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あなたを殺す為に恋をする  作者: drink
一章 昇格試験
12/16

1-12 筆記試験

次回は明日の午前8時投稿する予定です!よろしくお願いしますm(_ _)m



 朝日の暖かな光に乗せられて、人々の隙間を掻い潜るように風の波が押し寄せてくる。肌を触る感覚がいつもより敏感になっている。緊張が産毛の先にまで届いているのだ。


 試験当日、掲示板に一日の予定が張り出されていた。俺とシンはそれを見るために早朝から教室棟の入口へと集まっていた。3学年とも別々の場所に張り出されているものの、1つの掲示を1つの学年が見ることになるため、入口付近は非常に混雑していた。


 2人で何とかして人混みをかき分けて、予定を見ることに成功した。俺は羊皮紙とペンを取り出してメモをとる。


「えっと……筆記試験が8時スタートで5科目のテスト。試験時間が50分で休憩が10分ずつ」


「その後、1時間の昼休憩を挟んで最後はずっと実技試験ってか」


「こんな感じだね」



 俺は紙に書いた一日のスケジュールをシンに見せる。


8:00~8:50  数学

9:00~9:50  国語

10:00~10:50 外国語

11:00~11:50 社会

12:00~12:50 魔法学

12:50~13:50 昼休憩

13:50~    実技試験



「そうだな。ちなみに筆記試験は各クラスの教室で行われる」


「ってことは僕達はEクラスでやるのか」



 そう言えば、編入した日以降あのクラスに顔を出したことがない。暗殺対象や使える駒のいないクラスなど微塵も興味もないが、試験中奇怪な目で見られて気が散るのだけは避けたい。



「どーせ試験を受けるのは俺たちだけだろうけどな」



 シンは俺の心中を知ってか知らずかそんなことを口走る。どちらにせよ、不確定要素が幾分削れたのは大きい。



「あっれぇ、君はEクラスのハシントくんじゃあないかァ」



 もうここに用はないので2人で立ち去ろうとした時、誰かがシンに声を掛けた。羽付きの赤いハットを被った細身の男だ。煽るような口ぶりからして、友人関係でないことだけ把握出来た。



「久しぶりだな、ハワード」


「あっれ、あれれ、まだアカデミー辞めてなかったんだァ」


「ねぇシン、この……なんか変わった人誰?」


「ハワード、2年Bクラス10位、貴族、関わるとめんどくさい、それ以上深くは聞くな」


「あ、はい」



 シンの余りにも端的な説明に思わずそう答えた。その顔つきは先程よりもやや疲れて見える。出来れば関わりたくないとはっきりシンの顔が告げていた。


 辺りを見回すと、多くの生徒がこの光景を野次馬根性で注目していた。何人かの生徒の嘲笑がくすくすと耳に届く。大事になる前にここから立ち去りたい。



「あっれれ、前回僕に完膚なきまでに叩きのめされたこと忘れちゃったのかなァ? 聞いたよォ……あれからスランプに陥って一勝もしてないらしいじゃないかァ!」


「そんな昔のこと忘れたね」



 痙攣寸前のしたり顔をするハワードに、シンは鼻で笑って一蹴りした。強がりなのか自信満々なのか、真意は彼のみぞ知る。


 俺は編入する前の彼を知る由もない。どんな過去があって、なぜEクラスにいるのか。彼の謎は一向に尽きない。だが、所詮は任務のための駒であって、そんなことはどうでもいい。今、シンがAクラスを目指している。その方向性が同じという事実で十分だ。



「かつての記録なんて関係ないよね。今日勝てばいいんだから」



 シンへ会話を投げかけるが、挑発の槍はハワードへ向いている。



「あれ、あれ、誰お前……あぁ、なんだ、Cクラスごときに秒殺されてたゴミィか」


「僕達は今日でAクラスになるんだ。足元を見てる暇なんかない」


「……ぷ、ぷぷ、プギァハハハ!! EクラスのゴミィがAクラスに行くって? これは傑作だなァ!」



 薄れた目が豹変して輝き出した。カッと開かれた目は狂った果実が実り始めた証拠だ。俺の言葉に弾けた笑い声が響きわたった。



「ねぇ、聞いた今の?」「無理だろ」「冗談も大概にしろ!」



 熟れた果実の香りは周囲に連鎖して、移っていく。ノイズは乱れに乱れて、大きな不協和音を奏でる。


 俺とシンは無言で互いに見合った。シンの目もその奥に映る俺の目も鋭い。



「これは何の騒ぎですか?」



 凛とした一閃が音を律する。尊く、高貴な、それでいて落ち着いた声が一帯を支配する。乱雑にうごめいていた人々は、無駄のない足運びで綺麗な一本道を作った。俺らと声の主への道が繋がれた。


