった気がした。



「分かった───待ってるよ」



 彼女は嬉しそうに呟いて、立ち去った。

 誰もいなくなって、俺ははっとする。なぜ、彼女を引き止めたのか、こんなことを言ってしまったのか。分からない。だが、彼女を見て、思わずそうしてしまった。何かが俺をそうさせ、気がついた頃には自然と口から出てしまっていた。


 まさか、彼女を見て情でも移ったのだろうか。この俺が?ありえない。あるはずがない。あってはならない。俺は暗殺者だ。あいつとは違う。殺してなんぼの世界で生きてきた。確かに彼女を見て肩透かしをしたかもしれないが、ターゲットに情が湧くなど今までになかった。


 そこまで考えて、俺はため息をついた。

 また悪い癖が出てしまった。こんな意味の無い非生産的なことを考えても無駄だ。さっきもフレイアに言われたばかりなのに……あぁ、胸くそ悪い。

 仕事も終わったことだし、早く帰って床に就こう。


 俺は頭を掻きむしりながら、寮へと向かった。



 次の日、早朝から俺はシンと一緒に会議室へと向かった。


 会議室とは言ってもそんな大それた場所ではない。二人入るスペースがギリギリある小さなブースが借りられるだけだ。

 だが、こんなに狭くても他人に見聞きされないだけ良い。


 言ってしまえば、こんな狭くて窮屈な場所をかりなくては行けないほどに、状況は切羽詰まっていた。



「じゃあ、まずは昨日の反省会からだな」


「うぐっ……」


「あからさまに嫌な顔すんな」



 シンはそう言って、ブースにはめ込まれている魔法石に魔力を流す。すると決闘の時のように、小さな火花を散らして半透明なガラス───ホログラムと言うらしい───が出現した。シンはそれを手際よく操作する。すると、俺とテオドゥロの決闘の映像が映し出された。


 ちなみにホログラムにある記録によると、再生回数は既に二千を超えている。単純計算で校内生徒一人につき五回は見ていることになるのだ。

 どうやら、俺の黒歴史を知らないものはいないと考えたほうが懸命らしい。道理で今日は行く道通る道で笑い声が聞こえるわけだ。おかげで事態は絶望的となっている。


 僅か二十数秒の映像を目の前でエンドレスリピートされるという公開処刑を味わされながら、シンは分析を始める。



「正直、開始直後の動きは完璧にルウシェのほうが上だった。問題はここからだな」


「うん……」


「ここだ。この場面、なんでお前は攻撃しなかったんだ?」



 シンは開始十五、六秒のところで映像を止めた。俺がテオドゥロの懐に深く入り込んでいる場面である。テオドゥロは反撃を試みるものの、重心を崩している状態だ。


 千載一遇のチャンスにも関わらず、ホログラムの向こう側の俺は、ペン型の杖を向けるだけでなにもアクションを起こしていない。いや、そう見えてしまうのである。


 恐らくシンは事の真相にまではたどり着いていないものの、この微妙な不自然さが目を見張ったらしい。



「あぁ、それね……攻撃しないんじゃなくて、出来なかったんだよ。実は僕、魔法が十分に使えないんだ」


「どういうことだ?」


「要するに属性魔法がほぼ使えないってこと」


「そうか、属性魔法が───ってえぇぇ!?」



 ホログラムに目を戻そうとしていたシンは、絵に書いたような二度見をしてみせた。驚きが浮き沈みしてなんとも言えない表情になっている。


 だが、残念ながら嘘ではない。


 ここまで来てしまったらもはや隠し通せるものでもないし、元々いずれかはバレると思っていた。実際、その事についてはフレイアと事前に話もしていたことだ。


 もっとも、大きな嘘を隠すためのカモフラージュとして使う、という妙案を早々に使うとは思っていなかったが。



「じゃあ、あの時攻撃しなかったのって……」


「うん、最初の一撃で無属性魔法の魔法弾が効かない事も分かったしね。単純に攻撃の術がなかった」


「おいおい、よくそれでAクラスに行くって言い切ったもんだな」


「あははは……でも次の試験でAクラスに行くって言うことは変わらないよ」


「当たり前だ。そうじゃなきゃ、今更こんなことしてねーよ」



 シンはにやりと笑みを浮かべる。昨日よりもはるかに目がギラギラしていた。シンもやる気に満ち溢れている。もう後戻りはできない。

 昇進試験は六月半ばにある。残り一ヶ月で何とかしなければならない。多くの制限や、フレイアたちのサポートがない分やはり難しくなる。

 しかし、やるしかない。



「さて、問題はこれからどうするか……」


「とりあえずはルウシェの特訓だろ。無属性魔法でも対等に戦える方法を考えなきゃ」


「うぐっ……そ、そう言うシンは大丈夫なの?」


「少なくとも今のお前よりはましだ。安心しろ、俺も自分でちゃんとやってるから」



 なんとも自信たっぷりに言う。


 まぁ、初めて会った時も、シンは自分で鍛錬をしていたくらいだ。Eクラスである方がおかしなくらいに実力もある。下手な心配はしなくても良さそうだ。むしろ、自分自身に危機感を持たなければいけないだろう。



「あとはなんか聞きたいことはあるか?」


「僕のやつみたいに他クラスの人のログって見れるの?」



 俺は真っ先に情報を挙げた。


 やはり情報は重要である。俺もフレイアからの情報があるからこそ、もしもの事態でも対応出来ている場面が多い。あるのとないのでは戦況も、動き方も大きく変わってくる。



「あぁ。ログは基本的にブースの魔法石から見ることができる……だが、Eクラスだから優先順位は最後になる。今日みたいな早朝か、消灯時間直前に行くのが限界だろう」


「……分かったそうする」



 俺はシンの言葉を聞きながら内心げんなりした。ここまで差別が徹底されていると、流石にうんざりしてしまう。

 ただでさえ、夜はフレイアへの報告があって忙しい。そうなると早朝になる訳だが、今日は朝食を抜いてわざわざ来ているのだ。おかげで、眠いだるい腹減った……気分は最悪である。そう何度もこんな日があってたまるか。


 そう叫んでしまいたいが、そんな訳にもいかない事態である。俺は渋々と言った感じで受け入れて見せた。



「残りの問題があるとすれば、練習場所の確保だな。特にルウシェはある意味有名人だから、下手に動いて魔法のことがバレたら終わりだぞ」


「この間の所はもう使えないのか……個室で練習とかはできないの?」


「いや、二、三人での練習ができる個室はあるけど数が少ない。ほとんどA、Bクラスの上位層に占領されてる。俺らは愚かCクラス(テオドゥロ)でさえお断りだろうな」


「そうか……」


「まぁ、場所が確保できるまでは基礎練習だな」



 シンがそう告げると、ホログラムに目を戻した。俺とテオドゥロの映像を消し、再び操作する。今度はアカデミーの一ヶ月の予定などが書かれているカレンダーや、一日のタイムスケジュールが書かれたものが出現する。


 これから、試験までの日程の確認と、Aクラス入りのプランを練るのだろう。俺はこの一ヶ月間の裏のプランを考えながら、シンと話を続けた。


 話し合いは使用時間ギリギリまで続いた。



いかがだったでしょうか。



感想、評価等は随時募集しております。作者のモチベに繋がります。


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