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あなたを殺す為に恋をする  作者: drink
一章 昇格試験
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1-3 特訓と差別と決闘

今日の午後10時にも投稿します。よろしくお願いしますm(_ _)m




「ここが第二闘技場だ」



 シンに案内された第ニ闘技場は、圧倒されるような広さを誇っていた。闘技場と言っても、王都グリュックにあるコロシアムとは違い観客席がない。シンプルなレンガの積まれた壁に、木の骨組みと皮で出来たドーム型の屋根、後はほの暗い明かりが灯されているだけだ。


 ただ、広い建物が確保されているという感じであった。


 本当に自主練習をするためだけの施設なのだろう。壁や天井に魔法のかかった札が申し訳程度に貼られている。幾ら何でも安っぽくないか?



「思ったより対魔法の設備が甘くない?」


「まぁな、ここはEクラスからCクラスまでしか使えないから、大した魔法使うわけでもないし。Aクラス、Bクラスまで行くとそれなりの設備が必要だけど」


「徹底した差別だね。んで、他のクラスの奴らもいるみたいだけど、これはなんで?」



 授業がないのはEクラスだけだと思っていたが、そうでもないようだ。その証拠に周りの人の胸に付いているバッチにはDやCと刻まれている。



「クラスごとに授業数も違うんだ。上に行くほど、授業数と先生の数が増えていくシステムでな。他の空いている時間はこうして自主練に充てることが多い」


「なるほど、強い奴にしか時間は割かないって訳か」


「そういうこと」



 大体の事情を把握したところで、改めて周りを見渡す。皆、必死に魔法の練習をしている。その目は執念というか、執着心というか、とにかく必死だった。他の学校なら実力は十分あると言われるだろう。あくまで、この歳での話だが...


 大体、16~18辺りだと、基本的な無属性と呼ばれる魔法が一通り出来、それぞれの属性魔法を鍛える辺りだろうか。このレベルがC、Dクラスだとすると、A、Bクラスはある程度、属性魔法が確立されていると考えるべきだ。


 "厄介だな"。


 

「じゃあ、俺達も練習するか! 始めは基本の"練り"からだな!」



 そう言うと、シンは目を閉じて大きく息を吸う。そして、魔力をゆっくりと周りに放出した。密度の高い魔力は流れるようにシンの体の周りを伝う。あの時、感じた圧力はこれだ。


 魔法の基本ともなる"練り"は属性を付加させていない純粋な魔力を体内で作り、体に纏うことを指す。速く、密度の高い練成が良いとされるが、ここまでしっかりとした練りは中々見ない。


 だからこそ、なぜシンがEクラスに甘んじているのか余計に気になる。だが、今聞くにはリスクがある。もう少し親しくならなければそう聞き出せる内容ではないと思う。


 そんなことを考えていると、シンは少し目を開き、こちらに目配せをする。やれということか。


 俺も目を閉じ、そっと息を吸う。腹の下に力を入れると、そこから上へ上へと魔力がこみ上げてくる。魔力が心臓の辺りへ辿り着いたとき、鼓動が体全体に響いているのを感じた。体が心臓を中心に揺れる。だんだん揺れは大きくなる。振動が最大まで達した時、目を開き、それが合図となって魔力が放出された。


 いつも無意識でやっているため、いざ意識的にやろうとすると細心の注意を払わねばならない。



「おぉ......やるな!」



 シンはやや興奮気味に声を張り上げた。やはり、始めは実力を疑っていたのだろう。先程よりも表情は柔らかくなり、純粋に感嘆していた。


 シンの声に周りからの注目も得る形となった。何にしても、これが昇格試験の布石になれば幸いだ。編入生が魔法が上手いという噂が広まれば、試験官の耳に伝わるかもしれない。教師に会えないのならば、こう言った噂が主な評価にもなり得る。使えるものは最大限に使うに越したことは無い。


 

「さすが編入生! やっぱり魔力の扱いが上手いな」


「まぁな。これくらいしかやること無かったし」


「......? それってどういう──」


「おい! そこの白頭! 邪魔じゃいどけろや!」



 2人の会話の途中で、張り詰めたような野太い声が闘技場に響いた。周りは静まり返り、その声の主へ視線を集める。もちろん俺達もだ。


 白頭とは俺のことだろう。


 そこにはガタイのいい大男が仁王立ちしていた。2メートルほどでとにかくでかい。さらに、太く角のある眉毛や堀の深い顔立ちが、その厳つさを助長させているように見える。


 目くじらを立てる男をよそに、俺はシンの方に口を寄せ、細々とした声を出した。



「誰? シンの友達?」


「いや、あいつはテオドゥロ。Cクラスの3位で、ここでは屈指の実力者だ」


「ふーん」


「なぁに、こそこそ喋っとんじゃあ!!」



 俺達の態度が気に食わなかったのか、はち切れんばかりに眉間にシワを寄せて叫んだ。



「あぁ、すみませんね。で、なんのようですか?」


「じぁからぁ〜! どけ、って言ってんだよ!!」


「いや、場所ならそこらへん空いてるけど......」



 そう言いかけるが、ここで俺はある本の内容がフラッシュバックする。フレイアから借りた本で丁度似たシーンがあったのだ。


 主人公の少年が馬車に轢かれそうな子供を助けて、女神にうんたらかんたら言われて、気がついたら魔法自体が存在しない全くの別世界で学校に通って無双するって言う話だった。


