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あなたを殺す為に恋をする  作者: drink
一章 昇格試験
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1-4 エイルの役割

明日は午後10に投稿したいと思います。よろしくお願いしますm(_ _)m


 テオドゥロは俺との間合いを走って詰める。俺も合わせてゆっくり走った。そして、互いが手の届きそうな間合いにまで近づく。



「くらぇ! ゴラァ!」



 テオドゥロはチャンスとばかりに、拳に魔力を纏って振るった。


 刹那、俺はさらにもう一歩間合いを詰めた。それも先程とは異なる最大加速でだ。世界が変わる。テオドゥロの拳がゆっくり動く。砂埃が舞い散る中、奴の表情もハッキリと読み取れた。あいつの目は俺の方向を向いていない。俺の動きを追いきれてないのだ。


 勝った。そう思わずにはいられなかった。


 おそらく、こいつとは魔力量も、技術も、対して変わらない。体格や筋肉などは明らかに相手の方が上である。


 しかし、それでも俺の方が強いと確信した。実力差は僅か、紙一重である。だが、それは現時点では覆せない絶対量的な差であった。


 それでも、まだ足りない。


 Aクラスに行くにはもっと力を誇示しなければいけない。俺の第六感がそう告げている。


 まずは挨拶替わりに魔力弾──無属性の魔力の塊──を杖から唱える。が、テオドゥロはぎりぎりのタイミングで魔力弾を振り払った。Cクラスのトップクラスの名も伊達ではない。こんなものでは魔力の装甲は無傷で終わってしまう。


 俺もバランスを崩し後退するテオドゥロに、更に一歩踏み込んだ。



「──っ!? ちょこまかと動きやがって! うぜぇんだよ!!」


 

 かかった!


 無理矢理な体勢から放たれた、腰の入っていない右ストレート。これを待っていた。怒りと焦りが生み出した最大の悪手である。面白いくらいに引っかかってくれる。後は手筈通りに魔法を発動させて、チェックメイトだ!


 俺は特殊な演算を組んで魔法を発動させる。そして、テオドゥロの懐に杖を伸ばした。


 その間、たった一回の瞬きをした。


 一コマの場面が切り替わる──テオドゥロの拳が、俺の脇腹にめり込んでいた。


 弾ける音と鈍い音が体の内側から響いた。さらにもう一コマで、体が地面に叩きつけられていた。


 仰向けになり、天を仰ぐ。ジャリジャリとした舌触りと土の味がした。もはや脇腹は痛みを通り越して感覚がない。痛みがないせいか、視界がぼやける中で思考はハッキリしていた。



 " 魔法自体は発動していた "。なのに効いていなかった?



 疑問が脳裏を巡る。混乱を一つずつ整理していくと、忘れかけていたある可能性を思い出した。さらに紐解いていくと、それは段々現実味を帯びていった。まさか──いや、でもそれしかない。ずっと裏の世界にしかいないから完全に思考から抜け落ちていたのだ。


 この任務に対する絶望と後悔を噛み締める。


 これもう駄目かもしれねぇ。


 俺は半ば現実逃避気味に意識を手放した。

 




「お前、絶対分かってて教えなかったろ」



 学生寮にある一室で、俺は机に置いた通信用の魔法石に話しかけた。ここは俺の部屋であるが、盗み聞きされるかもしれないことを考慮して、小声で言った。


 通信相手はもちろんフレイアである。



「んー? なんのことかしら? 心当たりがあり過ぎてわからなぁい」



 確信犯は猫なで声でそう供述した。明らかに煽りに来てやがる。こういう時こそ冷静な判断を、とロキに言われていたが、今回ばかりは例外だと自分に言い聞かせた。



「編入先がよりにもよってEクラスなこと! 俺の魔法の発動条件を分かってて、あえて(・・・)俺に依頼したこと! その他諸々、せめて一つくらい教えろ──っいだぁ!?」



 徐々にヒートアップし、おもわず魔法石に食いつきながら喋っていたが、怪我をした脇腹がズキッと痛む。思わず、椅子の上で一回飛び跳ねた。


 保健室で治療はして貰ったものの、完全には治っていない。先生が言うには肋骨がいくつか逝かれていたらしい。それがくっついただけマシか。


 その様子が俺の声で分かったのか、フレイアは若干笑い声が漏れていた。腹を抑えて必死に堪えている姿が容易に想像できる。


 なんか無性に腹が立ってきた。



「......ププッ、その様子だと格下相手にボロカスに殺られたって訳ね。スパイス的雑魚キャラに調子こいて、結果的に負けフラグになったってところかしら」


「うっせ、笑うな!」


「否定はしないんだぁ♪」



 俺は黙りこくってしまった。否定も何も、どこかで観察されてるかってくらい当たってやがる。この沈黙を肯定と受け取ったのか、フレイアは再び笑い声をあげた。今度はケラケラとはっきりと聴き取れる。