 彼女と取り巻きは一糸乱れぬ動きでこちらへやってくる。純黒の髪が揺れる度に木の葉がさざめく。



「随分、お話で盛り上がっているようですね。いいことだとは思いますが、ここは今日の予定を見るために来るところです。他の方の邪魔になりますよ」


「シャルロッテ……さん」


「あぁ? あれ、俺は戯言ほざくゴミィ2人を注意してただけですよォ、学年首席様ァ!」


「戯言?」



 シャルロッテはその美貌を崩すことなく聞き返した。



「このEクラスのゴミィ共がAクラスに行くとかほざいてたんですよォ」


「それがどうかしましたか?」


「はぁ? あれ、あっれ」


「上を目指すのは殊勝な心がけですね。そこにAクラスも、Eクラスも関係なありません。私は学年首席として真っ向から勝負するだけです」



 闘志の炎が一瞬揺らめいた。これが彼女のもうひとつの姿。Aクラス首席としての彼女の在り方である。


 だが、どうしてだろう。シャルロッテの瞳の奥底は昨晩よりも酷く弱っていたように感じた。言葉の一つ一つが、自身の脆さをひたすらに隠そうとしている。


 ハワードが予想外の発言に呆然とし、シンがいつもと違う勇ましさに驚き、傍観者が美しさに見とれている中、俺だけはもがき苦しんでる彼女が見えた。その首には心のヒモできつく絞めつけられている。



「Aクラスで待ってます」



 シャルロッテは最後にそう言って、取り巻きたちを連れて立ち去った。昼間の彼女なりの最後の応援だった。


 野次馬は散り散りになって教室棟へ向かう。バツの悪い空気になったハワードも舌打ちを残して歩き出した。俺たちはシャルロッテのおかげで一応は助かった。



「俺たちも行くか」


「うん、そうだね!頑張ろうか」



 いつもの表情でEクラスの教室へ向かう。2羽の小鳥が木の枝を揺らして飛び立った。



 Eクラスの教室ではホドフ先生が既に待っていた。トレードマークのあごひげを指先で弄って遊んでいる。先生が欠伸をすると不揃いな歯が顔を出した。


 教壇の前には椅子と机は2つしかセットされておらず、俺とシンはそれぞれ横並びで座った。



「ほっほ、それでは2人ともこれから筆記試験を始めるとするかの」


「本当に僕達しかいなかった」


「ここはEクラスだからな」



 シンは鼻で笑った。本当に掲示板で言ってた通りになった。Eクラスではそれが普通なのだろう。俺もシンと一緒に鼻を鳴らした。


 ホドフ先生は俺達の話にニヤリと不気味な笑みを浮かべて紙を渡した。表紙には「数学」と書かれている。



「試験時間は50分。カンニング等の不正行為は当然禁止じゃ」



──それでは試験始め



 ホドフ先生の合図と共に俺はペンを走らせた。





【※以下はルウシェ視点で各科目のテストの様子を少しだけ描写していますが、読者さんの中には読みにくく感じる方もいると思います。読み飛ばして頂いてもストーリーに支障はございませんので、各々の判断で進んでください】






【数学】


問一 1/2+1/6+1/12+1/20+1/30+1/42+1/56を求めよ。



 うわ!何だこの腹立つ単純計算は!!こんなの計算のゴリ押しだ。早くしなきゃ時間が無くなる……あれ?これかなり単純な答えになった。もっと楽に解けたのか?


 やば、結構時間使った。次行こ!




問五 2^2019の一桁目を答えなさい。


 なんだこれ?こんなの分かるわけないじゃん。2を2019回掛けるとか何言ってんの?


 あ、でもこれ一桁目だけ出せばいいのか。ってことはわざわざ沢山掛ける必要は無いのか。一桁目だけだけ見て法則性を見つけるんだな。よし、これなら出せそうだ。




……時間足らねぇ



【国語】

次の文章を読んで、以下の問いに答えなさい。



 とりあえず、語彙問題は対策通りのやつが出て何とかなった。あとは読解問題だけだが……これは恋愛小説?


 まぁ、俺が暗殺任務で今やろうとしていることでもある。ここは何とかなるだろう



──やべぇ、全然分からねぇ……



 いいや、次の評論をしっかりやろう。




【外国語】


 ええっと、ニヴルヘイム語において、主語がhciのとき動詞の頭はeになるから……あぁ、男性名詞の定冠詞つけるの忘れてた。危ない危ない。男性名詞の定冠詞をmedにしてっと、これで間違いはないな。


 ニヴルヘイム語は元々ロキに教わってたから、会話程度ならできる。あとは問題の出題方式に慣れてしまえば余裕だったな。


 よし。1周目終わった。まだ、少し時間あるから見直ししとこう。



【社会】


 そ ん な も の は し ら ん!


 ええい!もう分からないやつは勘でマークだ!!


 ギリギリまで詰め込んだ単語だけ早いうちに埋めといて、分からないのは適当に埋めとこう。



【魔法学】




二体間同時魔力回路結合について説明せよ。



 シャルロッテの言う通り、二体間同時魔力回路結合の問題が出てきた。教科書通りの説明と使用用途についても漏らさず記入していこう。


 ここも割と概念的に知ってるやつが多かったから、シャルロッテの言う通り単語と結びつけてしまえばすぐできるな。


 よし、これもあらかた埋め終わったぞ。





「こほん、試験終了じゃ」


「ようやく終わったぁ! たぶん点数は大丈夫だろ。ルウシェはどうだった?」


「今までの中では一番手応えがあったかな」


「お、じゃあ結果は上々だな」





 言ったことは事実だが、点数は正直どうなっているか予想がつかない。でもやることはやった。あとは結果が出ることを願うだけだ。


 俺は一先ずほっとするシンに対して笑顔を作った。







いかがだったでしょうか。



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