 何とも下らない話だとは思いながらも、全巻読まされた記憶がある。その時の最初の敵キャラがこんな感じだったのだ。フレイアが言うに確かあれは──



「──主人公を際立たせるためのスパイス的雑魚キャラか」


「んじゃとごらぁ!!」



 ついつい、考えていたことが声に出てしまった。


 テオドゥロは青筋を立て、今にも殴り掛かってしまいそうな勢いで怒鳴られる。その余韻が残るように耳がキーンとなった。知らないうちに相手のヘイトが溜まっているのは明らかだった。



「てめぇには一旦立場ってものを分からせてやる」



 テオドゥロはそう言うと、胸ポケットに付いているバッチを外し、俺の目の前にかざした。


 それを見ると周囲はざわつく。シンも慌てた様子で俺とテオドゥロの間に割り込んだ。



「ちょっと待って、ルウシェは今日編入してきたばっかりなんだ。いきなり決闘するのは非常識じゃないか?」


「んなもん知るかい!」



 テオドゥロはシンの肩を掴み、どかすように突っぱねる。本人は軽く押したはずだが、シンは勢いよく転がった。


 どうしようか。このままどうにかやり過ごすこともできそうにない。かと言って、騒ぎにするのもどうかと思う。


 いや、待てよ。


 シンはさっき決闘と言っていた。つまり、これは学校側から認められている正式な殺し合いなのか?だったら、ここで実力の片鱗を見せるのも悪くは無い。テオドゥロには、俺の暗殺成功のためのスパイス的雑魚キャラになって貰おう。



「いいよ。やろうよ、決闘」


「ほら、ルウシェもこう言って......って、え!? お前何言って......」


「結局、Aクラスに行くにはこの程度レベルを軽く越えなきゃいけない。だったら、やって損は無いだろ?」


「そりゃそうだけど......」



 言いたいことはわかる。でも納得はできない。


 この時のシンはそんなことを言いたげな表情だった。俺は尻餅をついたままのシンに手を差し伸べ、立ち上がらせる。そして、テオドゥロのほうを向いた。



「やるならさっさとやろうよ」


「EクラスごときがAクラスに行くやと! ふざけやがって、コテンパンにしてやる!」



 そう言うと、テオドゥロは制服に付いたバッチを前に出す。俺もそれに合わせて胸ポケットのバッチを外し、テオドゥロのバッチに重ね合わせた。


 するとバッチ同士の間で火花が散り、半透明なガラスの様なものが出現した。浮遊したまま1メートル四方まで広がると、そこに「決闘」と文字が現れる。



《決闘の申請を受理しました。なお、一方に新参者(ニュービー)がいるため、初めにルールの説明を行います》



 抑揚ない一定のリズムの声が響く。女性の高い声であること以外は声質からなにも読み込めない。そもそもこれは人の声か?まるでロキのようだ。


 それを聞いた周りの人々は、早々に俺達の周りに広いスペースを作った。やがて、抑揚のない声の主は話を続ける。



《ここでの通常の決闘はフィールド無制限、制限時間10分となっております。また、勝利条件は気絶、降参、その他戦闘不能、いずれかが感知、観測された場合になります。また、殺人、逃亡などは当然禁止となっております。では、1分後に開始いたします》



 決闘という画面から、1分間のカウントダウンへと切り替わる。少し距離をとるテオドゥロに合わせて、俺も2、3歩後退する。


 じゃり、じゃりと土の擦れ合う音が嫌に耳に残る。その場に静止しても、余韻があるように感じた。精神が研ぎ澄まされている。いつもなら気にならない事でも敏感に感じ取られるのだ。体を伝う汗、浅い呼吸、僅かに体毛を逆撫でする風に至るまで、ありとあらゆる五感の情報が脳に流れてくる。



《──3......2......1》



 対峙した俺達は僅かに姿勢を落とす。テオドゥロは銀色の光沢を放つ腕輪に手を添え、俺は万年筆に似た小さな杖を構える。思わず息を飲んだ。



《──決闘始め》



 そして、半透明のガラスが砕けるのを合図に、俺達は地面を蹴った。



いかがだったでしょうか。




感想、評価等は随時募集しております。作者のモチベに繋がります。




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