 こいつと話すと調子狂う。魔法石に音が届かない程度にため息を吐いた。


 これ以上の無駄話はどうしようもない。負けた感じがして癪だが、それよりも聞きたいことが沢山ある。



「それよりも、質問の答えを早く言え」


「話を逸らしたわね…...まぁいいわ。答えは簡単よ。Eクラスなのは話題性のためで、あなたに依頼したのは適任があなただけだったからよ」


「前者はまだ分かるが、後者は他にもいただろ」


「誰?」



 フレイアは少し…...いやかなり機嫌の悪そうに言葉を吐き捨てた。彼女にしては珍しいことである。



「いや、誰とは言えないけど……」



 ここで俺は言葉が詰まった。


 言えないというか、答えられるわけがない。俺ら反逆者(フェアレーター)は基本的にロキとフレイアから指示されて動いているだけである。つまり、メンバーの名前や情報は2人しか知らないのである。


 理由は詳しく分からないが、捕まったときに情報の流出などを最小限に留めるとか、そんな所だろう。


 フレイアは何故かイライラしていた。コツ、コツ、コツ、と速いテンポで机を指で小突いたような音がする。もはやこれは比喩ではない。現に、彼女はそうしているに違いない。



「あなた、反逆者(フェアレーター)での役割を覚えてる?」



「......実行者、主に反逆者の名前を広めるための広告担当」


「そう。あなたは実行者であって、情報屋や脚本家ではない。それは私やロキの仕事よ。あなたは自分の仕事だけを全うすればいいの。それだけは忘れないで」



 要は「お前は指示通りに動けばいい。余計な詮索はするな」ということらしい。


 言われてみれば、ここ最近は命令にない行動をするのが多くなった。今回の決闘だってそうだ。確かに決闘して勝った方が利益はある。だが、やらない決断もあったはずだ。少なくとも昔の俺なら、指示があるまで予定外の戦闘はしなかった。


──だからって、わざわざそこまで言うか?


 ふと、そんな考え頭をよぎる。しかし、今そんな話をするのは無粋だ。出かかった疑問を飲み込んで話を進めた。



「了解」


「分かればよし。あ、あと、暗殺するにあたって条件もあるのよ」


「あー、それも気になったんだわ。資料に詳しく書いてなかったし。で、その内容は?」


「あなたが彼女の恋人になって殺すのよ!」


「......は?」



 頭が真っ白になった。俺は聞き間違いをしたのかも知れない。そうであってくれ。そんな僅かな望みを込めて、聞き返した。



「だーかーらー! あなたが、シャルロッテと、付き合うの! それから殺して」


「冗談にしては笑えないんだけど......」



 無慈悲にも望みはいとも容易く打ち砕かれた。俺の耳は正常であったらしい。異常なのはこいつの頭だ。



「冗談でも何でもないし、これはロキと話し合って決めたことよ。勿論、異論は認められないわ。

 最後に今日の11時頃学校の外へ見回りしといて。じゃあね!」


「おい! ......ったく、切りやがった」



 一方的に通信を切られた。ロキの指示であると言われたらやるしかない。本当に今回の任務はいつもと何か違う。数多の潜入任務の中でも飛び抜けて面倒くさい。これなら、魔法騎士団と鬼ごっこしてた方がまだマシだ。


 それにしても急に機嫌を悪くしたり、言葉を濁したり、あいつは一体どうしたのだろうか?



「ってか、もう11時になるし......」



 部屋の時計は既に10:50を指している。さっさと見回りをする準備をしなければならない。


 俺は思考を一旦止め、部屋着から制服へと着替える。ペン型の杖やナイフ一式を懐、腰、袖口などの様々な所に詰め込んだ。簡単な隠蔽工作としてベットをクッションで膨らませ、ロウソクの火を消した後、俺は窓から外へ出た。


 もやもやした感覚を未だに振り切れないまま......



いかがだったでしょうか。



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